愛とか恋とかのゲームは苦手です

朝顔

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番外編■エヴァン編&キーラン編

キーラン×キース①

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 キース・ハルミングがこの学校に入学した目的は人脈作りだ。キースは下位の貴族の三男で、すでに兄達は忙しく働いている。
 王立学校卒業者に与えられる騎士団の入団資格を得ること、もしくは高位の貴族と知り合って仕事を紹介してもらうこと。
 キースだけでなく、同じような立場で同じような事を考えている者はたくさんいた。
 その中でも自分は運が良かったとキースはしみじみ考えていた。

 遠縁のラムジール伯爵の厚意で王立学校に入学して三ヶ月が経った。
 もう一つの目的である、同じ転生者である友人のレナールの恋を助けるというものは、相手の王子が初っ端から不登校という状態で頓挫してしまった。

 本来は恋愛が目的のこのゲームの世界で、キースはレナールの助けもあって友人を作ることに成功した。
 初めはぎこちなく接していたが、最初に仲良くなったエヴァンとキーランとは、気兼ねなく冗談を言い合えるくらいの関係になった。
 クラスメイトとも徐々に打ち解けて、たくさんの友人に恵まれた。
 前世では友人と呼べるような関係を誰一人として築くことができなかった。
 この異世界に転生してキースは心から楽しいと思えるような日々を送っていた。

 クラスの中は先日行われた新入生歓迎のイベントで優勝したカップルの話で持ちきりだった。
 キースはパーティーだけ軽く参加したが、大変な盛り上がりで、さすがゲームのイベントだと驚きながらただ眺めていた。
 ゲームの主役のレナールも参加しないという不思議なイベントだった。
 優勝カップルは幸せになるというジンクスがあるらしく、みんな羨ましいと口々に話していた。

「……くだらない」

 小さい声だったが、隣の席に座っているキーランからボソリと溢れたそれをキースはしっかり聞き取ってしまった。
 何かツッコむべきかと思ったが、エヴァンと違いキーランには言葉選びに気を使う必要があった。
 初対面ではかなり冷たい印象で、そこから比べたら仲良くなれた方だと思うが、いまだ本質が掴めないというか、どこまで踏み込んでいいのか分からなくなることが多い。
 チラリとキーランの様子を盗み見た。

 艶のある黒髪は今日も崩れる事なく、後ろに撫で付けてビシッと整えている。銀フレームの眼鏡の奥に浮かぶ青い瞳はエヴァンと同じ系統の色だが、ここまで違うのかというくらい同じ青でも違いがある。
 晴れた空のようなエヴァンの瞳と違い、キーランは深海を思わせる深いブルー、黒に近い色をしていた。
 まるでその瞳は何も映したくないというような拒絶の色に見えて、最初は怯えたものだった。

「なんだよキーラン、聞こえたぞ。本当は羨ましいくせに、お前もさっさと恋人作れよ」

 結局前の席に座っていたエヴァンが後ろを向いて、キーランに声をかけた。やはりそこは幼馴染である。こんな風に軽めに揶揄っても、キーランは全く表情を変えない。つまり、不快には感じないのだろう。キースにはまだその線引きが難しくて、仲の良い二人が羨ましかった。

「必要ないね。特定の相手なんてウザったいだけだ。遊ぶには事欠かないし、適当に発散できればいいよ」

 この意見にはエヴァンも呆れたのか黙ってしまった。だからキースが、えっと小さく驚いた言葉がやけに目立ってしまい、キーランもエヴァンもキースの方に顔を向けてしまった。

「なんだよ、キース。お子様には刺激が強かったか?」

「なっ…!べっ…べつに驚かないし!」

「じゃあなんで変な声出したんだ?」

 本当はあまりに恋愛に対して軽薄な考えに驚いたのだが、お子様と言われたらキースにだって男のプライドがある。素直に認めるのが悔しくなった。

「い…一緒だなと、思ってさ!」

「は?何が?」

「俺も…その、キーランと同じ意見だったから…変な声が出ただけだよ」

 この苦しすぎる言い訳をどう捉えたのか、キーランもエヴァンも目を丸くしてポカンと口を開けてしまった。

「ぷぷっ…、キースが?本当にキーランと同じ考えなの?」

 先に噴き出して反応したのはエヴァンだった。それはそうだろう、どう見てもお子様なキースが恋愛疲れしたような意見を言ってもとても似合わなかった。
 しかし、一度口にしたからには、違うと認めるのがどんどん悔しくなった。キースはぐっと体を乗り出してこれでもかと百戦錬磨の遊び人みたいな顔をして見せた。

「そうだよっ…!遊ぶだけの関係なんて何人もいるし!は……発散してるよ、俺だって」

 ジゴロな男を気取って見せたが、あまりに似合わなすぎたのだろう、キーランもついに噴き出して、エヴァンと二人で腹を抱えて笑い出してしまった。
 キースは恥ずかしくて真っ赤になり、小さくなって自分の席で丸くなった。

「あー、可愛い。キースはそのままでいて欲しいな」

 エヴァンに髪の毛をよしよしと撫でられたが、キースは仲間に入りたくてバカをやってしまったと下を向いたまま恥ずかしさに耐えていた。
 しかし、そんなキースを見て、面白いことでも思いついたのか、キーランがニヤリと笑った。

「じゃあさ、経験豊富なキースにお願いしようかな」

 まだ何か続くのかとキースがおずおずと顔を上げると、普段表情筋が固まっている男が、楽しそうに目を細めて笑っていた。

「週末、ウチのパーティーに来てくれよ。恋人を連れてこいってウザったく言われていてさ。変に勘違いされると困るから嫌だったけど、キースなら上手く演じてくれそうだから、俺の恋人役をやってくれよ」

「へ?…こ…恋人…役?」

 経験豊富なキースくんなら簡単なことだろうとキーランがニヤニヤと笑ったので、キースもカチンときて火がついてしまった。

「いい…よ、やってやろうじゃん!任せておけよ。ご家族にうるさく言われないように、完璧な恋人を演じてやるから!」

 机にガッと手を乗せて立ち上がって宣言すると、キーランはこれは頼もしいと笑ってきてますますカチンとした。エヴァンは間に立って心配そうにおろおろとしていた。

 何故こんなことになってしまったのか、やってやると熱くなる自分と、バカな約束をしてしまったと嘆く冷静な自分が、キースの頭の中でせめぎ合ってパンクしそうだった。





「はぁ?メディウス家のパーティーに行く?恋人のフリして!?」

 恒例の帰りの馬車での報告会で、レナールは大口を開けて叫んだ後、大きなため息をついた。
 まぁこうなることは予想していた反応なので、キースも下を向いたままため息をついた。

「挑発に乗ったってワケ?男って本当呆れるわね」

 そういうレナールだってもう男のはずだが、芯の部分には若菜がいるのだろう。
 容赦ない意見にキースは上から叩かれたようにヘコんだ。

「言い出したらもう引き返せなかったんだよ。でも、フリだからさ。別に難しいことじゃないだろうし……」

「はぁ…、二人揃って子供だわ。攻略対象者のエヴァンとキーランと仲良くなったって聞いた時から嫌な予感していたけど、まさか…キーランとね……」

 なんだか含みのある言い方が気になってキースはレナールの方へ顔を向けた。
 呆れた顔をしたままのレナールは、何か考えているのか眉間に皺を寄せた。

「前に言ってた属性?だったよな。キーランはレナールの好みのタイプとは違うんだっけ?」

「そうよ、真逆」

「真逆?クセあるとは聞いていたけど…、俺様?とかドSとかいう強そうなタイプだから?」

「それは…見た目はそんな感じだけど、それならそれで別にいいのよ。でも実際は……」

 キースはごくりと喉を鳴らしながらレナールの言葉の続きを待った。
 何故こんなにキーランについて知りたいのか分からなかったが、これからの関係に役立つのではないかと思ったのだ。

「……言いたくない。口にするのもおぞましい。キモい」

「は!?」

 キースはレナールが何を言っているのか理解できなくて、一瞬固まってしまった。すぐにその意味を問いただしたのだが、それっきりレナールは口をつぐんで黙り込んでしまった。
 パーティーに行く前にゲームでのキーランについて聞いておきたかったのに、結局何一つ使えそうな情報を得ることはできなかった。



 メディウス家は歴代、国の宰相を務める由緒正しき優秀な家系で、現在キーランの父親も国王の下で働いている。
 そんな家で開かれるパーティーなんて、国の重鎮が名を連ねていて、キースのような田舎の貧乏貴族など完全にお呼びでない。
 首都でありながら広大な敷地を所有し、どこまでも続く大邸宅、キースは入り口ですでにビビってしまい足が震えるのを隠しながらなんとか本宅のパーティー会場までたどり着いた。

 引くに引けなくなり、レナールに言わせると男の変なプライドのせいで、よく分からないパーティーに参加することになった。
 しかもキーランからは普通に制服でくればいいからと適当な説明しか受けていない。

 周りは着飾った大人ばかりで浮いているとしか思えない。恋人のフリとしか聞いていないが、上手くできるのだろうかとキースは招待客にの多さに酔って、緊張で吐きそうになりながら立ち尽くしていたのだった。



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