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番外編■エヴァン編&キーラン編
キーラン×キース③
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週末のパーティー以来、キーランの態度が明らかに変わった。
元々がクールな印象が強い人なので、些細な変化が気になるし、周りから集まる視線にも現れている。
一言で言うと、懐かれたという感じだ。
「キース、あれやってくれよ」
「……え…またやるの?」
頼むよと言われると断りきれずにキースはキーランの肩に手をかけた。
「もっと強く?」
「あ…いいな、そうそんな感じ…」
「……何してんの?お二人さん」
クラスの誰もが口にしたかったであろう疑問を投げてきたのは、やはりエヴァンだった。
「キースに肩を揉んでもらってるんだ」
「何それ?」
「キーランが疲れが溜まって肩が痛いって言ってたから、手で揉んであげると楽になるんだよ」
教室の席でキーランの肩を揉んでいるキースを不思議な顔でエヴァンは見てきた。
前世では親子の交流みたいな場面でおなじみだった肩揉みだが、この世界ではそういった習慣はないらしい。
最初、キーランが辛そうにしていたので、キースはよかったらと提案した。
何をされるのかと嫌そうな顔をしていたキーランだったが、一度やってあげたらすっかりハマってしまったらしく、度々お願いされることになってしまった。
しかもその事により、なんだか距離も近くなってしまい……。
「はい、終わり。もうだいぶ柔らかくなったし、手が疲れたよ」
キースが終わりを宣言すると名残惜しそうな顔をしたキーランはそそくさと座席をくっ付けてキースに椅子に座れと言ってきた。
そしてキースが椅子に座ると、隣に座ってキースの肩に頭を乗せてきた。
まるで通勤電車で隣に座るリーマンが寝てしまい寄りかかってきた構図とよく似ている。
「……はっ?今度はなんだよ…?」
ここ数日、家の都合でお休みしていたエヴァンが驚くのも分からなくない。キースとキーランの間ではすっかりおなじみになってしまった昼寝だ。
このところ、昼食後はキーランの肩揉みをして、それが終わるとキーランはキースにもたれて寝るというよく分からないルーティンが続いていた。
どうやら、肩揉みをされると眠くなるらしい。キーランは家ではほとんど寝れないと聞いていたので、それを聞いたらだめだとは言えなくなってしまい今に至る。
「おい、キーラン!本気で寝てるの!?キース、嫌なら嫌って言った方がいいよ。俺から注意しようか?」
「うー…ん、とりあえず今のところは特に俺もやる事ないから大丈夫…。キーラン寝れてないみたいだから力になってあげたいし……」
キースはいいヤツすぎるよと言ってエヴァンは頭を掻いた。
家庭の事情というのを少し覗いてしまったからか、キースはキーランが他人に対して築いていた壁の内側に入り込んでしまったみたいだった。
肩揉みや昼寝はまだ序の口で、その内側に入った者にキーランは驚くような態度で接してきた。
「キース、どこに行くんだ?」
移動教室なので廊下を歩いていたら後ろから声をかけられた。バタバタと走ってきたのはキーランで、慌てたようにキースの手を掴んできた。
「置いていくなんてひどいじゃないか」
「え…別に約束してないし……」
「友達だろう。ちゃんと連れて行ってくれよ」
あの他人に対して冷淡なタイプのキーランが完全に別人になってしまった。
この人は誰だろうと驚きながらキーランを見ると、キーランは嬉しそうに口の端を上げて微笑んできた。
「ど…どうしたんだよ、キーラン。最近なんか別人みたいだよ」
「ああ、なんか自分でもおかしいと思うけど、キースにはなんかだか甘えたいんだ」
「あ…甘え……」
キーランの家庭環境を見たら確かに幼い頃から誰かに甘える事なく生きてきたのだろうと想像できる。だからこそ誰かにそれを求めていたのだろうか。
自分はデロデロに甘やかされたいと言っていたレナールの言葉を思い出した。
キーランはそんなレナールの好みのタイプとは反対で……。
「俺のことで怒ってくれたキースといると、ホッとするというか、心が穏やかになるんだ……だから、側にいて欲しい」
キーランは置いて行かれた幼な子のような瞳でキースを見つめてきた。
自分より背も大きくて体格のいい男になぜ甘えられているのか分からないが、そんな目をされたらキースは冷たく突き放すことができなかった。
「分かったよ…。ほら…」
自分でもなぜかよく分からなかったが、キーランの事が可愛く思えてしまい、キースは背伸びして頭を撫でてあげた。
キーランの顔がぱっと晴れたようになったので、キースもまた嬉しくなった。
不思議な関係だったが、悪くはないなと思いながらキースはキーランと手を繋いで歩き出したのだった。
「おめでとうキース、ついにあの男と付き合うことになったのね」
夜、自分の部屋で机に座って本を読んでいたら、突然入ってきたレナールがドカッとベッドに座っていきなりそんな事を言い出した。
「は!?き…急になんだよ。付き合うって…誰のこと?」
「こっちが、は!?よ!あんだけキーランと校内でイチャついててどう考えても付き合ってるとしか思えないし、皆そういう目で見てるわよ」
確かにこのところ、どこへ行くのも何をするにもキーランと一緒で、やたらベタベタとしてくるので困るくらいだった。
さすがに自分でも友達ってこうだっけと疑問に持ち始めていたところだった。
「それは…仲はいいけど、別に付き合っているわけじゃ……懐かれているというか…甘えられているというか…」
「でた!!ツンデレというかデレデレキャラ!でもさすがに手は出してないみたいね。いかにも堅物の優等生らしいわ。ゲームでも唯一清いお付き合いのままエンドを迎えるのよ。キスすらしなかったから、ファンからはかなり非難の声があったわね」
「だから、別に付き合ってるわけじゃないし、ゲームのエンドとか……」
「面白いわね。当時の私も気に入らないルートだったのよ。所謂製作陣の手抜きってやつね。掻き回してやろうじゃない!どろどろの18禁ルートに!」
「はい!?何の話?」
レナールの目がギラギラと光って、若菜の頃の表情に戻っているように見えた。何か思いついたように、ベッドから立ち上がって部屋から出て行ってしまった。
残されたキースは唖然としながら、閉まったドアの音を聞いていた。
「と、言うわけだから今日は僕に付き合ってね」
休み時間、レナールは突然キースのクラスに顔を出した。
呼び出されて何のことかとキースが近づいていくと、今日の帰りに行きたい場所があるから付き合って欲しいと言われた。
レナールの買い物に付き合うのはよくあることなので、改めて呼び出さなくてもと思ったのだが、キースはブルームーンという店に行くからと名前まで教えてきた。
「大事な用なんだ。うちの父親が関わっていてさ。キースも手伝って欲しいんだ」
「ラムジール伯爵が?分かった」
お世話になっている伯爵の繋がりであれば、キースも行かなくてはいけない。去り際にレナールは何故かキースの頬に顔を寄せてきた。やけに近いなとキースが離れようとした時、耳元でキーランに聞かれたら店の名前も教えておいてと言ってきた。
何が言いたいのか聞き返すこともできずに、レナールはスッと離れて自分の教室に帰って行ってしまった。
変なやつだと首を傾げながらキースが自分の先まで歩いて行くと、隣の席のキーランが腕を掴んできた。
「どうしたの?」
「…………さっき」
「え?」
「キスされてなかったか?」
「は……ええ!?」
何をどう見たらそんな事になるのかよく分からなかったが、レナールが顔を寄せた時、この先の角度から見たらそう見えたのかもしれない。
キーランはひどく不機嫌そうな顔で、キースを見てきた。誤解をされているという状況に何故か胸が騒いだ。キーランに変に思われたらと思うと焦る気持ちで手に汗が出てきてしまうほどだった。
「お…俺とレナールは、そういう関係じゃないよ。遠縁のラムジール伯爵にはお世話になって、同じタウンハウスにいるけど、友人…というか…姉……じゃなくて、兄弟みたいな存在なんだ」
「………兄弟か」
キーランはまだ腑に落ちないようだったが、小さくため息をついて、分かったと言って笑ってくれた。
これじゃ恋人同士の痴話喧嘩みたいだと思いながらも、誤解が解けてキースはほっと胸を撫で下ろした。
キーランはまだキースの腕を掴んだままで、そのまま引き寄せてきたので、キースは体勢を崩してキーランの膝の上に向き合うように座り込んでしまった。
「うわっ…な…なに?」
「いいだろう。俺達、仲良いんだし。キースとくっ付いていたい」
「えええ……だって……」
キースのわずかな抵抗もむなしく、キーランはキースをぎゅっと抱きしめて、キースの胸に顔をうずめてきた。
「俺……ああいうのはいやだ。ただの兄弟みたいなヤツでも、キースにあんなに近づくなんて」
「あの時は…話があったみたいで、耳打ちしてきたんだよ」
「話?」
「そう、放課後一緒に行って欲しいところがあるみたいなんだ。伯爵の仕事の関係?だと思うけど、ブルームーンってお店だって」
「!?」
店の名前を聞いたキーランは体をビクッと揺らして、キースを抱きしめる力を強めた。急に強さが増したので、キースが苦しいと声を上げようとした時、ちょうどトイレに行っていたエヴァンが帰ってきた。
「え?え?なっ、何事?ていうか、この男は本当に俺の知っている幼馴染のキーランなの?」
エヴァンが驚くのも無理はない。キースが周りを見渡しても、クラスメイト達も変な夢でも見ているような顔をしていて、誰一人受け入れている人はいない。
キースだって、突然幼児化したみたいなキーランに戸惑っているのだ。
しかし、キーランは他の人間には前と変わらない態度で接するので、キースは戸惑いながらも少し嬉しく感じていた。
自分だけ特別に懐かれたような感覚は、甘くてとろんとした気持ちにさせれくれた。
しかし、今のキーランは店の名前を聞いた途端、ギリギリとキース抱き殺す勢いで締めてくるし、エヴァンが間に入ってやっと離してくれたと思ったら、ギラギラとした鋭い目になって黙り込んでしまった。
とても話しかけられる雰囲気ではなくなってしまい、何か怒らせるようなことでもしてしまったのだろうかとキースの心臓はチクリと痛んだ。
結局そのまま放課後になり、キーランは先に飛び出すように教室から出て行ってしまった。
サヨナラの挨拶もできなかったことが、小さいことながらキースにはショックだった。
仕方ないと溜息をつきながら、隣のクラスへと向かったのだった。
□□□
元々がクールな印象が強い人なので、些細な変化が気になるし、周りから集まる視線にも現れている。
一言で言うと、懐かれたという感じだ。
「キース、あれやってくれよ」
「……え…またやるの?」
頼むよと言われると断りきれずにキースはキーランの肩に手をかけた。
「もっと強く?」
「あ…いいな、そうそんな感じ…」
「……何してんの?お二人さん」
クラスの誰もが口にしたかったであろう疑問を投げてきたのは、やはりエヴァンだった。
「キースに肩を揉んでもらってるんだ」
「何それ?」
「キーランが疲れが溜まって肩が痛いって言ってたから、手で揉んであげると楽になるんだよ」
教室の席でキーランの肩を揉んでいるキースを不思議な顔でエヴァンは見てきた。
前世では親子の交流みたいな場面でおなじみだった肩揉みだが、この世界ではそういった習慣はないらしい。
最初、キーランが辛そうにしていたので、キースはよかったらと提案した。
何をされるのかと嫌そうな顔をしていたキーランだったが、一度やってあげたらすっかりハマってしまったらしく、度々お願いされることになってしまった。
しかもその事により、なんだか距離も近くなってしまい……。
「はい、終わり。もうだいぶ柔らかくなったし、手が疲れたよ」
キースが終わりを宣言すると名残惜しそうな顔をしたキーランはそそくさと座席をくっ付けてキースに椅子に座れと言ってきた。
そしてキースが椅子に座ると、隣に座ってキースの肩に頭を乗せてきた。
まるで通勤電車で隣に座るリーマンが寝てしまい寄りかかってきた構図とよく似ている。
「……はっ?今度はなんだよ…?」
ここ数日、家の都合でお休みしていたエヴァンが驚くのも分からなくない。キースとキーランの間ではすっかりおなじみになってしまった昼寝だ。
このところ、昼食後はキーランの肩揉みをして、それが終わるとキーランはキースにもたれて寝るというよく分からないルーティンが続いていた。
どうやら、肩揉みをされると眠くなるらしい。キーランは家ではほとんど寝れないと聞いていたので、それを聞いたらだめだとは言えなくなってしまい今に至る。
「おい、キーラン!本気で寝てるの!?キース、嫌なら嫌って言った方がいいよ。俺から注意しようか?」
「うー…ん、とりあえず今のところは特に俺もやる事ないから大丈夫…。キーラン寝れてないみたいだから力になってあげたいし……」
キースはいいヤツすぎるよと言ってエヴァンは頭を掻いた。
家庭の事情というのを少し覗いてしまったからか、キースはキーランが他人に対して築いていた壁の内側に入り込んでしまったみたいだった。
肩揉みや昼寝はまだ序の口で、その内側に入った者にキーランは驚くような態度で接してきた。
「キース、どこに行くんだ?」
移動教室なので廊下を歩いていたら後ろから声をかけられた。バタバタと走ってきたのはキーランで、慌てたようにキースの手を掴んできた。
「置いていくなんてひどいじゃないか」
「え…別に約束してないし……」
「友達だろう。ちゃんと連れて行ってくれよ」
あの他人に対して冷淡なタイプのキーランが完全に別人になってしまった。
この人は誰だろうと驚きながらキーランを見ると、キーランは嬉しそうに口の端を上げて微笑んできた。
「ど…どうしたんだよ、キーラン。最近なんか別人みたいだよ」
「ああ、なんか自分でもおかしいと思うけど、キースにはなんかだか甘えたいんだ」
「あ…甘え……」
キーランの家庭環境を見たら確かに幼い頃から誰かに甘える事なく生きてきたのだろうと想像できる。だからこそ誰かにそれを求めていたのだろうか。
自分はデロデロに甘やかされたいと言っていたレナールの言葉を思い出した。
キーランはそんなレナールの好みのタイプとは反対で……。
「俺のことで怒ってくれたキースといると、ホッとするというか、心が穏やかになるんだ……だから、側にいて欲しい」
キーランは置いて行かれた幼な子のような瞳でキースを見つめてきた。
自分より背も大きくて体格のいい男になぜ甘えられているのか分からないが、そんな目をされたらキースは冷たく突き放すことができなかった。
「分かったよ…。ほら…」
自分でもなぜかよく分からなかったが、キーランの事が可愛く思えてしまい、キースは背伸びして頭を撫でてあげた。
キーランの顔がぱっと晴れたようになったので、キースもまた嬉しくなった。
不思議な関係だったが、悪くはないなと思いながらキースはキーランと手を繋いで歩き出したのだった。
「おめでとうキース、ついにあの男と付き合うことになったのね」
夜、自分の部屋で机に座って本を読んでいたら、突然入ってきたレナールがドカッとベッドに座っていきなりそんな事を言い出した。
「は!?き…急になんだよ。付き合うって…誰のこと?」
「こっちが、は!?よ!あんだけキーランと校内でイチャついててどう考えても付き合ってるとしか思えないし、皆そういう目で見てるわよ」
確かにこのところ、どこへ行くのも何をするにもキーランと一緒で、やたらベタベタとしてくるので困るくらいだった。
さすがに自分でも友達ってこうだっけと疑問に持ち始めていたところだった。
「それは…仲はいいけど、別に付き合っているわけじゃ……懐かれているというか…甘えられているというか…」
「でた!!ツンデレというかデレデレキャラ!でもさすがに手は出してないみたいね。いかにも堅物の優等生らしいわ。ゲームでも唯一清いお付き合いのままエンドを迎えるのよ。キスすらしなかったから、ファンからはかなり非難の声があったわね」
「だから、別に付き合ってるわけじゃないし、ゲームのエンドとか……」
「面白いわね。当時の私も気に入らないルートだったのよ。所謂製作陣の手抜きってやつね。掻き回してやろうじゃない!どろどろの18禁ルートに!」
「はい!?何の話?」
レナールの目がギラギラと光って、若菜の頃の表情に戻っているように見えた。何か思いついたように、ベッドから立ち上がって部屋から出て行ってしまった。
残されたキースは唖然としながら、閉まったドアの音を聞いていた。
「と、言うわけだから今日は僕に付き合ってね」
休み時間、レナールは突然キースのクラスに顔を出した。
呼び出されて何のことかとキースが近づいていくと、今日の帰りに行きたい場所があるから付き合って欲しいと言われた。
レナールの買い物に付き合うのはよくあることなので、改めて呼び出さなくてもと思ったのだが、キースはブルームーンという店に行くからと名前まで教えてきた。
「大事な用なんだ。うちの父親が関わっていてさ。キースも手伝って欲しいんだ」
「ラムジール伯爵が?分かった」
お世話になっている伯爵の繋がりであれば、キースも行かなくてはいけない。去り際にレナールは何故かキースの頬に顔を寄せてきた。やけに近いなとキースが離れようとした時、耳元でキーランに聞かれたら店の名前も教えておいてと言ってきた。
何が言いたいのか聞き返すこともできずに、レナールはスッと離れて自分の教室に帰って行ってしまった。
変なやつだと首を傾げながらキースが自分の先まで歩いて行くと、隣の席のキーランが腕を掴んできた。
「どうしたの?」
「…………さっき」
「え?」
「キスされてなかったか?」
「は……ええ!?」
何をどう見たらそんな事になるのかよく分からなかったが、レナールが顔を寄せた時、この先の角度から見たらそう見えたのかもしれない。
キーランはひどく不機嫌そうな顔で、キースを見てきた。誤解をされているという状況に何故か胸が騒いだ。キーランに変に思われたらと思うと焦る気持ちで手に汗が出てきてしまうほどだった。
「お…俺とレナールは、そういう関係じゃないよ。遠縁のラムジール伯爵にはお世話になって、同じタウンハウスにいるけど、友人…というか…姉……じゃなくて、兄弟みたいな存在なんだ」
「………兄弟か」
キーランはまだ腑に落ちないようだったが、小さくため息をついて、分かったと言って笑ってくれた。
これじゃ恋人同士の痴話喧嘩みたいだと思いながらも、誤解が解けてキースはほっと胸を撫で下ろした。
キーランはまだキースの腕を掴んだままで、そのまま引き寄せてきたので、キースは体勢を崩してキーランの膝の上に向き合うように座り込んでしまった。
「うわっ…な…なに?」
「いいだろう。俺達、仲良いんだし。キースとくっ付いていたい」
「えええ……だって……」
キースのわずかな抵抗もむなしく、キーランはキースをぎゅっと抱きしめて、キースの胸に顔をうずめてきた。
「俺……ああいうのはいやだ。ただの兄弟みたいなヤツでも、キースにあんなに近づくなんて」
「あの時は…話があったみたいで、耳打ちしてきたんだよ」
「話?」
「そう、放課後一緒に行って欲しいところがあるみたいなんだ。伯爵の仕事の関係?だと思うけど、ブルームーンってお店だって」
「!?」
店の名前を聞いたキーランは体をビクッと揺らして、キースを抱きしめる力を強めた。急に強さが増したので、キースが苦しいと声を上げようとした時、ちょうどトイレに行っていたエヴァンが帰ってきた。
「え?え?なっ、何事?ていうか、この男は本当に俺の知っている幼馴染のキーランなの?」
エヴァンが驚くのも無理はない。キースが周りを見渡しても、クラスメイト達も変な夢でも見ているような顔をしていて、誰一人受け入れている人はいない。
キースだって、突然幼児化したみたいなキーランに戸惑っているのだ。
しかし、キーランは他の人間には前と変わらない態度で接するので、キースは戸惑いながらも少し嬉しく感じていた。
自分だけ特別に懐かれたような感覚は、甘くてとろんとした気持ちにさせれくれた。
しかし、今のキーランは店の名前を聞いた途端、ギリギリとキース抱き殺す勢いで締めてくるし、エヴァンが間に入ってやっと離してくれたと思ったら、ギラギラとした鋭い目になって黙り込んでしまった。
とても話しかけられる雰囲気ではなくなってしまい、何か怒らせるようなことでもしてしまったのだろうかとキースの心臓はチクリと痛んだ。
結局そのまま放課後になり、キーランは先に飛び出すように教室から出て行ってしまった。
サヨナラの挨拶もできなかったことが、小さいことながらキースにはショックだった。
仕方ないと溜息をつきながら、隣のクラスへと向かったのだった。
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