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第二章 学院入学編

①勝負しましょう!

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 雲ひとつない青空の下、新入生の入学を祝うための鐘が学院内に響き渡った。
 新品でまだ生地の硬い白いシャツと、紺のブレザーに青いチェックのズボンを身につけて、俺は学院の校門の前に立った。
 ついに皇立貴族学院の入学の日になった。

 ここまで来てしまったと思いながら、なんだか懐かしい感じのする建物を眺めた。
 異世界にいるはずだが、学院の建物は前世風だ。石造りだが、まるでコンクリートでできているような雰囲気で造られている。
 しかしさすが皇国の貴族が通う学校だけあって床が大理石になっていたり、創設当時の皇帝が金ピカの像になって飾られていて、色々と混じっていてよく見ればおかしな作りだ。
 ゲーム内の舞台でもあるので、その他も考えればおかしいところはたくさんあるだろう。

 訓練校時代から一年間を空けて、再び同じ顔が揃うことになる。
 この一年、都を離れている者も多いと聞いた。
 友人との再会に、至る所で久しぶりと肩を叩き合う音と、楽しそうに笑う声が聞こえてきた。

 俺としては色々あった一年だったが、結局交流していたのは三兄弟だけで、ここにいる人間の顔はほとんど分からない。
 三兄弟と知り合う前なら、その方が気楽でいいと思っていたが、誰かと過ごすことの楽しさを知ってしまうと、少しだけ寂しく感じた。

 教室に入ると、見慣れない男の登場に視線が集まった。
 おいあれ……。
 ああ平民上がりのやつだよ。
 そんな言葉が聞こえてきた。

 前世の俺の時は、たいてい周りの人間が話しかけてきてくれた。
 お前の姉ちゃんってあの先輩だろうと、次々と声をかけられた。そういう意味では、姉達のおかげで苦労なく周りと上手くやれていたのかもしれない。

 当初の予定では孤高の秀才眼鏡キャラを目指すはずだったが、今の俺のキャラ作りは完全に迷走してしまった。
 とりあえずいじられキャラでなければ、もう何でもいいと思うようになっていた。
 最初こそ見ない顔だと思われるだろうが、人の興味なんてすぐに終わる。
 明日には誰にも気にされる事はないだろう。

 しかし、心配事が一つあった。
 それは、あの茶会に参加していたやつらだ。
 なんと思われているのか、それが気がかりだった。

 下を向いたまま、静かに自分の席に座ると、足音が近づいて来てた。顔を上げると二人分の制服が目の前に見えた。

「よう、お前見たことあるぞ」

「ラギアゾフ家の茶会に出てただろう。金貸しの息子だってな」

 ふぅ、きたきた。
 まずは相手がどこまで掴んでいるか、冷静に返さなければ……。
 俺は結局秀才眼鏡キャラを復活させることにした。

「そうだけど、何?」

 眼鏡をくいっと持ち上げて、いかにも下等生物とは違うのですという仕草で威嚇してみる。

「あの茶会はさ、イグニス様と親しくなれる機会だったんだよ。あのご兄弟は普段社交界の集まりには一切顔を出されないからね」

「つまりさ、金貸しの息子のせいで、必死に動いていた俺達の努力が台無しになったってわけ」

 よく覚えていないが、イグニスの周りでお茶を交換したり、必死に話しかけていた連中の中に、この二人の姿があった気がする。

「魔物が出たのは俺のせいじゃない」

「だけど、お前を連れてご兄弟達が中へ入ってしまったから、結局茶会はそこで終わってしまったじゃないか!」

「………それは、悪かった」

 ドンっと机を叩かれて大きな音が鳴った。どうやら、軽い謝罪だけで済ましてはくれないらしい。

「貴重な機会だったかもしれないけど、同じクラスなんだし、ここで話しかければいいだろう」

 俺が当たり前のようにそう言ったら、二人の男子生徒はバカにしたように鼻で笑った。

「お前、何も知らないんだな。バカな平民上がりに教えてやるよ。学院では高貴な身分の家の方に話しかけてはいけないんだよ。話していいのは向こうから来ていただけた時だけ」

「これだから平民は。何でこんなバカなやつと一緒のクラスなんだよ。お前、間違えてないか? さっさと帰った方がいいんじゃないのか?」

 二人がケラケラとバカにしたように笑うと、周りも同じように小さな笑いが起きた。

 んー、これではいじられキャラというより、本当にいじめられそうな勢いだ。
 多分この二人はこのクラスの中では中位の権力者の家の息子、周りでつられるように笑ったのは下位の貴族の息子、ということだろう。
 そして自分達には関係ないという顔で教科書を眺めているのが、高位の貴族の息子達だ。
 その高位の中でも最高位の家がラギアゾフ家で、当人のイグニスは新入生代表なのでここにはいない。

 イグニスに出てきてもらって、彼らと話してもらうのが一番早いと思うが、それで果たして解決になるのかと疑問が生まれてしまった。
 これくらいの問題、イグニスがいなくても自分で解決できなければ、この先やっていけないだろう。

「そんなに俺がバカだと思うなら、頭で勝負しようじゃないか?」

「……なんだと?」

 彼らはゲームの中では所詮俺と同じモブ。
 剣や筋肉勝負では勝てる気がしないが、勝ち目のないゲームをするほど、俺はバカじゃない。

「これだ。入学前に暗記するように言われていた皇国六法全書。ちゃんと覚えているか、交互に言い合って、どちらが最後まで間違えずに読めるか勝負しよう。そちらは二人でいいよ。はたして君達にできるかな?」

 口の端を上げて、眼鏡をキランと光らせた。
 これで完璧な秀才眼鏡くんの出来上がりだ。

 ちなみに、文として覚えているが、どういう意味でどういう必要性があるとか問題点はどうとか、そういう詳しいことは分からない。

 完全に俺向きの勝負だが、乗ってきたらこっちのものだ。

「………いいだろう、やってやるよ」

 さすが武を尊ぶ国の男達。勝負と言われたら、断ることができないのだろう。
 男二人は目を血走らせながら身を乗り出してきた。






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