炎よ永遠に

朝顔

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XXIII

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 コンテストは三回戦形式で行われる。
 参加できる天使の数は決められていない。うちは俺だけだが、カリアドのところはミスリルを筆頭に5名。
 風と水の神からはそれぞれ2名ずつ参加していた。
 8名が少しずつ篩にかけられて落とされ、決勝戦は3名で、全生徒の投票で決められる。

 いずれも負けず劣らず、美しい男が揃っていた。その中でもやはりミスリルは群を抜いて華やかな美貌で目立っていた。次に目についたのは、水の神の天使、アレクセイという金髪に碧眼、まさに天使という外見の男だ。始終微笑んでいて、外見と同じく優しそうに見えるが、目には嫌な感じの鋭さがあった。

「作戦勝ちかもなぁ…。今年はレイに持っていかれちゃうかも」

 これから特設の舞台に一人ずつ名前を呼ばれて並ぶのだが、俺の隣でミスリルがおかしなことを言い出した。

「俺が?どう考えたって無理だろう。みんなすごい美人って…言うのもあれだが、綺麗たがら…」

「それは見た目に大金かけてる連中だから、顔やスタイルは連中が勝つけど、今日のレイの格好、一人だけ露出が少なめで禁欲的。ミステリアスな瞳が引き立てられて、洗練された天使のイメージにぴったり。さすが火の神はセンスがあるよね」

 ミスリルの言っていることはまたよく分からないが、他のと違いといえば確かに俺は浮いている。
 裸でなければヨシとされる条件のもと、誰もがどこまで見せれるかの限界を競っている。
 ミスリルは白豹だし、アレクセイは背中のバックリ空いたミニドレスだ。太ももにはレースのガーターベルト、ドレス全体にダイアモンドが散りばめられて、ウェディングドレスをイメージしているようだ。
他の者もみんな露出度が高めな格好だった。

 ドンと、肩に誰かが当たってきて、俺はミスリルの方によろめいて、転びそうになったところを支えてもらった。

「あらやだぁ、ごめんねぇ。地味すぎて見えなかった。ここにいるのが相応しくない人は帰った方がいいんじゃない?」

 周囲からクスクスと笑い声が起こった。俺に当たってきて、ニヤニヤと笑っている男は、俺が注目していたアレクセイだった。

「ちょっと!当たっておいて、それはないんじゃない!?」

「いや、ミスリルいいよ。本番前に争いはやめておこう」

「へぇ…、ずいぶん平和主義な天使だね。一回戦で落ちて泣いてここを出ていくことを祈っているよ」

 ゲラゲラ笑いながら、アレクセイは他の天使達と一緒に舞台の方へ行ってしまった。
 まるで天使にぴったりの外見であるが、やはり思った通り性格が悪そうな男だった。

「レイ、気をつけて。あいつ、汚い手を使うって有名だから。水の神のお気に入りだし、あの甘い見た目に騙されて、酷い目にあった子大勢いるよ」

「ああ……」

 俺が敵視されるのは、やはりアルメンティスの天使だからだろう。個人的に争う必要性を感じているかは疑問だが、警戒は必要かもしれない。
 気をつけろと言われても、何をどうすればいいのかいまいち想像できなかった。




 特設舞台にスポットライトが当てられて、派手な音楽が鳴り響き、野外ホールは歓声に包まれた。

 天使達の名前が次々と呼ばれて、一人ずつまるでモデルがランウェイを歩くみたいにして舞台に出ていく。
 俺も名前を呼ばれて、ガチガチになりながら歩き出した。
 舞台上の照明は熱くて、せっかく直してもらった顔が、また汗で崩れてきそうだった。
 他の天使達は観客に手を振りながら、時々投げキッスをしたりして、自分をアピールしながら歩いていた。

 俺が姿を表すと会場は音楽が鳴っているのに、一瞬静かになったように感じた。
 場違い感が凄まじいのだろうか、俺は手を振る余裕などなく、教えてもらった通りに歩くだけで精一杯だった。

 会場には大きなモニターがあって、そこに一人ずつピックアップされて映し出される。
 せっかくアルメンティスに衣装を用意してもらったが、ただ歩いているだけの男など、だれも評価しないだろう。
 とにかく歩くだけに集中して、ランウェイの終わりまで来た。
 ここでは可愛い格好でもして目立っておいでとミスリルからアドバイスをもらっていたが、もうそんな余裕はなかった。

 満身創痍になって頭の中が真っ白になってしまったが、ふと会場の中心の席が目に入った。
 そこは神のために設けられたスペースで、見事に黒装束の神達が並んで座っていた。
 そこにアルメンティスの姿を見つけた俺は思わず足を止めた。

 今までの人生でこんなに注目されることなどなく、心臓が口から出そうなくらい吐き気がした。しかし、この人混みの中にアルメンティスの姿を見つけた時、俺は暴れ出していた気持ちが、アルメンティスの温かさに包まれた時みたいに一瞬で嬉しい気持ちに変わった。
 姿が目に入っただけで、力をもらえたみたいだった。
 俺が立ち尽くしていたからか、会場がざわざわと騒ぎ始めた。

 まずい!と慌てて踵を返してランウェイを急いで小走りで戻って来た。
 もう何もかもめちゃくちゃだった。
 これで完全に終わったと思いながら、他の参加者が歩いていくところを、立ち位置で手を叩きながら眺めた。

 全員が歩き終えたらここでもう審査が入る。特別審査員の方々が話し合ってまず、3人落とされることになった。
 落とされる者は名前が呼ばれて舞台から降りていく。俺は自分の名前が呼ばれるのを、唇を噛んで待っていたが、結局名前は呼ばれずなんとまさか俺は次に進む事になった。



 いったん控え室に戻る事になったが、何が起きたのか理解できずに、俺は用意された椅子に魂が抜けたみたいな顔で座っていた。

「レイ!!おめでとう!一回戦抜けたね!」

「……ミ……ミスリル、何が起きたんだ?もしかして……アルメンティスの力が働いた……のか?ば…買収とか……」

 もうそれしか思い付かなかった。アルメンティスなら不可能なことではないし、やりそうな気がした。

「それはないよ。公平な審査は一番気を使っているから。レイの実力でしょう!まったく、あそこでなんて顔するんだか。僕もドキッとしちゃった」

 感激したようにミスリルが抱きついて来たが、俺は、顔?と何も思い出せなくて首を捻った。

「ほら、さっきのシーンがもうモニターに出てるよ、見て見て、今レイのところ出てるから」

 コンテストの様子は録画されて、テレビでも放送するらしい。地元のローカルなやつだと聞いていたが、それでも記録に残されるのは恥ずかしかった。

 恐る恐るモニターを見ると、ビクビクしながらロボットみたいに歩く男が映っていた。こんなものを見せられるなんて、自分でやると決めて参加したが、もう逃げ出したくなった。

「ちょっと、レイ!目を逸らさないで、もうすぐだからほら、そこ!」

 ちょうどランウェイの最後で、俺が立ち止まってしまった時の映像だ。
 完全にオドオドして挙動不審な姿の俺だったが、急にどこかを見つめてピタリと動きを止めた。
 そして、とても嬉しそうな顔になって笑った。

「…え?」

「きゃーー!まさに天使のスマイルじゃない!?それまでの無表情が嘘みたいにここで変わるから、もう…お見事、心臓撃ち抜かれたわ」

「えっ…ちょっ…」

「レイが笑った時、会場中からため息が漏れたくらいだったよ。みんな虜になったね、きっと」

「ばっ…ばかやめろ!」

 確かにタイミング良く笑顔が出たなと思って、その時どういう状況だったか俺は思い出した。

「そうだ、俺……あの時……」

 あの時、俺はアルメンティスを見つけたのだ。自分はこんな顔をしてアルメンティスを見ているのかと気がついたら恥ずかしくて死にそうで、手で顔を押さえてうずくまった。

 ミスリルはなんだかんだと揶揄ってくるし、顔が沸騰して汗だくになり、とても人前に出られるような状態ではなかった。二回戦目は映像が流れるだけなので、助かったと思いながら俺は下を向いたまましばらく顔を上げることができなかった。



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