愛を知らずに生きられない

朝顔

文字の大きさ
上 下
15 / 21

(15)焦がすような気持ち

しおりを挟む
 レティシア王女の歓迎パーティーは、この前の夜会と同じ会場で行われた。
 内装はレティシア王女が好きな青で統一されていて、会場の真ん中にはエジリンの国旗が掲げれ、楽団はエジリンの国歌を流していた。

 女性のみドレスコードは青だったので、レイチェルは青いドレスを着て会場に現れた。
 ノエルは前回と同じくタキシードで、胸元には白いチーフをさした。

 国の要職に就く者や、高位の貴族達が集まっている。それだけ、レティシア王女が重要な存在であると皆が認識しているのだ。

 ノエルが一人でふらついていると、すぐに女性に囲まれてしまうので、レイチェルは横に張り付いて目を光らせていた。

「いた、あそこよ」

 レイチェルが小声でノエルに話しかけてきた。目で合図を送ってきたので、示す方向を見ると、人々の輪の中心にその人はいた。

 白銀のストレートの長い髪がシャラシャラと揺れて、深いブルーの瞳はこぼれそうなくらい大きく、キラキラと光っている。
 白い肌に桃色の頬、ぷっくりとした柔らかそうな唇は赤く色づいていた。
 髪と同じく、銀糸で作られたドレスは、豊かな胸の膨らみのをほんの少しだけ隠す程度で床に落ちるように広がっていて、扇情的なドレスだった。

「銀糸の髪に海の瞳を持つ女神……。そう呼ばれているわ。まさに、そのままね」

 レティシア王女の横には、燕尾服を纏ったカインの姿がある。二人並ぶと優雅で絵になる光景だった。

「……歓迎パーティーって言うより、これじゃまるで婚約パーティーだわ……。なんでも手に入れるタイプっていうのは間違いなさそうね。女達を全部脇役にして自分が一番目立つようにしている。考えたわね……」

 絵本の中から出てきたようなお姫様だ。妖精の国のお姫様かもしれない。とにかく人間離れした神秘的な美しさの王女様だった。

 完璧な微笑みを浮かべて、挨拶をしてまわっているレティシアの横で、カインは珍しくなんの感情もない顔をして突っ立っている。
 いつもなら、社交的な微笑みを張り付けて完璧にこなすはずの王子様は、どこか不機嫌そうに見えた。

 じっと見つめていたからか、視線に気がついたようにカインがノエルの方に顔を向けた。
 その瞬間、仏頂面は消えてカインはふわりと微笑んだように見えた。
 しかしそれは一瞬で、レティシアがカインの腕に触れたので、確かめることもできずに、もとの表情に戻ってしまった。

「えっ…」

 ノエルの心臓はドキドキと揺れたが、声を出したのはレイチェルの方だった。

「ねぇ……今、カイン殿下……」

 赤くなった顔を隠すように口元を片手で覆っているノエルを見て、レイチェルの目は久々に生気が戻ったように輝きだした。

「これは、もしかしたら、キッカケ次第なのかも……」

 ぶつぶつ言いながら顎に手を当てて、熟考を始めてしまったレイチェルの後ろから、あの明るくてとぼけたような声が聞こえた。

「ようこそ、お二人さん。レイチェルは会場で一番青が似合うね」

「エドワード様」

 今日のエドワードは公の姿で現れた。長い金髪を後ろに流して、ピッチリと白い礼服を着こなしている。さすが王子様といった姿だ。

「レティシアは見た?あぁ、あのカインの腕にしがみついている子だよ。相変わらず、胸は大きいし色っぽい体しているんだけどなぁ」

 王子様の格好になっても、エドワードはエディの口調のままでニヤリと笑った。

「ノエル、今日兄さんは手が離せないだろうから、君の相手は俺が引き受けるよ」

「……言っておきますけど、俺、飲みませんよ」

 それは残念と言ってエドワードは笑った。まだ短い付き合いだが、エドワードが兄を慕っていて、ノエルも気にかけてくれていることは分かった。レティシア王女を前にして、気落ちしているとと思ったのか、冗談で和まそうとする気づかいは素直に嬉しかった。


 パーティーは和やかにすすんだ。レティシアとカインはまだ人の輪の中心にいる。

 レイチェルは女友達に見つかって、女子トークがあるからと、いったんノエルの側を離れていった。

「言ったでしょ。カインを好きになるのは大変だって……」

 二人になると、待っていたかのようにエドワードが話をしてきた。

「……そうだね。苦しいよ…。だけど俺、このまま何も知らないで終わってしまうことの方が、もっと悲しくて苦しかったと思う。そう思うと…少しだけ幸せに思えるんだ」

「そんな顔して笑って……、何が幸せだよ」

「エディ……」

 いつもの軽いエドワードはどこかへ行ってしまったみたいに、強く真剣な顔をしたエドワードが急に距離を詰めてきて腕をガシリと掴まれた。

「人の気持ちが分からないやつにはね、分からせてあげればいい。嫉妬っていうものがどれ程醜くて狂おしいのか……」

「なっ…なに…」

 掴まれた腕を強く引かれて、ノエルはエドワードの腕の中へ捕らえられた。
 周りで眺めていた女性達から、きゃあという歓声のような声が上がった。

 耳元でエドワードが、ちょっとだけ動かないで、と言ってきたので、驚いていたノエルは言われた通りそのまま固まった。

 そうすると、エドワードの手が背中を落ちてきて、今度はノエルのお尻を掴んで揉んできた。

「ひっ!…エディ!なっ…何を!?」

 驚いて顔を上げたノエルの首筋に、次にエドワードはがぶりと噛みついてきた。

「ぎゃあ!やっやめ……!」

 さすがに王子相手とはいえ堪えられないと、押し返そうとする手に力を込めたとき、背後から心臓が凍るような気配を感じた。

「……それに触るな」

 それは、公の場所ではいつも落ち着いていて、穏やかな声で話す人の、同じ人とは思えないくらいの、低くて冷たい声だった。

 カチャリとこの場にそぐわない金属音がして、恐る恐る振り向くと、そこには、どこから持ってきたのか、剣を片手にエドワードを睨み付けているカインの姿があった。

「あーあー、それ観賞用のやつ?わざわざ壁から剥がしてきたの?そんな物騒なもの持ってきて完全にキレてやんの」

「エド……、斬られたいのか……、早く離すんだ」

 はいはいと言いながら、軽い調子でノエルを解放したエドワードだったが、目の真剣さはそのままだった。

「初めてでしょ、その気持ち。それがなんの気持ちなんだか、よく考えてみることだね。じゃないとノエルが可哀想だよ」

 その言葉で、エドワードがカインの気持ちを引き出そうと、あえてあんなことをしたのだと分かった。

 何事かと唖然としていた人々が、ザワザワとし始めた中で、カインは剣を投げ捨てて、ノエルの腕を掴んでそのまま会場の外へ足を進めた。


 カインに腕を引かれたまま、廊下を突き進んでいく。
 着いた先は、前の夜会でノエルが連れてこられた休憩室だった。
 バタンと扉を開け放ち、カインはノエルを乱暴にベッドに投げた。

「いっ…いた……カイン……、ごめん、俺……」

 ノエルの言葉など聞かずに、カインはノエルのトラウザーズをくつろげて、ノエルをうつ伏せにした状態で、いきなり下のモノを握ってきた。
 縮こまって柔らかかったそれは、乱暴な刺激ながら、カインが擦っているということを思うと一気に高ぶって大きくなった。

「はぁ…………ん、カイン……どうし………あぁんん」

 前をしごきながら、カインは用意されていた香油を取ってノエルの後ろに溢して指を入れてきた。

「あっあああ!!」

 乱暴にほぐされていく体は悲鳴を上げる。だが、カインから与えられるものは、それが辛い痛みであっても、ノエルにとっては悦楽に変わってしまうのだ。

「だめ……も……イっちゃう……んっあああ!!」

 後ろをぬちゃぬちゃとほぐされながら、前をしごかれたノエルは、我慢できずにそのままイってしまった。

「もう達したの?ノエルは本当に淫乱になったね……。それともエドに触られて興奮していたの?」

「そっ……そんな!違う!」

「腹の中が煮えたぎるようだ…。これは何?熱くてたまらない…」

「それは……」

 そうであって欲しいという気持ちはあるが、もし否定されたらと思うとノエルはそれ以上先が言えなかった。

「……カイン、きて……」

「え……」

「その熱いのを俺に注ぎ込んでよ。俺は…カインの熱が欲しい」

 もう恥ずかしさなんて言ってられなかった。ただカインの辛さを分けてもらいたい、そう思ってノエルは動いた。
 尻をつき出すように上げて、自分で後孔に指を入れて見せつけるように広げた。

 カインがごくりと唾を飲み込む音がした。

「はぁ……。カイン……はやく…欲しいよぅ……」

「くっ…ノエル!」

 堪えきれなくなったように、自身をあてがったカインは一気にノエルを貫いてきた。

「ああああ!いっ…いい!いいよ………」

 完全に緩んでいなかったそこは、突然の質量を感じて抵抗するように苦しさと痛みがあったが、すでにカインの形に変わってしまっているように、ノエルの後ろはすぐに馴染んでいった。
 すぐに、激しく打ち付けられる。小さなベッドは、ガタガタと音を立ててノエルと同じように揺れた。

「あっん、はっ…ああ…いあ…ん…あん…はぁ……」

 たいした前戯もない、後ろを弄られてすぐの挿入だが、ノエルは狂おしいほど感じていた。
 それは他でもない、カインが与えてくれるものであるからこそ、全身で感じているのだ。
 それを伝えておきたかった。

「あぁ…か…カイン、んっ…きっ気持ちいいよ…カイン…カイン…、カイン…だけ、気持ちいいのは…カインだ…から」

 後ろの中でカインのモノが大きくなって、律動がいっそう激しくなってきて、終わりが近いことを感じた。

「っ………ノエルっ……」

 カインがノエルの最奥で爆ぜた。大量に注ぎ込まれる熱を身を震わせながらノエルは受け止めた。

「カイン……す…き」

 薄れゆく意識の中で、ノエルの口からこぼれた言葉がカインの耳に届いたかどうかは分からなかった。




 □□□
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~

華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...