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XXVIII
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慌ただしく大変だったコンテストの次の日、遅れて学校へ登校すると、すぐに半泣き状態のミスリルとルザラザが駆け寄ってきた。
「レイ!よかった!心配したんだから!」
「体調は大丈夫なの?エレベーターの故障で閉じ込められたって聞いたけど……」
「ああ、心配かけて悪かった。特に問題はない」
あの日、ミスリルと俺を妨害したのはアレクセイで間違いないと思われるのだが、結局証拠が掴めずに調査は保留になった。
水の神が関わっているのか、アレクセイ単独なのかは不明だが、人を雇って動かしていたと思われる。
だが、関わった者達の足取りは消えていて全く掴めない。混乱を避けるために、俺の件はエレベーターの故障ということになった。
本当は電源が破壊されていたらしく、明らかに人為的妨害であることは間違いなかった。
同じく妨害に合ったミスリルには事情を伝えているが、ルザラザには心配をかけたくないのでごまかすことにした。
「火の神に助けてもらったんでしょう。よかったね、ちゃんとお礼は言えたの?」
ミスリルの言葉にドキッと心臓が揺れた。
さすが鋭い男だ。俺の雰囲気から察知したのかもしれない。
今朝起きると、隣に寝ているものだと思っていたアルメンティスはいなかった。
一人でぼけっとしながら起き上がったら、部屋に入ってきたジェロームが体調を聞いてきた。
そして、しばらく3階には立ち入りできないことと、アルメンティスに会っても向こうから声をかけられるまで話しかけてはいけないと言われてしまった。
それが何を意味しているのか分からなくて俺は動揺した。色々な事が頭を駆け巡っていて、まだ答えが出せない状態だった。
「いや…。忙しそうでさ…次に会った時かな」
やはりその辺のことには鋭いミスリルが何か言おうと口を開いたので、俺は慌てて話題を変えることにした。
「そうだ!ミスリル、優勝したんだな!さすが最後も決める男だ。天使の衣装に羽をつけた写真見たけどすごく綺麗だった」
「あ…ありがとう。あの時、レイが励ましてくれたから、落ち着いて考えられたんだよ。それに、特別賞はレイなんだからね」
「はははっ、よく分からないけどそうらしいな」
最終戦に選ばれたが不参加だった俺は本来なら失格であるが、どうもそれでも票が集まってしまったらしく、今回だけという事で特別賞というのをいただけたらしい。
別に何かもらえるわけでもなく、名誉賞みたいなものなので、嬉しいというかどう喜んでいいのか分からなかった。
「手を回したクセに結局選ばれなかったから、アレクセイは怒り狂っていたよ。まだ尻尾は掴めないけど、今回のことタダじゃ済ませないから…カリアド様が続けて調べてくれている」
「ああ、分かった」
ルザラザが先に戻って行ったところを見届けるとミスリルが小声で話しかけてきた。
コンテストが終わったのでこれ以上何かされることはないと思うが、学校では会いたくない相手だった。
「……レイ、本当に…大丈夫?」
「ん?ああ、体調か。もう大丈夫だ。問題ない」
ミスリルの視線を避けるように、曖昧に笑って俺も自分の席へ戻った。
分かっている。
あのエレベーターで過去のことを思い出して、胸は不安でいっぱいだった。
本当は部屋に閉じこもって誰とも顔を合わせたくなんてなかった。
でもこうやって出てきたのは、部屋に一人でいると考えてしまうからだ。
過去のことではない。
アルメンティスのこと。
いつも優しかったアルメンティスなら、朝まで側についていてくれるものだと思っていた。
手の怪我をしてまで助けてくれたのだから。
それなのに、急に突き離されたように感じるのは気のせいだろうか。
それとも俺が求めすぎているのか。
次に会った時にちゃんとお礼を言おう。
その日はそう考えて、気持ちを整理したが、そんな機会はなかなか訪れることはなかった。
「はぁぁ……」
出すつもりがなかったのに、思わず出てしまったため息に慌てて口に手を当てたが、顔を上げるとやはりルザラザとバッチリ目が合ってしまった。
授業は終わったのでさっさと鞄を掴んで帰ろうとしたら、ルザラザに腕を掴まれてしまった。
「レイ、隠していることあるでしょう!」
「あ……えっ…え…と」
心配そうな目で見られたらこれ以上隠しておく事ができなかった。
小さく息を吐いてから、仕方なくルザラザにコンテストで何があったのか話すことになった。
「アレクセイ!なんてヤツなんだ!高等部の一年だよね、今からでも行って直接……」
「まっ…待て、まだ問い詰めるには証拠がないんだ」
「アルメンティス様は何をしているの!?レイが酷いことをされて黙っているわけ?そんな人じゃないと思っていたのに……」
「それは……」
アルメンティスの名前を出されたら、心に留めていたものが溢れてしまいそうで俺は目を閉じた。
アルメンティスとはもう二週間は話をしていない。顔を合わせることがあっても、俺の存在なんて見えていないみたいに、通り過ぎて行ってしまう。
俺から声をかけるなと言われているので、俺は黙ってその姿を見つめることしかできない。
あの日あった出来事が、アルメンティスの何かを変えてしまったことは明らかだった。
「……面倒に……なったんだろう。きっと……」
アルメンティスが過去に俺を引き取った親戚と同じだとは考えたくなかった。だが、俺と関わる人間は誰もが途中で玩具に飽きたみたいに俺を捨てていった。
面倒だ、いつもそう言われて次の家に向かうことになった。
まるでその時と同じような気配がして、俺は怖くて仕方がなかった。
「レイ、アルメンティス様はレイのこと…、大切に思ってくれていると思う。目線や態度なんて全然違うもの!大切だからこそ……」
「大切にしてもらっている。俺が…多くを望み過ぎたんだ」
「レイ………」
天使にしてもらって、距離が空いてしまっても解雇されることなく、そのまま天使の扱いを続けてくれている。俺は黙ってこのまま生活するだけで、当初の目的通り叔父の願いを叶えることはできる。
他に何を望むのだろう。
やはり、俺の願いなど叶わないのだ。
俺の願い………。
ぽろりと目から溢れたものが俺の頬を伝って机の上に落ちた。
「俺の……願い……」
ガタンと音を立ててミスリルが教室に飛び込んできた。放課後残っていたのは俺とルザラザだけだったので二人で目線を送ると、ゼェゼェと息を切らしながらミスリルはビッグニュースと言ってきた。
「これ、今日届けられたんだけど!ここ見て!」
ミスリルはシワクチャになった雑誌を机の上にバサリと乗せた。
「ロイヤルフラッシュって……、ゴシップ誌だよ。ミスリルってばこういうのばっかり見て……」
「それはいいから!ここ見てここ!」
ミスリルが開いたページにはアルメンティスの家、アルガルト家の後継ぎ問題について書かれていた。
セレブのゴシップ誌で取り上げられることはおかしくないが、第一候補のアルメンティスの写真は、高級ホテルのレストランから女性と出てくるところが撮られていた。
日付は先週の土曜日、ジェロームからアルメンティスは土日は外泊なので帰らないと聞いていた日だ。
見出しには、リゾート開発で知られるF社の社長令嬢と間もなく婚約発表の予定、お祝いディナーを二人きりで…、と書かれていた。
「ちょっ…ちょっと!ミスリル!こんなものをレイに見せるなんて…!!」
「は……はっははははははっっ…」
「……レイ?」
「いや、いいよ。ありがとうミスリル。これで、スッキリしたよ…。そうか、そういう事だったんだな」
「レイ!ちょっと待って!これはゴシップ誌だから本当かどうかなんて…」
「女性と写っている写真は本物だよ。他の雑誌にも出ているから」
ミスリルの補足にルザラザは違うと言おうとしたのか、ムッとした顔で口を開けたが、俺はまたいいよと言ってそれを止めた。
「なにも違わない。これは本来の姿なんだ。俺達は学校だけの関係だろう。…間違っていない。これが…現実だ」
俺はそう言って笑った。
ちっともおかしくないし、楽しくなんてないけど、笑いが込み上げてきて止まらなかった。
悲しくて…悲しくて笑うことなんて初めてだった。
そんなこと、知りたくなんてなかった。
□□□
「レイ!よかった!心配したんだから!」
「体調は大丈夫なの?エレベーターの故障で閉じ込められたって聞いたけど……」
「ああ、心配かけて悪かった。特に問題はない」
あの日、ミスリルと俺を妨害したのはアレクセイで間違いないと思われるのだが、結局証拠が掴めずに調査は保留になった。
水の神が関わっているのか、アレクセイ単独なのかは不明だが、人を雇って動かしていたと思われる。
だが、関わった者達の足取りは消えていて全く掴めない。混乱を避けるために、俺の件はエレベーターの故障ということになった。
本当は電源が破壊されていたらしく、明らかに人為的妨害であることは間違いなかった。
同じく妨害に合ったミスリルには事情を伝えているが、ルザラザには心配をかけたくないのでごまかすことにした。
「火の神に助けてもらったんでしょう。よかったね、ちゃんとお礼は言えたの?」
ミスリルの言葉にドキッと心臓が揺れた。
さすが鋭い男だ。俺の雰囲気から察知したのかもしれない。
今朝起きると、隣に寝ているものだと思っていたアルメンティスはいなかった。
一人でぼけっとしながら起き上がったら、部屋に入ってきたジェロームが体調を聞いてきた。
そして、しばらく3階には立ち入りできないことと、アルメンティスに会っても向こうから声をかけられるまで話しかけてはいけないと言われてしまった。
それが何を意味しているのか分からなくて俺は動揺した。色々な事が頭を駆け巡っていて、まだ答えが出せない状態だった。
「いや…。忙しそうでさ…次に会った時かな」
やはりその辺のことには鋭いミスリルが何か言おうと口を開いたので、俺は慌てて話題を変えることにした。
「そうだ!ミスリル、優勝したんだな!さすが最後も決める男だ。天使の衣装に羽をつけた写真見たけどすごく綺麗だった」
「あ…ありがとう。あの時、レイが励ましてくれたから、落ち着いて考えられたんだよ。それに、特別賞はレイなんだからね」
「はははっ、よく分からないけどそうらしいな」
最終戦に選ばれたが不参加だった俺は本来なら失格であるが、どうもそれでも票が集まってしまったらしく、今回だけという事で特別賞というのをいただけたらしい。
別に何かもらえるわけでもなく、名誉賞みたいなものなので、嬉しいというかどう喜んでいいのか分からなかった。
「手を回したクセに結局選ばれなかったから、アレクセイは怒り狂っていたよ。まだ尻尾は掴めないけど、今回のことタダじゃ済ませないから…カリアド様が続けて調べてくれている」
「ああ、分かった」
ルザラザが先に戻って行ったところを見届けるとミスリルが小声で話しかけてきた。
コンテストが終わったのでこれ以上何かされることはないと思うが、学校では会いたくない相手だった。
「……レイ、本当に…大丈夫?」
「ん?ああ、体調か。もう大丈夫だ。問題ない」
ミスリルの視線を避けるように、曖昧に笑って俺も自分の席へ戻った。
分かっている。
あのエレベーターで過去のことを思い出して、胸は不安でいっぱいだった。
本当は部屋に閉じこもって誰とも顔を合わせたくなんてなかった。
でもこうやって出てきたのは、部屋に一人でいると考えてしまうからだ。
過去のことではない。
アルメンティスのこと。
いつも優しかったアルメンティスなら、朝まで側についていてくれるものだと思っていた。
手の怪我をしてまで助けてくれたのだから。
それなのに、急に突き離されたように感じるのは気のせいだろうか。
それとも俺が求めすぎているのか。
次に会った時にちゃんとお礼を言おう。
その日はそう考えて、気持ちを整理したが、そんな機会はなかなか訪れることはなかった。
「はぁぁ……」
出すつもりがなかったのに、思わず出てしまったため息に慌てて口に手を当てたが、顔を上げるとやはりルザラザとバッチリ目が合ってしまった。
授業は終わったのでさっさと鞄を掴んで帰ろうとしたら、ルザラザに腕を掴まれてしまった。
「レイ、隠していることあるでしょう!」
「あ……えっ…え…と」
心配そうな目で見られたらこれ以上隠しておく事ができなかった。
小さく息を吐いてから、仕方なくルザラザにコンテストで何があったのか話すことになった。
「アレクセイ!なんてヤツなんだ!高等部の一年だよね、今からでも行って直接……」
「まっ…待て、まだ問い詰めるには証拠がないんだ」
「アルメンティス様は何をしているの!?レイが酷いことをされて黙っているわけ?そんな人じゃないと思っていたのに……」
「それは……」
アルメンティスの名前を出されたら、心に留めていたものが溢れてしまいそうで俺は目を閉じた。
アルメンティスとはもう二週間は話をしていない。顔を合わせることがあっても、俺の存在なんて見えていないみたいに、通り過ぎて行ってしまう。
俺から声をかけるなと言われているので、俺は黙ってその姿を見つめることしかできない。
あの日あった出来事が、アルメンティスの何かを変えてしまったことは明らかだった。
「……面倒に……なったんだろう。きっと……」
アルメンティスが過去に俺を引き取った親戚と同じだとは考えたくなかった。だが、俺と関わる人間は誰もが途中で玩具に飽きたみたいに俺を捨てていった。
面倒だ、いつもそう言われて次の家に向かうことになった。
まるでその時と同じような気配がして、俺は怖くて仕方がなかった。
「レイ、アルメンティス様はレイのこと…、大切に思ってくれていると思う。目線や態度なんて全然違うもの!大切だからこそ……」
「大切にしてもらっている。俺が…多くを望み過ぎたんだ」
「レイ………」
天使にしてもらって、距離が空いてしまっても解雇されることなく、そのまま天使の扱いを続けてくれている。俺は黙ってこのまま生活するだけで、当初の目的通り叔父の願いを叶えることはできる。
他に何を望むのだろう。
やはり、俺の願いなど叶わないのだ。
俺の願い………。
ぽろりと目から溢れたものが俺の頬を伝って机の上に落ちた。
「俺の……願い……」
ガタンと音を立ててミスリルが教室に飛び込んできた。放課後残っていたのは俺とルザラザだけだったので二人で目線を送ると、ゼェゼェと息を切らしながらミスリルはビッグニュースと言ってきた。
「これ、今日届けられたんだけど!ここ見て!」
ミスリルはシワクチャになった雑誌を机の上にバサリと乗せた。
「ロイヤルフラッシュって……、ゴシップ誌だよ。ミスリルってばこういうのばっかり見て……」
「それはいいから!ここ見てここ!」
ミスリルが開いたページにはアルメンティスの家、アルガルト家の後継ぎ問題について書かれていた。
セレブのゴシップ誌で取り上げられることはおかしくないが、第一候補のアルメンティスの写真は、高級ホテルのレストランから女性と出てくるところが撮られていた。
日付は先週の土曜日、ジェロームからアルメンティスは土日は外泊なので帰らないと聞いていた日だ。
見出しには、リゾート開発で知られるF社の社長令嬢と間もなく婚約発表の予定、お祝いディナーを二人きりで…、と書かれていた。
「ちょっ…ちょっと!ミスリル!こんなものをレイに見せるなんて…!!」
「は……はっははははははっっ…」
「……レイ?」
「いや、いいよ。ありがとうミスリル。これで、スッキリしたよ…。そうか、そういう事だったんだな」
「レイ!ちょっと待って!これはゴシップ誌だから本当かどうかなんて…」
「女性と写っている写真は本物だよ。他の雑誌にも出ているから」
ミスリルの補足にルザラザは違うと言おうとしたのか、ムッとした顔で口を開けたが、俺はまたいいよと言ってそれを止めた。
「なにも違わない。これは本来の姿なんだ。俺達は学校だけの関係だろう。…間違っていない。これが…現実だ」
俺はそう言って笑った。
ちっともおかしくないし、楽しくなんてないけど、笑いが込み上げてきて止まらなかった。
悲しくて…悲しくて笑うことなんて初めてだった。
そんなこと、知りたくなんてなかった。
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