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(19)残された大仕事
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ノエル達が連れてこられた牢屋は、運ばれたときに見たかぎりだと王城から少し離れたところにあると思われた。
ガチャガチャと建物の扉がこじ開けられて、パカンと爽快な音を立てて開け放たれた。
エジリンの兵士達とは違う、武装した男達がドカドカと入ってきた。
「待たせたな、ヴァレリー」
「ふん、遅すぎるぞ。チェイス」
チェイスと呼ばれた男は手際よく牢の鍵を壊した。どうやら、ヴァレリーの仲間らしい。
「私達はもともと、仲間と一緒に各地を移動しながら暮らしていたの。父とここに留まってからも連絡を取り合ってたのだけど、最近の不穏な動きを感じて、何かあったときは助けに来てくれるように仲間を集めていたのよ」
アリーナが説明してくれて、なんとなく事態が理解できた。ヴァレリーは別の組織に属していて、戻る機会を待っていたということらしい。
「おっと、そちらは?」
チェイスが牢屋から一緒に出てきた、ノエルとカインを見て驚いたように言った。
「ああ、ベイクルートの王子様とその恋人だ」
「まっ…厄介なモンを……、どうするんだよ!連れていけねーぞ!」
チェイスが、顔を歪めて騒ぎ出したのを、軽く手を上げてカインが制した。その姿は、優雅な王子そのものだった。
「ご心配なく、俺達はこのまま王城に向かいます。王と話す約束があるので。あっ、馬をもらえますか?のんびり歩いている時間が惜しいのです。早急に恋人とやらないといけないことがありまして」
カインはいつもの調子に戻り、完璧な微笑みで語った。
ヴァレリーとその一味は皆なんのことかと、口を開けてぽかんとしていて、ノエルだけが、真っ赤な顔をして唾を喉につまらせてゲホゲホとむせていたのだった。
□□
ヴァレリー達と別れて、ノエルとカインは馬に乗って王城へ向かっていた。
剣も使えなければ乗馬も出来ず、使い物にならないノエルはカインの前に乗せられている。
さすがに役立たず過ぎてノエルは悲しくなってきた。
「大丈夫ですか?いくらなんでも薄汚れた男二人、不審者にしか見えないと思いますけど…」
「それは大丈夫。もともと、ヴァレリーの仲間が来なければ、牢屋番に訴えて出してもらうか強硬手段に出る予定だったからほぼ予定通り進んでいる。ほらあそこだ」
カインが指差した方向には、見慣れた国旗が掲げられた一行の姿があった。
兵士達の列の後、馬車が連なって続いていた。
「あっ!あれは……」
高台から見下ろす二つの影に気づいたのか、馬車が止まりその中からエドワードが飛び出てきた。
馬に乗ったまま坂を下りて、馬車の近くまで来ると、エドワードの懐かしい顔が見えてノエルは安堵した。
「ノエル!良かった。怪我はない?少し痩せたね、でも元気そうだ」
「ごめんね、心配おかけしました」
白い軍服を着たエドワードがぎゅうぎゅうと抱きしめてくるので、汚れが移ってしまいそうでノエルは気が気ではなかった。
「こらエド、そこまでだ。まだやることが山積みだ。のんびりしていられないぞ」
そのまま、エドワードが乗っていた馬車に乗せられて、ノエルが連れ去られた後の話を聞くことになった。
「大変だったんだから!兄さん、荒れて荒れて。挙げ句の果てに、一人でエジリンに行って探すとか言い出して、まー止めたんだけど聞かなくてさ。とりあえず、レティシア騙すために兄さんは引きこもってるってことにして、後から兄さんとして俺がエジリンに向かうから、それまでにノエルを見つけて王城の近くで待ち合わせようってことで……。こんな、ザルみたいな作戦でよく上手くいったよね……本当」
「エジリンに入って、内通者からレティシアの側近のヴァレリーについて話を聞いたんだ。どうやら、王城とは別の場所でなにかをしているらしいところまで掴んだ。彼はパーティーにも来ていたから、恐らくノエルの面倒を見ていると思ったが、なかなかその場所が掴めなくてね。ギリギリだったが、間に合っただろう」
のんびりと外を眺めている間に皆が自分を思って動いてくれていたことに感動して、ノエルは少し泣けてきてしまった。
「まだ一仕事残っているよ。今度は大物だから気を引き締めていかないとね」
カインはノエルを抱き寄せて、おでこにキスをした。
「大物って……、もしかして……」
「今度はただの兵士じゃないよ。エジリン国王、フィランジオ三世だ。さぁて、我々は無傷で帰れるかな」
カインが楽しそうに笑って、恐ろしいことを言った。
少しも楽しい気持ちになんてなれなくて真っ青になるノエルの耳元でカインは、早く二人になりたいねなどと場違いな台詞を吐いてくるので余計に混乱してしまう。
「ノエル心配しないで、兄さんは怖いことを言うから…、これからは政治の話だよ。今のところうちとエジリンは友好関係があるから、そこの王子に酷いことをしたら戦争になるでしょう…」
「もう酷いことをされてるけどね。俺とノエルは臭い牢屋に閉じ込められて、危うくそこでノエルと…」
「わーーーーーー!!!!!」
ノエルが突然の大きな声を出してカインの口を手で塞いだので、エドワードは何事かと驚いていたが、その先に続く言葉の予想がついたので、こんなところでサラリと言われたらとてもじゃないが恥ずかしくていられなかった。
「というか、夜までいるつもりじゃなかったんですよね!ヴァレリーとアリーナの前でもあんなこと言って…」
カインの目が細められて、塞いだ手の奥でくつくつと笑う気配がした。手を離すとバレたかと言いながら楽しそうに笑うカインの姿が見えて、ノエルは呆れて言葉を失った。
どうやらこの一か月でノエルをからかうという面倒な性格が身についてしまったらしい。
「仕方がないよ。ノエルをからかうと楽しくて、コロコロ変わる顔をみるのが愛しくてたまらないんだ」
また大胆なことを言うので、今度は赤くなって煙が出そうになったノエルを見てカインは笑いながらその頭を抱き寄せて愛しそうに撫でた。
「ちょっとお二人さん、イチャつくのは構わないけど、もう到着するよ。はぁ、レティシアがどんな顔をして待っているのか…、恐ろしいよ」
「ああ、悪い魔女にはお仕置きをしないとね。ついでに俺の可愛いノエルを自慢してこよう」
事態はそんなカインが冗談を言うほど軽いものではないはずなのだが、カインはまったく緊張する素振りがない。ノエルは何が起きるのか、恐ろしい想像ばかりが浮かんできて、心配で鳴り響く心臓を強く押さえたのであった。
□□
エジリンの王城に入ると汚れていたノエルとカインはすぐに清められて、新しい服を着せられた。
カインは正装である黒の軍服を着用した。普段の甘さの漂う雰囲気から変わり、男らしく精悍な姿にノエルの目はくぎ付けになった。惚けたように見つめていると、カインにクスクスと笑われてしまったほどだ。
「大丈夫、心配しないで。早く二人になれるように、さっさと終わらせるから」
カインは緊張しない様子でそんなことを言うので、逆にノエルの緊張の方が高まっていった。
支度が終わると間もなくして謁見の間に呼ばれて、カインは堂々と入っていった。
ノエルとエドワードは観覧用に用意された一段下がった端のスペースで成り行きを見守ることになった。
王が部屋に入ってくると空気が変わったのが分かった。皆下を向いたまま合図があるまで下を向いていたが、ピリピリとした空気にノエルはすでに吐きそうになっていた。
「ベイクルートの王子よ。遠いところ、よく来てくれた。元気そうだな、嬉しく思うぞ」
王が口を開いたのが合図で、皆やっと顔を上げることができる。
壇上の王座に座っているのは、レティシアの父親である、フィランジオ三世、現エジリンの国王だ。
レティシアと同じ銀の髪と深海のような瞳を持っている。老いてはいるが若い頃は血気盛んで他国に攻めいったとされるその鋭さが、目に残っているように見えた。
「お久しぶりでございます。フィランジオ様は最近はアネイの方まで手を伸ばされているとお聞きしております。ますます、エジリン国が発展していく姿、私も勉強させていただきたいです」
「うむ、それでは早速だが、娘のレティシアのことだ。書簡はすでに届いているだろう。今日ここへ来てくれたのは、了承したと受け取っていいのだろうか」
壇上の端からレティシアがするりと音を立てずに登場した。
「カイン様、会いに来て頂けたのですね。嬉しいですわ。やっと私との婚約を受けていただけるのですね」
今日は彼女が好んでいるらしい青いドレスを身に纏っている。歩いてくるときに、白い足がかなり上の方まで見えて、ノエルもドキリとした。
ずっと膝をついていたカインはするりと立ち上がった。
そして、口元に完璧な笑みを浮かべてレティシアに顔を向けた。
「申し訳ございません。残念ですが、今日は直接レティシア様に申し出をお断りさせていただきに来たのです」
「なっ…」
王からの直接の申し出であっても、きっぱりと断ったカインに部屋の中の空気は騒然となった。
「……嘘よ!嘘!カイン様は私を愛していると言ってくださったのよ、お父様!私はカイン様でないと嫌よ!絶対認めないわ!」
レティシアが最後の足掻きとまでに、でたらめな事を言い出した。泣きながら訴える娘の言葉に父ならば動いてしまうのではないかと思われた。
「……我が娘に、そんな言葉を向けて、その気にさせておいて、断るというのか……」
エジリン王の怒気をはらんだ声に、周りの兵達が武器に手をかけるのが分かった。
一触即発の空気の中をどう切り抜けるのか、すでに心臓が止まりそうなノエルは、祈るような気持ちでカインの背中を見つめていた。
そして、カインは迷うことなく、エジリン王を見据えて口を開いた。
□□□
ガチャガチャと建物の扉がこじ開けられて、パカンと爽快な音を立てて開け放たれた。
エジリンの兵士達とは違う、武装した男達がドカドカと入ってきた。
「待たせたな、ヴァレリー」
「ふん、遅すぎるぞ。チェイス」
チェイスと呼ばれた男は手際よく牢の鍵を壊した。どうやら、ヴァレリーの仲間らしい。
「私達はもともと、仲間と一緒に各地を移動しながら暮らしていたの。父とここに留まってからも連絡を取り合ってたのだけど、最近の不穏な動きを感じて、何かあったときは助けに来てくれるように仲間を集めていたのよ」
アリーナが説明してくれて、なんとなく事態が理解できた。ヴァレリーは別の組織に属していて、戻る機会を待っていたということらしい。
「おっと、そちらは?」
チェイスが牢屋から一緒に出てきた、ノエルとカインを見て驚いたように言った。
「ああ、ベイクルートの王子様とその恋人だ」
「まっ…厄介なモンを……、どうするんだよ!連れていけねーぞ!」
チェイスが、顔を歪めて騒ぎ出したのを、軽く手を上げてカインが制した。その姿は、優雅な王子そのものだった。
「ご心配なく、俺達はこのまま王城に向かいます。王と話す約束があるので。あっ、馬をもらえますか?のんびり歩いている時間が惜しいのです。早急に恋人とやらないといけないことがありまして」
カインはいつもの調子に戻り、完璧な微笑みで語った。
ヴァレリーとその一味は皆なんのことかと、口を開けてぽかんとしていて、ノエルだけが、真っ赤な顔をして唾を喉につまらせてゲホゲホとむせていたのだった。
□□
ヴァレリー達と別れて、ノエルとカインは馬に乗って王城へ向かっていた。
剣も使えなければ乗馬も出来ず、使い物にならないノエルはカインの前に乗せられている。
さすがに役立たず過ぎてノエルは悲しくなってきた。
「大丈夫ですか?いくらなんでも薄汚れた男二人、不審者にしか見えないと思いますけど…」
「それは大丈夫。もともと、ヴァレリーの仲間が来なければ、牢屋番に訴えて出してもらうか強硬手段に出る予定だったからほぼ予定通り進んでいる。ほらあそこだ」
カインが指差した方向には、見慣れた国旗が掲げられた一行の姿があった。
兵士達の列の後、馬車が連なって続いていた。
「あっ!あれは……」
高台から見下ろす二つの影に気づいたのか、馬車が止まりその中からエドワードが飛び出てきた。
馬に乗ったまま坂を下りて、馬車の近くまで来ると、エドワードの懐かしい顔が見えてノエルは安堵した。
「ノエル!良かった。怪我はない?少し痩せたね、でも元気そうだ」
「ごめんね、心配おかけしました」
白い軍服を着たエドワードがぎゅうぎゅうと抱きしめてくるので、汚れが移ってしまいそうでノエルは気が気ではなかった。
「こらエド、そこまでだ。まだやることが山積みだ。のんびりしていられないぞ」
そのまま、エドワードが乗っていた馬車に乗せられて、ノエルが連れ去られた後の話を聞くことになった。
「大変だったんだから!兄さん、荒れて荒れて。挙げ句の果てに、一人でエジリンに行って探すとか言い出して、まー止めたんだけど聞かなくてさ。とりあえず、レティシア騙すために兄さんは引きこもってるってことにして、後から兄さんとして俺がエジリンに向かうから、それまでにノエルを見つけて王城の近くで待ち合わせようってことで……。こんな、ザルみたいな作戦でよく上手くいったよね……本当」
「エジリンに入って、内通者からレティシアの側近のヴァレリーについて話を聞いたんだ。どうやら、王城とは別の場所でなにかをしているらしいところまで掴んだ。彼はパーティーにも来ていたから、恐らくノエルの面倒を見ていると思ったが、なかなかその場所が掴めなくてね。ギリギリだったが、間に合っただろう」
のんびりと外を眺めている間に皆が自分を思って動いてくれていたことに感動して、ノエルは少し泣けてきてしまった。
「まだ一仕事残っているよ。今度は大物だから気を引き締めていかないとね」
カインはノエルを抱き寄せて、おでこにキスをした。
「大物って……、もしかして……」
「今度はただの兵士じゃないよ。エジリン国王、フィランジオ三世だ。さぁて、我々は無傷で帰れるかな」
カインが楽しそうに笑って、恐ろしいことを言った。
少しも楽しい気持ちになんてなれなくて真っ青になるノエルの耳元でカインは、早く二人になりたいねなどと場違いな台詞を吐いてくるので余計に混乱してしまう。
「ノエル心配しないで、兄さんは怖いことを言うから…、これからは政治の話だよ。今のところうちとエジリンは友好関係があるから、そこの王子に酷いことをしたら戦争になるでしょう…」
「もう酷いことをされてるけどね。俺とノエルは臭い牢屋に閉じ込められて、危うくそこでノエルと…」
「わーーーーーー!!!!!」
ノエルが突然の大きな声を出してカインの口を手で塞いだので、エドワードは何事かと驚いていたが、その先に続く言葉の予想がついたので、こんなところでサラリと言われたらとてもじゃないが恥ずかしくていられなかった。
「というか、夜までいるつもりじゃなかったんですよね!ヴァレリーとアリーナの前でもあんなこと言って…」
カインの目が細められて、塞いだ手の奥でくつくつと笑う気配がした。手を離すとバレたかと言いながら楽しそうに笑うカインの姿が見えて、ノエルは呆れて言葉を失った。
どうやらこの一か月でノエルをからかうという面倒な性格が身についてしまったらしい。
「仕方がないよ。ノエルをからかうと楽しくて、コロコロ変わる顔をみるのが愛しくてたまらないんだ」
また大胆なことを言うので、今度は赤くなって煙が出そうになったノエルを見てカインは笑いながらその頭を抱き寄せて愛しそうに撫でた。
「ちょっとお二人さん、イチャつくのは構わないけど、もう到着するよ。はぁ、レティシアがどんな顔をして待っているのか…、恐ろしいよ」
「ああ、悪い魔女にはお仕置きをしないとね。ついでに俺の可愛いノエルを自慢してこよう」
事態はそんなカインが冗談を言うほど軽いものではないはずなのだが、カインはまったく緊張する素振りがない。ノエルは何が起きるのか、恐ろしい想像ばかりが浮かんできて、心配で鳴り響く心臓を強く押さえたのであった。
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エジリンの王城に入ると汚れていたノエルとカインはすぐに清められて、新しい服を着せられた。
カインは正装である黒の軍服を着用した。普段の甘さの漂う雰囲気から変わり、男らしく精悍な姿にノエルの目はくぎ付けになった。惚けたように見つめていると、カインにクスクスと笑われてしまったほどだ。
「大丈夫、心配しないで。早く二人になれるように、さっさと終わらせるから」
カインは緊張しない様子でそんなことを言うので、逆にノエルの緊張の方が高まっていった。
支度が終わると間もなくして謁見の間に呼ばれて、カインは堂々と入っていった。
ノエルとエドワードは観覧用に用意された一段下がった端のスペースで成り行きを見守ることになった。
王が部屋に入ってくると空気が変わったのが分かった。皆下を向いたまま合図があるまで下を向いていたが、ピリピリとした空気にノエルはすでに吐きそうになっていた。
「ベイクルートの王子よ。遠いところ、よく来てくれた。元気そうだな、嬉しく思うぞ」
王が口を開いたのが合図で、皆やっと顔を上げることができる。
壇上の王座に座っているのは、レティシアの父親である、フィランジオ三世、現エジリンの国王だ。
レティシアと同じ銀の髪と深海のような瞳を持っている。老いてはいるが若い頃は血気盛んで他国に攻めいったとされるその鋭さが、目に残っているように見えた。
「お久しぶりでございます。フィランジオ様は最近はアネイの方まで手を伸ばされているとお聞きしております。ますます、エジリン国が発展していく姿、私も勉強させていただきたいです」
「うむ、それでは早速だが、娘のレティシアのことだ。書簡はすでに届いているだろう。今日ここへ来てくれたのは、了承したと受け取っていいのだろうか」
壇上の端からレティシアがするりと音を立てずに登場した。
「カイン様、会いに来て頂けたのですね。嬉しいですわ。やっと私との婚約を受けていただけるのですね」
今日は彼女が好んでいるらしい青いドレスを身に纏っている。歩いてくるときに、白い足がかなり上の方まで見えて、ノエルもドキリとした。
ずっと膝をついていたカインはするりと立ち上がった。
そして、口元に完璧な笑みを浮かべてレティシアに顔を向けた。
「申し訳ございません。残念ですが、今日は直接レティシア様に申し出をお断りさせていただきに来たのです」
「なっ…」
王からの直接の申し出であっても、きっぱりと断ったカインに部屋の中の空気は騒然となった。
「……嘘よ!嘘!カイン様は私を愛していると言ってくださったのよ、お父様!私はカイン様でないと嫌よ!絶対認めないわ!」
レティシアが最後の足掻きとまでに、でたらめな事を言い出した。泣きながら訴える娘の言葉に父ならば動いてしまうのではないかと思われた。
「……我が娘に、そんな言葉を向けて、その気にさせておいて、断るというのか……」
エジリン王の怒気をはらんだ声に、周りの兵達が武器に手をかけるのが分かった。
一触即発の空気の中をどう切り抜けるのか、すでに心臓が止まりそうなノエルは、祈るような気持ちでカインの背中を見つめていた。
そして、カインは迷うことなく、エジリン王を見据えて口を開いた。
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