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第一章 学園
⑲キス
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「はぁぁ……」
レオンは膝を抱えながら深いため息をついた。
レオンとシドヴィスの関係は話し合いの結果、表向きはアデルが一方的に思いを寄せていているということになった。
父親から、その後の連絡がなくてアデルの件を進められないので、とりあえずはそうしておこうと話がまとまった。
しかし、シドヴィスに二人きりの時は、恋人同士でいたいと迫られて、レオンは押しきられるように頷いた。
レオンも自分を受け入れてくれたシドヴィスと、もっと気持ちを通じ合いたいと考えている。ただ経験豊富なシドヴィスにあっという間に手玉に取られてコロコロと甘やかされてしまうのだ。
レオンはずっとシドヴィスとキスがしたいと考えていた。
ミレニアからお付き合いの最初の行為で、喜びで溢れると聞いていたからだ。それなのに、そこはすっ飛ばして、下のあそこを吸われてしまった。最近は二人きりになると、レオンは散々喘がされて最後はぱっくりと咥えられて果ててしまう。シドヴィスはとても嬉しそうにそれを飲み込むので、もう飲まないでと言っても無駄だった。
結局、レオンばかりスッキリして意識がとろとろになって部屋に帰るという繰り返しだった。
自分ばかりという、気持ちが芽生えてきてもどかしいのだ。
かといって、キスがしたいと直接言うのは恥ずかしくて勇気が出ないという、男として非常に不甲斐ないと思いながら、ため息をついて落ち込んでいた。
「アデル、あなたの台詞よ!」
ミレニアに小声で話しかけられてビクリとした。今は劇の練習の最中だということに気がついたのだ。
「あっ……、あっ…あの噂聞いたかしら?隣国のお姫様が眠り続けているって……、どうやら目覚めるには真実の愛のキスが必要みたいだわ」
ビックリするほど棒読みだったので、ミレニアは顔をしかめて、舞台袖にいるクラスメイトからは笑いが起きた。
「ロマンチックな話ね。そんなキスをされたら、私なら一瞬で恋に落ちてしまうわ」
レオンの大根演技は、ミレニアの巧みな名演技ですっかりカバーしてもらい、二人の出演シーンは終わった。
「アデル、うわの空よ。ため息ばかりついて…、いったいどうしたの?」
「ごめん…、集中していなくて……」
「分かった、シドヴィス様のことね。どうしても諦めきれないんでしょう。分かるわぁ、好きになったらもうその人のことしか考えられないのよね……よーし……」
「え?」
何か思いついたらしいミレニアは腕を組んで遠くを見ていた。その後、話しかけても忙しいと言われて走って行ってしまい、レオンはやっぱり女の子の気持ちは分からないと首を傾げたのだった。
□□
あっという間に発表会当日になった。
会場には生徒達の保護者も見に来ているが、レオンの父の姿はなかった。
来てもらっても気まずいので、正直なところそれでホッとしたのだった。
三年生は音楽と歌の発表で、シドヴィスは見事なピアノの演奏を見せてくれた。
二年生は創作ダンスと手品で、ディオは器用に帽子からハトを出していた。
最後が一年生の演目でたくさんの拍手の中、眠り姫の演劇が始まった。
前半は可愛らしいお姫様が隣国の王子とダンスを踊るシーンから始まる。二人は思い合っていたが、王が新しいお妃を城に迎えたとこで、姫の幸せは一変する。
可愛らしい姫を嫌ったお妃は、王の見ていないところで姫をいじめるのだ。
些細なものから、怪我をするようなものまでいじめは続き、ついには隣国の王子に勝手に別れの手紙を出されて縁を切られてしまう。
そして、姫は毒入りスープを飲まされて、ついに永遠の眠りについてしまうのだ。
レオンとミレニアのお城でお喋りする侍女達のシーンも無事終わって、前半が終わり休憩時間になった。ほっと一息つきながら、座って休んでいた。
「おい、マリーヌがいないぞ!」
探せ探せとクラスメイト達が慌ただしく走り出した。どうやら、姫役のマリーヌがいなくなってしまったらしい。
「まだ後半があるのに…、大丈夫なのかな」
「きっと、あれよ。マリーヌ、嫌がっていたから……、一度は納得したけどやっぱり嫌だったのよ」
クラスの女子達がざわざわと騒ぎだした。
「どういうこと?」
レオンがひとりの女子に詳しく聞いてみると、姫役のマリーヌは、どうしてもラストのキスシーンが嫌で、後半だけでも誰かに代わりたいとずっと言っていたそうだ。
学園の劇ではふりではなく、実際にキスをするとうのが伝統としてあるらしい。しかし姫役のイメージにはマリーヌがぴったりで、みんなに押しきられるように決まったのだ。
「ねぇ、後半の衣装は黒のドレスよね、あそこに飾ってあるわ。別の子がやったらいいんじゃない?」
ここで、ミレニアが突然とんでもないことを言い出した。
まさかと言う声が上がったが、周りもいくら探しても見つからないマリーヌを待つより、誰か別の子にしたほうがいいのではないかという空気になってきた。
「でも、マリーヌより可愛いお姫様ができる子って……?」
「背格好は一番アデルが合っていると思うわ」
「うええ!?」
またもや、ミレニアがとんでもない提案をして、レオンは真っ青になった。大根演技の自分が選ばれることなどないと思っていたら、周囲からそれだ!という声が出てきて一気にアデルにしようという流れになってしまった。
「どういうこと?ミレニア、私には無理だって……」
慌ててミレニアを連れ出して、なぜ急にそんなことを言い出したのか、レオンは話を聞くことにした。
「アデル、実はこれ、私が仕組んだのよ」
「はい!?」
「もともと嫌がっていたマリーヌに話を持ちかけて隠れてもらっているの。マリーヌは好きな方がいて、キスシーンは無理なんですって」
「だっ…私だって…!」
「アデル、これはあなたの恋をかけた大勝負よ!いくら好きでも相手にしてくれない男、シドヴィス様に、アデルが他の男に取られてしまうシーンを見せつけるのよ!男性というのはぐいぐい来られるより、取られてしまう状況に燃えるものよ!ここで一気にシドヴィス様の気持ちに火をつけましょう!」
「いやいやいや、そんなことしたら、別の意味で火がついちゃうというか……」
「大丈夫、王子役のルーベンには話をつけてあって、キスは観客に分からないように、特別にフリだけにしてもらう約束だから!」
レオンは困惑でだらだらと汗をかきながら王子役の生徒を見た。王子役のルーベンはニコニコ顔で指を立てて任せろと口を動かしていた
「後半の姫の台詞はラストの、助けてくれてありがとう、愛していますだけ。それまではずっと死体状態だから寝ているだけよ」
でもでもだってと青い顔で抗議をするレオンだったがあっという間に衣装係りに連れていかれてしまった。
なんとか、下着姿だけは誰にも見られないように死守したが、差し迫った状況にみんな目が血走っていて、有無も言えない状態で黒いドレスを着させられてしまった。
谷間が出るようなデザインではなかったことが幸いだった。
着替えさせられたレオンは、すでに時間が過ぎていてざわざわとする舞台に投げ出された。
床に倒れている姫の周りで、精霊達が踊るシーンからスタートだ。
後半開始を告げる司会が、諸事情により姫役の変更があったことを伝えた。
レオンは、ほぼ姫の死体役なので、寝ているだけで目を開けることもできない。先ほどの侍女のシーンでは、一番前でキラキラとした目で見てくるシドヴィスの姿があった。
果たして今どんな顔をしているのか、恐ろしくて逆に目をつぶって良かったと途中から思い始めていた。
花のベッドの上で寝かされたレオンの周りで物語は進行した。
王子はお妃の悪事を暴き、お妃が雇った武装した男達を踊りながらコミカルに倒していく、ついにお妃を監獄送りにして、舞台の上はいよいよ王子と姫のふたりきり、真実のキスをするラストシーンとなった。
シーンを盛り上げるための音楽が鳴り響き、王子役のルーベンがレオンの側にやって来た。音楽が鳴り止んだらいよいよだった。
「……嬉しいよ。実はアデルのこと。可愛いと思っていたんだよね。フリじゃなくて、本当にしちゃうから」
ルーベンが小声で話しかけてきて、レオンの体は驚きで揺れた。
「ばっ…ふざけんな…ダメだって……」
「こら、死体が喋ったらだめだよ。大丈夫、うんと気持ちよくさせてあげる」
押し返して殴ってやろうかと考えたが、それではみんなで作り上げてきた劇が台無しになってしまう。どうすればいいのかと、レオンは震えていた。
ずっと、シドヴィスとしたいと思っていたキスだ。初めては特別なものであるはずだった。それなのに、こんなところでそれを失ってしまうなんてと涙が溢れてきた。
そこで、音楽が鳴りやんだ。それを合図として、ルーベンの上半身がレオンの上にのし掛かってきた。せめて、顔をそらそうとしたが、顎を掴まれてしまい顔が動かせなくなってしまった。
苦しさに声が出そうになったとき、ルーベンの顔が近づいてくる気配がした。
レオンは絶望の気持ちで唇を中に入れるようにして力を込めたのだった。
□□□
レオンは膝を抱えながら深いため息をついた。
レオンとシドヴィスの関係は話し合いの結果、表向きはアデルが一方的に思いを寄せていているということになった。
父親から、その後の連絡がなくてアデルの件を進められないので、とりあえずはそうしておこうと話がまとまった。
しかし、シドヴィスに二人きりの時は、恋人同士でいたいと迫られて、レオンは押しきられるように頷いた。
レオンも自分を受け入れてくれたシドヴィスと、もっと気持ちを通じ合いたいと考えている。ただ経験豊富なシドヴィスにあっという間に手玉に取られてコロコロと甘やかされてしまうのだ。
レオンはずっとシドヴィスとキスがしたいと考えていた。
ミレニアからお付き合いの最初の行為で、喜びで溢れると聞いていたからだ。それなのに、そこはすっ飛ばして、下のあそこを吸われてしまった。最近は二人きりになると、レオンは散々喘がされて最後はぱっくりと咥えられて果ててしまう。シドヴィスはとても嬉しそうにそれを飲み込むので、もう飲まないでと言っても無駄だった。
結局、レオンばかりスッキリして意識がとろとろになって部屋に帰るという繰り返しだった。
自分ばかりという、気持ちが芽生えてきてもどかしいのだ。
かといって、キスがしたいと直接言うのは恥ずかしくて勇気が出ないという、男として非常に不甲斐ないと思いながら、ため息をついて落ち込んでいた。
「アデル、あなたの台詞よ!」
ミレニアに小声で話しかけられてビクリとした。今は劇の練習の最中だということに気がついたのだ。
「あっ……、あっ…あの噂聞いたかしら?隣国のお姫様が眠り続けているって……、どうやら目覚めるには真実の愛のキスが必要みたいだわ」
ビックリするほど棒読みだったので、ミレニアは顔をしかめて、舞台袖にいるクラスメイトからは笑いが起きた。
「ロマンチックな話ね。そんなキスをされたら、私なら一瞬で恋に落ちてしまうわ」
レオンの大根演技は、ミレニアの巧みな名演技ですっかりカバーしてもらい、二人の出演シーンは終わった。
「アデル、うわの空よ。ため息ばかりついて…、いったいどうしたの?」
「ごめん…、集中していなくて……」
「分かった、シドヴィス様のことね。どうしても諦めきれないんでしょう。分かるわぁ、好きになったらもうその人のことしか考えられないのよね……よーし……」
「え?」
何か思いついたらしいミレニアは腕を組んで遠くを見ていた。その後、話しかけても忙しいと言われて走って行ってしまい、レオンはやっぱり女の子の気持ちは分からないと首を傾げたのだった。
□□
あっという間に発表会当日になった。
会場には生徒達の保護者も見に来ているが、レオンの父の姿はなかった。
来てもらっても気まずいので、正直なところそれでホッとしたのだった。
三年生は音楽と歌の発表で、シドヴィスは見事なピアノの演奏を見せてくれた。
二年生は創作ダンスと手品で、ディオは器用に帽子からハトを出していた。
最後が一年生の演目でたくさんの拍手の中、眠り姫の演劇が始まった。
前半は可愛らしいお姫様が隣国の王子とダンスを踊るシーンから始まる。二人は思い合っていたが、王が新しいお妃を城に迎えたとこで、姫の幸せは一変する。
可愛らしい姫を嫌ったお妃は、王の見ていないところで姫をいじめるのだ。
些細なものから、怪我をするようなものまでいじめは続き、ついには隣国の王子に勝手に別れの手紙を出されて縁を切られてしまう。
そして、姫は毒入りスープを飲まされて、ついに永遠の眠りについてしまうのだ。
レオンとミレニアのお城でお喋りする侍女達のシーンも無事終わって、前半が終わり休憩時間になった。ほっと一息つきながら、座って休んでいた。
「おい、マリーヌがいないぞ!」
探せ探せとクラスメイト達が慌ただしく走り出した。どうやら、姫役のマリーヌがいなくなってしまったらしい。
「まだ後半があるのに…、大丈夫なのかな」
「きっと、あれよ。マリーヌ、嫌がっていたから……、一度は納得したけどやっぱり嫌だったのよ」
クラスの女子達がざわざわと騒ぎだした。
「どういうこと?」
レオンがひとりの女子に詳しく聞いてみると、姫役のマリーヌは、どうしてもラストのキスシーンが嫌で、後半だけでも誰かに代わりたいとずっと言っていたそうだ。
学園の劇ではふりではなく、実際にキスをするとうのが伝統としてあるらしい。しかし姫役のイメージにはマリーヌがぴったりで、みんなに押しきられるように決まったのだ。
「ねぇ、後半の衣装は黒のドレスよね、あそこに飾ってあるわ。別の子がやったらいいんじゃない?」
ここで、ミレニアが突然とんでもないことを言い出した。
まさかと言う声が上がったが、周りもいくら探しても見つからないマリーヌを待つより、誰か別の子にしたほうがいいのではないかという空気になってきた。
「でも、マリーヌより可愛いお姫様ができる子って……?」
「背格好は一番アデルが合っていると思うわ」
「うええ!?」
またもや、ミレニアがとんでもない提案をして、レオンは真っ青になった。大根演技の自分が選ばれることなどないと思っていたら、周囲からそれだ!という声が出てきて一気にアデルにしようという流れになってしまった。
「どういうこと?ミレニア、私には無理だって……」
慌ててミレニアを連れ出して、なぜ急にそんなことを言い出したのか、レオンは話を聞くことにした。
「アデル、実はこれ、私が仕組んだのよ」
「はい!?」
「もともと嫌がっていたマリーヌに話を持ちかけて隠れてもらっているの。マリーヌは好きな方がいて、キスシーンは無理なんですって」
「だっ…私だって…!」
「アデル、これはあなたの恋をかけた大勝負よ!いくら好きでも相手にしてくれない男、シドヴィス様に、アデルが他の男に取られてしまうシーンを見せつけるのよ!男性というのはぐいぐい来られるより、取られてしまう状況に燃えるものよ!ここで一気にシドヴィス様の気持ちに火をつけましょう!」
「いやいやいや、そんなことしたら、別の意味で火がついちゃうというか……」
「大丈夫、王子役のルーベンには話をつけてあって、キスは観客に分からないように、特別にフリだけにしてもらう約束だから!」
レオンは困惑でだらだらと汗をかきながら王子役の生徒を見た。王子役のルーベンはニコニコ顔で指を立てて任せろと口を動かしていた
「後半の姫の台詞はラストの、助けてくれてありがとう、愛していますだけ。それまではずっと死体状態だから寝ているだけよ」
でもでもだってと青い顔で抗議をするレオンだったがあっという間に衣装係りに連れていかれてしまった。
なんとか、下着姿だけは誰にも見られないように死守したが、差し迫った状況にみんな目が血走っていて、有無も言えない状態で黒いドレスを着させられてしまった。
谷間が出るようなデザインではなかったことが幸いだった。
着替えさせられたレオンは、すでに時間が過ぎていてざわざわとする舞台に投げ出された。
床に倒れている姫の周りで、精霊達が踊るシーンからスタートだ。
後半開始を告げる司会が、諸事情により姫役の変更があったことを伝えた。
レオンは、ほぼ姫の死体役なので、寝ているだけで目を開けることもできない。先ほどの侍女のシーンでは、一番前でキラキラとした目で見てくるシドヴィスの姿があった。
果たして今どんな顔をしているのか、恐ろしくて逆に目をつぶって良かったと途中から思い始めていた。
花のベッドの上で寝かされたレオンの周りで物語は進行した。
王子はお妃の悪事を暴き、お妃が雇った武装した男達を踊りながらコミカルに倒していく、ついにお妃を監獄送りにして、舞台の上はいよいよ王子と姫のふたりきり、真実のキスをするラストシーンとなった。
シーンを盛り上げるための音楽が鳴り響き、王子役のルーベンがレオンの側にやって来た。音楽が鳴り止んだらいよいよだった。
「……嬉しいよ。実はアデルのこと。可愛いと思っていたんだよね。フリじゃなくて、本当にしちゃうから」
ルーベンが小声で話しかけてきて、レオンの体は驚きで揺れた。
「ばっ…ふざけんな…ダメだって……」
「こら、死体が喋ったらだめだよ。大丈夫、うんと気持ちよくさせてあげる」
押し返して殴ってやろうかと考えたが、それではみんなで作り上げてきた劇が台無しになってしまう。どうすればいいのかと、レオンは震えていた。
ずっと、シドヴィスとしたいと思っていたキスだ。初めては特別なものであるはずだった。それなのに、こんなところでそれを失ってしまうなんてと涙が溢れてきた。
そこで、音楽が鳴りやんだ。それを合図として、ルーベンの上半身がレオンの上にのし掛かってきた。せめて、顔をそらそうとしたが、顎を掴まれてしまい顔が動かせなくなってしまった。
苦しさに声が出そうになったとき、ルーベンの顔が近づいてくる気配がした。
レオンは絶望の気持ちで唇を中に入れるようにして力を込めたのだった。
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