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第二章 街
⑦お兄様達
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ぽたぽたと水が垂れる音かする。
じめじめした牢屋にぴったりの音だが、溜まった雨水が落ちているわけではない。
涙が床に落ちる音だ。
「うおおおおん、レオンーー!」
「俺達はもう終わりだよぉぉ」
「……お二人とも、ちょっと……くっ苦しいです」
レオンはシドの兄達、アイゼンとマーシャルに両側から抱きつかれて、おんおん泣かれていた。
「分かるだろう!優秀すぎる弟を持った兄達の気持ち!」
「何をやっても父はこちらを見てくれなくて、そのうち悪いことやって注目されようとして……、強がってたけど本当は寂しかっただけなんだよぉぉぉ」
「わっ……分かりました!もう、何回も聞いてお二人のことは十分に理解しました。ある意味大変な境遇で道を間違えてしまう気持ちも何となくは……」
準備があるからと言ってアーサーが消えた後、アイゼンとマーシャルはぼろぼろと泣き出した。
つい、可哀想になってレオンは二人の背中を撫でてあげたら、あっという間に二人の間に挟まれて、お坊っちゃまの愚痴と苦労話を繰り返し聞かされながら、泣きじゃくる二人の相手をすることになってしまった。
「レオン!本当にいいやつだな。シドが惚れるのも分かるよ!今までひどいことを言って悪かった」
「ごめんな、シドのやることは気に入らなくて、文句をつけたかったんだよ。それなのに……こんな俺達に優しくしてくれるなんて……、おおおーんおんおん!!」
「もー、いいですから!泣かないでください!とにかく、このままでは大変ですから、どうにかする方法を考えましょう」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をすり寄せられて、しかもそれを服で拭かれるのでレオンはやめてくれと思いながら、何とか打開策がないか考えようとした。
「無理だ……。オークションの商品は、奴隷にされたり、金持ちの慰み者になったりして、使えなくなれば海に捨てられる運命だよ。……もう、俺達は……死んだも同然」
「父には除外届けを何度も出すと言われていたのに……。信じなかった俺達が悪かった……。レオン、シドと幸せになってくれ……俺達の分まで……」
「ちょっ……ちょっと!やめてください!そんなことを言うのは!」
ぼろぼろになって裸で海に放り出される二人を想像して、レオンはぶるりと震えた。そんなことになったらシドも悲しむだろう。
「おい、お前……、アーサー様から指示があった。お前だけ出るんだ」
牢屋の外から声がかかった。見ると、アデルよりももっと幼い男の子が立っていた。幼くても彼も組織の一員なのだろう。
「レオン、みんなに元気でと伝えてくれ……」
「俺の墓にはいい酒を供えてくれ……」
泣きながら俯いている二人を見て、レオンはため息をついた。このまま放り出してはいけないと思ったのだ。
「先ほどの、アーサーという方に頼んでみます。彼なら少しは話を聞いてくれそうですから。どこまで譲歩してくれるか分かりませんがやるだけやってみます」
「レ……レオン」
しくしくと泣き続ける二人を残して、レオンは先に牢屋から出ることができた。
手下の少年に連れられて別室に行くとそこには、大きなソファーに座ったアーサーの姿があった。
「レオンか、そこに座ってくれ」
「はい……」
こんな恐ろしい人を前にして、自分に何ができるのか、どくどくと鳴り出した心臓の動きを感じながらレオンは恐る恐るアーサーの前の席に座った。
「マイルスの件は本人に責任を取らせるつもりだ。色々と迷惑をかけたな、悪かった」
「あ……いえ……分かってくださるならそれで……」
「それで、これからこの上でオークションが開かれるわけだが、せっかくだからお前も見ていけ」
せっかくではないとレオンは泣きそうになったが、ここで切り出さなければもうチャンスはない。意を決して二人の話をすることした。
「あの……その件ですが……、無茶なお願いなんですけど、あの二人を解放してくれるわけにはいかないですか……?」
「…………ほう、なぜだ?」
「実は俺の個人的な知り合いでして……、本人達は大変反省していて、その……遊んでしまった女性にも謝罪を尽くすと言っておりますので……二度とこのようなことはしないと…………」
「…………それを聞いて俺がハイそうですかと言うと思ったのか?」
「は……はい、とても無理なお願いなんですが……そこを何とか……お願いできたらと…………」
部屋の中に気まずい沈黙が流れた。相手はこの辺りの裏社会の大ボスだ。対するレオンは戦闘力ゼロの町人A。鼻息一つでバラバラに弾け飛びそうだった。
「いい案があるぞ、レオン」
まるで追い詰められたネズミのようにびくびくとしているレオンを見て、アーサーはライオンのたてがみのような髪をばさりと後ろに流して、ニヤリと悪い顔で笑った。
「お前がオークションに出るんだ」
「…………あ……え?おっ……俺がですか?」
「心配するな。お前を商品にはしない。何が必要かって、オークションは競りが始まる前のショーが重要なんだ。そこで客のテンションが上がればその後の商品も高値でさばけるわけだ。正直、あの双子のショーでは盛り上がりにかける。お前が出て、双子が暴れて壊した賭場の分を稼げたなら、あの二人は見逃してやってもいい」
「…………ショーって……、その、何か手品とかをするわけでは……ないですよね」
「当たり前だ。ド素人の手品見せられて金を投げるやつがいるか!お前は見たところ北の民の血を引いているな」
「え……?ああ、よく分からないですけど、そうらしいですね」
「古い民で今でも他国の干渉を嫌ってほとんど表には出てこない。雪の妖精の民とも呼ばれていて、特徴的なシルバーブロンドの髪に藍色の瞳。まさにそのままの美しい容姿だ。これは……金になる」
「いっ…………!」
アーサーはニヤついた口元で、鋭い目をしながら、レオンのことを穴が空くようにじろじろと眺めてきた。
その遠慮のないギラギラした視線にレオンは体を後ろに引きつつ、よく分からないショーについて聞かなければと唾を飲み込んだ。
「具体的に……、なにをするのかな……なんて……」
「なに、お前が淫らに喘いでイク姿を観客に見せればいいだけだ。それで、みんなネジがぶっ飛んだみたいに金が舞う。大胆になってみんなをイかせて見せろ」
アーサーの言葉にレオンは大口を開けて魚のようにパクパクと口を動かした。
ショックが大きすぎて何一つ言葉が出てこなかった。
「レオン、お前、後ろの経験は?」
「なっ……ないです!!ないですよ!だっ……だいたい、そういうものは……すっ……好きな人とするものだから!絶対に嫌です」
そうか、なら仕方がないとアーサーはソファーに深くもたれるように背を預けた。
「ショーはあの双子にやらせるしかないな。首に鎖つけて会場を這い回って、とびきりゴツい玩具をぶちこんで、ひいひい言わせながら、尻を叩いてやろう。うちの一番ヤバいやつに担当させるから」
「あ…………うぅ………」
悪い顔をしながら、アーサーは今日の料理を教えるみたいに説明してきた。
助けてあげたいと思ってなんとか交渉に挑んだが、何一ついい方向にいかなかった。
「レオン、お前は、やつらのお知り合いだったな。ショーは俺の隣の特等席で見ろ。しっかり目に焼き付けて帰るんだな」
アーサーが目を光らせながら残酷な微笑みを浮かべた。背筋に寒気がして、すでに汗だくになってしまったレオンだったが、どうしても自分が代わりにやりますとは言えなかった。
二人に申し訳ない気持ちを抱きながら、まだどうにかできないかと、アーサーの足元を見ながら唇を噛みしめたのだった。
□□□
じめじめした牢屋にぴったりの音だが、溜まった雨水が落ちているわけではない。
涙が床に落ちる音だ。
「うおおおおん、レオンーー!」
「俺達はもう終わりだよぉぉ」
「……お二人とも、ちょっと……くっ苦しいです」
レオンはシドの兄達、アイゼンとマーシャルに両側から抱きつかれて、おんおん泣かれていた。
「分かるだろう!優秀すぎる弟を持った兄達の気持ち!」
「何をやっても父はこちらを見てくれなくて、そのうち悪いことやって注目されようとして……、強がってたけど本当は寂しかっただけなんだよぉぉぉ」
「わっ……分かりました!もう、何回も聞いてお二人のことは十分に理解しました。ある意味大変な境遇で道を間違えてしまう気持ちも何となくは……」
準備があるからと言ってアーサーが消えた後、アイゼンとマーシャルはぼろぼろと泣き出した。
つい、可哀想になってレオンは二人の背中を撫でてあげたら、あっという間に二人の間に挟まれて、お坊っちゃまの愚痴と苦労話を繰り返し聞かされながら、泣きじゃくる二人の相手をすることになってしまった。
「レオン!本当にいいやつだな。シドが惚れるのも分かるよ!今までひどいことを言って悪かった」
「ごめんな、シドのやることは気に入らなくて、文句をつけたかったんだよ。それなのに……こんな俺達に優しくしてくれるなんて……、おおおーんおんおん!!」
「もー、いいですから!泣かないでください!とにかく、このままでは大変ですから、どうにかする方法を考えましょう」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をすり寄せられて、しかもそれを服で拭かれるのでレオンはやめてくれと思いながら、何とか打開策がないか考えようとした。
「無理だ……。オークションの商品は、奴隷にされたり、金持ちの慰み者になったりして、使えなくなれば海に捨てられる運命だよ。……もう、俺達は……死んだも同然」
「父には除外届けを何度も出すと言われていたのに……。信じなかった俺達が悪かった……。レオン、シドと幸せになってくれ……俺達の分まで……」
「ちょっ……ちょっと!やめてください!そんなことを言うのは!」
ぼろぼろになって裸で海に放り出される二人を想像して、レオンはぶるりと震えた。そんなことになったらシドも悲しむだろう。
「おい、お前……、アーサー様から指示があった。お前だけ出るんだ」
牢屋の外から声がかかった。見ると、アデルよりももっと幼い男の子が立っていた。幼くても彼も組織の一員なのだろう。
「レオン、みんなに元気でと伝えてくれ……」
「俺の墓にはいい酒を供えてくれ……」
泣きながら俯いている二人を見て、レオンはため息をついた。このまま放り出してはいけないと思ったのだ。
「先ほどの、アーサーという方に頼んでみます。彼なら少しは話を聞いてくれそうですから。どこまで譲歩してくれるか分かりませんがやるだけやってみます」
「レ……レオン」
しくしくと泣き続ける二人を残して、レオンは先に牢屋から出ることができた。
手下の少年に連れられて別室に行くとそこには、大きなソファーに座ったアーサーの姿があった。
「レオンか、そこに座ってくれ」
「はい……」
こんな恐ろしい人を前にして、自分に何ができるのか、どくどくと鳴り出した心臓の動きを感じながらレオンは恐る恐るアーサーの前の席に座った。
「マイルスの件は本人に責任を取らせるつもりだ。色々と迷惑をかけたな、悪かった」
「あ……いえ……分かってくださるならそれで……」
「それで、これからこの上でオークションが開かれるわけだが、せっかくだからお前も見ていけ」
せっかくではないとレオンは泣きそうになったが、ここで切り出さなければもうチャンスはない。意を決して二人の話をすることした。
「あの……その件ですが……、無茶なお願いなんですけど、あの二人を解放してくれるわけにはいかないですか……?」
「…………ほう、なぜだ?」
「実は俺の個人的な知り合いでして……、本人達は大変反省していて、その……遊んでしまった女性にも謝罪を尽くすと言っておりますので……二度とこのようなことはしないと…………」
「…………それを聞いて俺がハイそうですかと言うと思ったのか?」
「は……はい、とても無理なお願いなんですが……そこを何とか……お願いできたらと…………」
部屋の中に気まずい沈黙が流れた。相手はこの辺りの裏社会の大ボスだ。対するレオンは戦闘力ゼロの町人A。鼻息一つでバラバラに弾け飛びそうだった。
「いい案があるぞ、レオン」
まるで追い詰められたネズミのようにびくびくとしているレオンを見て、アーサーはライオンのたてがみのような髪をばさりと後ろに流して、ニヤリと悪い顔で笑った。
「お前がオークションに出るんだ」
「…………あ……え?おっ……俺がですか?」
「心配するな。お前を商品にはしない。何が必要かって、オークションは競りが始まる前のショーが重要なんだ。そこで客のテンションが上がればその後の商品も高値でさばけるわけだ。正直、あの双子のショーでは盛り上がりにかける。お前が出て、双子が暴れて壊した賭場の分を稼げたなら、あの二人は見逃してやってもいい」
「…………ショーって……、その、何か手品とかをするわけでは……ないですよね」
「当たり前だ。ド素人の手品見せられて金を投げるやつがいるか!お前は見たところ北の民の血を引いているな」
「え……?ああ、よく分からないですけど、そうらしいですね」
「古い民で今でも他国の干渉を嫌ってほとんど表には出てこない。雪の妖精の民とも呼ばれていて、特徴的なシルバーブロンドの髪に藍色の瞳。まさにそのままの美しい容姿だ。これは……金になる」
「いっ…………!」
アーサーはニヤついた口元で、鋭い目をしながら、レオンのことを穴が空くようにじろじろと眺めてきた。
その遠慮のないギラギラした視線にレオンは体を後ろに引きつつ、よく分からないショーについて聞かなければと唾を飲み込んだ。
「具体的に……、なにをするのかな……なんて……」
「なに、お前が淫らに喘いでイク姿を観客に見せればいいだけだ。それで、みんなネジがぶっ飛んだみたいに金が舞う。大胆になってみんなをイかせて見せろ」
アーサーの言葉にレオンは大口を開けて魚のようにパクパクと口を動かした。
ショックが大きすぎて何一つ言葉が出てこなかった。
「レオン、お前、後ろの経験は?」
「なっ……ないです!!ないですよ!だっ……だいたい、そういうものは……すっ……好きな人とするものだから!絶対に嫌です」
そうか、なら仕方がないとアーサーはソファーに深くもたれるように背を預けた。
「ショーはあの双子にやらせるしかないな。首に鎖つけて会場を這い回って、とびきりゴツい玩具をぶちこんで、ひいひい言わせながら、尻を叩いてやろう。うちの一番ヤバいやつに担当させるから」
「あ…………うぅ………」
悪い顔をしながら、アーサーは今日の料理を教えるみたいに説明してきた。
助けてあげたいと思ってなんとか交渉に挑んだが、何一ついい方向にいかなかった。
「レオン、お前は、やつらのお知り合いだったな。ショーは俺の隣の特等席で見ろ。しっかり目に焼き付けて帰るんだな」
アーサーが目を光らせながら残酷な微笑みを浮かべた。背筋に寒気がして、すでに汗だくになってしまったレオンだったが、どうしても自分が代わりにやりますとは言えなかった。
二人に申し訳ない気持ちを抱きながら、まだどうにかできないかと、アーサーの足元を見ながら唇を噛みしめたのだった。
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