炎よ永遠に

朝顔

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XIV

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 小さな明かりだけが付けられた部屋には、お互いの息づかいだけが響いていた。
 ぼんやりと浮かんだ肌に流れた汗が光って見えた。今まで見たことのない光景に魅入られて美しいと思ってしまった。
 ただただ、熱くて温かくて心まで包み込まれるような。誰かと肌を重ねることで自分の中に満たされていくもの。
 それが何なのか、俺はまだ知ることはできなかった。




 アルメンティスを待っていて俺はベッドで寝てしまった。帰ってきたアルメンティスに起こされて、寝ぼけた頭で慌てて気持ちを入れ直した。
 ベッドに寝そべったアルメンティスに誘われるまま、その横に体を倒した。目の前にクラクラするような美しい男がいて、しかも一緒にベッドに寝ているというのは、まるで夢の中のようで現実感がなかった。

「男とも女とも経験がないっていうのは本当?」

「ああ、………セックスに関してはない。だが、女に触られた事はある……。それは子供の頃の事だし、あまり思い出したくはない」

「へぇ…、レイみたいな子が近くにいて誰も手を出さないなんて信じられなかったんだ。でも……子供の頃か」

 寝そべったまま、俺を抱きしめてきたアルメンティスは壊物を扱うみたいに俺の頭を優しく撫でてきた。

「思い出したくない事は忘れてしまえばいい。今日はレイが気持ちよくなれるように、優しくするから……」

 ここはお願いしますと言った方がいいのだろうかと考えたが、変におかしなことを口走ってしまいそうで言葉にするのが躊躇われた。

「なるべく俺も理性を保たないとなぁ…この前はつい興奮ちゃって、レイの初めてをあの草むらで奪ってしまうところだったしね」

 あの草むらと言われて、はてと考えてしまった。だが、何だか記憶がおかしかった日のことを思い出して俺は、あっ!と声を上げた。

「大変だったんだから、レイを担いで寮まで行ってさ。ちょうど見回りの教師がいたから寮の前で託したけど…。って、忘れちゃったの?」

「いや…、あの日は凄い疲れていて…全部夢だったのかと……」

「じゃあ、今日は夢だなんて思えないくらいのことを俺としよう」

 そう言って微笑んだアルメンティスの顔が俺に近付いてきた。
 彫刻のような整った顔が目を閉じてゆっくり近づいてくるのを、現実感がないまま見ていたが、唇に触れた柔らかな感触にこれが現実であると一気に引き戻された。

「あ……」

「もしかして、キスも初めてだった?」

 心臓がドキリと震えて、顔が火がついたみたいに熱くなった。意識的に避けてきた人との接触、もちろん口付けなど考えられなかった。それが、握手ができるようになり、ついに俺はここまで来てしまったかと考え深くなった。そして、どうでもいいと思っていたのに、一瞬でアルメンティスに気づかれてしまったことが恥ずかしくてたまらなくなった。

「だ…だめなのか?」

「全然」

 胸の中に生まれた小さな不安は、すぐに食らいつくようなキスで鮮やかにかき消された。最初のわずかに触れたキスとは違う、これこそが本物のキスなのだと思わせるくらいの深い交わりだった。

「……ふ……んっ………んん……」

 重ねた唇が開かれて口内に入ってきたのは、アルメンティスの舌だった。それが俺の舌を誘うように刺激して、応えるように舌を動かせば、正解だというようにじゅるりと音を立てて吸われた。
 キスとはこんなに長い間するものだと思ってはいなかった。いつの間にか俺の頭を掴むようにアルメンティス手が後ろに回された。
 首の後ろを撫でるようにされると、腹の奥から熱い何かが湧き上がってくるように感じた。

「レイはこうやって撫でられるのが好きなの?トロンとした目になるよね」

「わ…分からな……」

「俺は好きだよ。レイのこと撫でるの。気持ちいいから」

 まるで俺のことを好きだと言われたみたいに感じて、心臓がぐわんと揺れた。撫でるなんて、きっとペットを構うくらいの気持ちだろう。こっちは未知の世界過ぎて訳が分からないのだから、いっそペットのような感覚でいてくれたら助かると思ってしまった。

「もっとキスしていい?レイとするのは気持ちいい」

「す……好きにしろ」

 どうせ俺に拒否権などない。なのにいちいち聞いてくるアルメンティスがよく分からない。
 だけどキスがしたいと言ってきたのは嬉しく思ってしまった。
 なぜなら、俺ももっとしたいと思っていたから、その気持ちを隠すように目を閉じた。




 もう、どのくらい経過しただろうか、室内にはキスを続ける水音が響いていた。
 アルメンティスのキスは唇だけではなかった。顔中にされて、首に落ちてきて胸元に吸い付かれた。高い音を立てて吸われると、初めはくすぐったいだけだったのが、甘い感覚に変わっていく。
 ずっと閉じていた体が徐々に開いていくように、アルメンティスの色に染められていく気がした。

「あれ、もうこんなになってるの?」

 滑り落ちてきた手が、俺の体の中心に這わされた。もう、ずっと最初の方から反応していたそこは、手で軽く触れられただけで達しそうなくらい硬くなっていた。

 俺は性欲は薄い方で、溜まったら処理するだけの虚しい行為しか知らない。それすらも忘れるくらいの間隔で行われているので、キスを受けて硬く張り詰めている自分自身が信じられなかった。

「う…くっ……」

「あまり自分でしないの?」

「あ……ああ。したく…ないか…ら」

 アルメンティスの長い指は俺の下着に侵入して、硬くなったものに触れてきた。もどかしいくらい優しく撫でてくるので、ゾクゾクと湧き上がってくる快感に思わず腰を揺らしてしまった。

「そう?こんなに気持ち良さそうにしてるのに?」

「そ…それは…、お……お前、アル…ティが触るから…だ」

 体に訪れたありえない変化に戸惑うしかなかったが、こんな衝撃を与えてきたのは間違いなく目の前のこの男だ。素直にお前のせいだと伝えたが、アルメンティスは目を輝かせて嬉しそうに笑った。
 急に気持ちが乗ったように、今まで曖昧に撫でていた手で俺のモノをぐっと掴んできた。待ち侘びた強い感覚に震えた俺はもう堪えることができなかった。

「嬉しい…。もっと聞きたい…、触れたい。レイの中に入って……レイの全部を見たい」

「……くっっ!!」

 ろくに擦られてもいないのに、アルメンティスに耳元で囁かれたら、カッと体の熱が上がってたまらず濃い息を吐きながら俺は達してしまった。
 飛び散った白濁が俺の腹の上を濡らして、雄の匂いが鼻に入ってきた。

「いっぱいでたね。確かに溜まっていたみたい」

「あっ!あぁ…待て……今イったばかり……んぁああ!」

 腹に乗った白濁を手で絡め取ったアルメンティスは、そのまま俺のモノに塗りつけて絡めた後一緒に擦りだした。ぬちゃぬちゃと卑猥な音が響いて、一度萎えたそこは再び立ち上がってしまった。まさかの二回目など今までの人生でなかったので言葉を失った。

 アルメンティスのもう一つの手が俺の後ろに這わされて、蕾を探し当てられた。ゆるゆると動いて、孔に指を入れてきたアルメンティスは何か気がついたように眉を寄せた。

「柔らかい……。ジェロームめ、無粋なことを……。ここを一から準備したかったのに……」

「はっ…ああううう!!」

 蕾の入り口で確かめるように動いていたが、アルメンティスは長い指をそのまま突き入れてきた。初めて感じる内部からの圧迫感に声を抑えることができなかった。

「どうせ、オイル入りのカプセルだろう。アイツめ、何気にレイのこと気に入っているんだな。苦痛を少なくするように気を回すとは……。俺がそんな無茶をするはずないのに」

 ジェロームからもらった座薬に何か効果があったらしい。男同士でここを使う事は知識があったが、かなりの苦痛を伴うものだと認識していた。
 アルメンティスの指が入ってきた時は違和感があったが、それもしばらくしたら慣れてしまった。代わりにむず痒い感覚が広がってく、自分の体が変わってしまう不安はあったが、アルメンティスに任せることにした。

「んっ……っっ………はぁ……あっ……」

「ほら…、これで三本目。辛くない?」

「だ……大丈夫だ」

 荒い息を吐きながら、やっと言葉が出てきた。二人で寝そべった状態で後ろを弄られてから、アルメンティスは一本ずつ指を増やしていった。
 じりじりと開かれていくそこは熱を持って感覚は全て抜き差ししてくるアルメンティスの指に集中していた。
 俺は裸になったが、アルメンティスはまだ夜着を身につけていた。押し付けられた下半身に、布越しでも硬い感触を感じる。アレがこれから自分の中に入るのかと思うと、なんとも言えない気持ちで後ろにぐっと力が入ってしまった。

「ふふっ、なに?もう欲しいの?」

「は?え?あ……ええと……」

「いいよ。俺も限界だ」

 アルメンティスは起き上がって俺は仰向けにさせられた。ぐっと腹に付けるくらいに足を持ち上げられ、自分で足を持つように言われた。

「へぇ…綺麗だ。確かに使い込んだないね。こんな綺麗なところを俺が汚してしまうなんてね」

 後ろの孔を指で広げながら、アルメンティスが変な感想を言ってきた。ずっとくっついていたのになんだか急に一歩引かれたみたいで胸がチクリと痛んだ。

「……べつに俺は綺麗なんかじゃない。グダグダ言ってないで、さっさとやれ」

「了解、せっかちなお姫様だ」

 やっとアルメンティスが服を脱いで裸体を晒した。薄明かりに逞しく筋肉のついた体が浮かび上がった。細身に見えたがやはり鍛えている体だと俺はゴクリと唾を飲み込んだ。

 そして、股間に天を向いて立ち上がっている雄々しいそれは、俺の形とは明らかに違った。大きくて存在感があり、柔和な外見からは想像もできない、まるで赤黒い凶器のようだった。卑猥な形をしていて反り返り、ぽたぽたと雫を垂らして雄の匂いを漂わせてきた。
 それが、俺の後ろの孔に当てがわれた時、思わず目を伏せてしまった。

「レイ、見るんだ。これからお前を抱く男のことを目に焼き付けておくんだ」

 恐る恐る開いた目に、赤く上気した肌と、俺を射抜くかのように鋭く見つめてくるアルメンティスの瞳が見えた。
 その瞳はいつもの蠱惑的な紫色ではなく、真っ赤に燃え上がる炎のような色をしていた。

「あ…あ……」

「レイ、挿れるよ」

 すでにならされて柔らかくトロけた入り口は、アルメンティスの怒張をズブズブと飲み込んだ。

「あっ…あ…………目……目が……」

 指とは比べものにならない圧迫感を堪えながら手を伸ばした俺にアルメンティスは気づいてニヤリと笑った。

「ああ、珍しいでしょう。俺は興奮するとね、虹彩の色が変わるんだ。昔はよく怒ってたから驚かれたけどね」

「あ……んっっ……くっっ……ああ…」

 そんな事があるのかと驚きだったが、それよりも俺はアルメンティスの瞳から目が離せなくなった。体の奥から今まで抑えていた巨大な何かが飛び出してくる。

 これは、飢えだ。
 ずっと欲しくて欲しくてたまらなかったものが、すぐそこにある。

「ん……レイ、締めすぎだ。このまま食われそうな強さだよ」

 時間をかけて広げていたのでどうやらほとんど入ったようだが、俺がぎゅうぎゅう締め付けるので、アルメンティスは苦しそうな息をこぼした。

「…………て」

「え?」

「おれ……を………めちゃ…くちゃにして…」

「……レイ?」

「ほし……欲しい……」

「何が欲しいの?」

「あ…か……。熱いの……俺を壊して……、アルティ……」

 なぜこんな事を言っているのか、俺の心は切り離されて遠くから自分を眺めていた。
 獣のようにアルメンティスのことを求めるだけの生き物になった俺は、アルメンティスを逃がさないとでもいうように足を絡ませて背中に手を回した。

「レイ………」

 耐えきれなかったのか、低くて濡れたような声でアルメンティスが俺の名前を呼んだ後、深く腰を打ちつけてきた。
 俺はたまらず声を漏らしたが、煽られて歯止めが効かないのだろう。アルメンティスは獣が食らいつくように俺を求めてきた。

 お互い荒い息を吐きながら、パンパンと肉がぶつかる音が部屋に響き渡る。
 流れ落ちる汗、いつの間にか達した俺の飛び散った残滓がシーツを点々と汚していたが、そんなものはどうでもよかった。

 俺の…俺だけの燃えるような赤色を手に入れた。
 早く体を焼き尽くして欲しい。
 全部燃やして灰になってこのまま消えてしまいたい。

 止めどなく続く快感の波を受けながら、俺はずっとそんな事を考えていた。






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