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Ⅶ
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深い森の中で身動きが取れずに泣き叫んでいた。じりじりと感じる熱さと黒煙、鼻につくにおい。
迫り来るのは真っ赤な炎。木々に移って天高く手を伸ばすように燃え上がった。
いくら泣いて叫んでもいつも包んでくれた温もりを得ることはできない。
ひどくぼんやりして焦点の合わない世界で、真っ赤な炎だけが俺を包んでいた。
これは両親が死んだ時の記憶なのだろうかと思うが、赤ん坊だった俺がおぼえているはずなどない。
それなのに、体を這い回る熱と叫んでも届くことのない声、徐々に燃えていく身体、全てがリアルに今起こっているかのような夢を見る。
俺にとって赤は全ての始まりの色で終わりの色。
あの四角い窓から眺めていた壁。
それが赤く染まっていく。
燃えてしまえ、全て燃えてしまえ。
赤い赤い炎で、あいつも、あいつも…そして俺も。
「レイ?大丈夫?」
心ここに在らずでぼっーとしていた俺にルザラザが声をかけてきた。
とっくに授業は終わってみんな帰り始めていたが、一人黒板を見ながら時間が止まっていたらしい。
昨夜、外で突然アルメンティスに組み敷かれ、訳の分からないことを言われて逃げて帰ってきた。
遅く帰ってきた俺のことを、ルザラザは心配していたが、家族との電話が長引いてしまったと伝えておいた。
どんな所にも頭のおかしいやつはいる。むしろ、俺の生きてきた世界ではそういうやつしかいなかった。アルメンティスがどんなやつかも分からない。俺に近づいてきたの事に、深い意味などなさそうだが、最後の台詞が気になって頭から離れなかった。
「ありがとう。大丈夫だ…」
「寝不足なんじゃない?今日は早く休んだ方がいいと思うけど…で、朗報だよ。明日の放課後兄がこっちに来るんだ。実家のことで俺と話す予定なんだけど、その時にレイ、君を連れて行こうと思って。手紙で紹介したいって連絡したけど、よく考えたらあの人俺からの手紙なんていつ読むのか分からないし、この方が早く面会できるから!」
「あ…明日か…そうか……分かった」
散々頼んでおいて、いざ実現しそうになったのにテンションの低過ぎる俺を見てルザラザは不思議そうな顔になった。
「レイ?何かあった?」
「ルザラザ、聞きたいんだけど。この名前に聞き覚えはないか?アルメン……」
俺の問いかけはルザラザと仲のいい連中がわっと集まって来て途切れてしまった。
そういえば今日は誰かの誕生日で、そいつの部屋に集まってパーティーをするとかそんな話をしていたなと思い出した。
「こめん、レイ!後で聞くよ」
準備だ買い出しだと色々あるらしく、揉みくちゃにされながらルザラザは連れて行かれた。
俺も誘われたが体調不良でと断っていた。誰かが酒を調達したらしく、みんなで騒ごうと盛り上がっていたので遠慮した。パーティーは飲んで最後は雑魚寝するらしく、そんな気分にはなれなかった。
どれくらい寝たのだろう。
寝ても寝ても寝足りない。育ち盛りだと思いながら、まだ体に絡みつく眠気と一緒にベッドの波に身を任せた。
遠くで楽しげな歌が聞こえる。
きっと寮のどこかの部屋でパーティーが盛り上がって合唱でもしているのだろう。
小学生の頃、一度だけ呼ばれた誕生日会。
俺はハッピーバースデーの歌を知らなかった。
日本のお誕生日会は友達を呼んでプレゼントをもらい、そこの家の料理とバースデーケーキでもてなす。
俺を誕生日会に呼んだ男の子は、狭くて小さ家に住んでいた。古くさい佇まいの年季の入った玄関、壊れて転がっている玩具に破れた障子。
そいつの家はシングルマザーで、クラスでもよく貧乏だとバカにされていたが、その家を見たら入る前に納得した。
俺だって親戚の家に住んでいて、ろくな扱いを受けていなかったが、心のどこかではそいつのことをバカにしていた。
きっとこいつは自分より下なのだと思いこんでいた。
しかし家に通されて、狭い応接間に座らされた俺は自分の思いが、いかに浅はかでひどい勘違いだったことに気がついた。
狭いし物は溢れていて、お世辞にも綺麗な家ではなかった。だか天井には飾りがつけられて部屋には風船が浮いていた。
料理は慎ましいが、精一杯手が込んだものが机の上に並べられていた。
絵がついた紙皿は見たことがないくらい可愛らしいものだった。
いっぱい食べてねと言って笑ったそいつの母親。僕も参加すると言って料理をむしゃむしゃ食べていたそいつの弟。
みんなが楽しそうに笑っていた。
飾りにも料理にも母親の視線にも、そのどれもがたくさんの愛情で溢れていた。
一つ一つに、喜んでもらいたいという思いが込められているのが見えた。
ここにある物の一つも俺は持っていなかった。
それどころか、俺は自分の誕生日すら知らない。今まで、誰も祝ってくれたことがないからだ。
自分より下で不幸だと思っていた男の子は、本当は手が届かないくらい場所にいた。
ひどく惨めで苦しい気持ちになった。
こんな思いをするならお誕生日会なんて二度と行かないと決心したけれど、そんな心配はいらなかった。
なぜなら二度と呼ばれることはなかったから。
ニクイ
カナシイ
誰が?
ゼンブ
ゼンブニクイ
だったら
ダッタラ
全部燃やしてしまえ
「ううっ…!!がっ!ゴホッ…」
寝ながら大量に空気を吸い込んだので、飲み込めきれずに咽せながら飛び起きた。
制服で寝てしまったので、寝汗でシャツが濡れて体に張り付くのがひどく不快だった。
苦しかったのでいつも首元まで締めているシャツのボタンを掻きむしるように何個か外して一息をついた。
「はぁ…はぁ…」
悪夢に悩まされるのはよくあることだが、久しぶりにあの頃の事を思い出した。
バースデーパーティーなんて話を聞いたからかもしれない。
まったく、思い出したくないものばかり思い出す。
そこまで考えて俺はおかしくなった。
そもそも思い出したい思い出なんて、俺にはなかったのだ。
最低の夜だ。
夕方から寝ていたこともあるし、このまま大人しくベッドに収まっていることなどできなかった。
少しだけ夜風に当たろうと寮を抜け出して、夜道を歩き出した。
なぜ自分がここに来てしまったのか分からない。昨日は混乱させられて、とても近づきたくない場所のはずだ。それが無意識に歩いていたら、昨日と同じ場所にたどり着いてしまった。
そもそも方向音痴の俺が、地図も見ずにちゃんとこの場所に戻ってこれたことも信じられなかった。
通話室がある棟から少し出で、開けたスペース。昨晩アルメンティスと話をした場所だった。
月明かりの下、薄暗い外灯の周りだけぼんやりと浮かび上がっている。もちろん誰もいない。俺は何をしているのだと、外灯にもたれかかって目を閉じた。
お前は俺のもの、アルメンティスはそう言ってきた。それが何を意味するのか分からない。神にすがって名を残そうとしているくだらない男だ。
あちらのお国から来たやつなら、バカだと笑ってくるか可哀想にとお情けで同情してくれるかもしれない。
それなのに、まるで欲されているみたいな言い方が気に入らない。
やつは何がしたいのだろうか。
「やあ、こんばんは」
そうか、俺には理解できないなら、直接聞いてみるしかない。
聞こえてきた声に、目蓋から伸びた糸を引かれたように、俺はバチっと目を開けた。
そこには昨日と同じ、夜の世界に舞い降りたような白銀の天使みたいな男が微笑んで立っていた。
「待たせてごめんね」
「待ってない。約束すらしていないだろう」
「あれ?おかしいな。レイは俺のことをいい子で待っていると思ったのに」
「悪いが俺はいい子じゃない。そういう従順な人形が欲しければ他を当たれ」
いい加減言葉遊びにも疲れてきた。
目の前のキラキラしたふざけた男を睨みつけた。
目一杯、醜悪な顔を作ったつもりだったのに、アルメンティスは高揚したように頬を赤くしてニヤリと笑った。
何が嬉しいのだろうか。
嫌な笑い方だ。魂まで舐められているようで、俺はゾクリ震えて体を揺らした。
「はぁ…負けたよ。こういう遊びは慣れてないんだ。アルティ、お前はいったい何がしたいんだ?」
降伏したところで俺には失うものなど一つもない。毛を逆立てるのはやめて、素直に聞いてみることにした。
「今まで興味がなくてさ、むしろ増悪の気持ちすらあった。それなのに初めて会った時から君のことが頭から離れない。これはなに?なんなの?こんなに胸が騒ぐならいっそ手に入れてしまおうか。いくらレイが嫌だと言っても、逃げることができないように一番確実でシンプルな方法で……」
俺が質問したのに、まるで独り言みたいにアルメンティスはペラペラと喋りながら、俺の頭に手を伸ばして、指の腹で髪を撫でてきた。
「な…なっ……何言ってんだよ。ちっとも分からない」
「レイ、どうして君はここへ来たんだ?君こそ訳の分からない男にわざわざ会いに?それはなぜ?」
アルメンティスはどんどん距離を詰めてきた。離れなければと思って後退したが、背中に当たった外灯がそれを阻むように押し返してきた。
「し…知らない…、あ…足が勝手にここへ……おい……来るな…離れて…くれ…」
伸びてきた手が、シャツの前に触れた。そういえばボタンを外してから、前をほぼ開けたままだった。すでにはだけていた胸元は簡単にアルメンティスの侵入を許してしまった。
月明かりの下でまるで月から降りてきたような男は、神々しい光を放ちながら間近で俺を見つめていた。
俺はその視線に囚われて身動きが取れないまま、この先に何があるのかアメジストの輝く瞳の中に答えを探し続けた。
□□□
迫り来るのは真っ赤な炎。木々に移って天高く手を伸ばすように燃え上がった。
いくら泣いて叫んでもいつも包んでくれた温もりを得ることはできない。
ひどくぼんやりして焦点の合わない世界で、真っ赤な炎だけが俺を包んでいた。
これは両親が死んだ時の記憶なのだろうかと思うが、赤ん坊だった俺がおぼえているはずなどない。
それなのに、体を這い回る熱と叫んでも届くことのない声、徐々に燃えていく身体、全てがリアルに今起こっているかのような夢を見る。
俺にとって赤は全ての始まりの色で終わりの色。
あの四角い窓から眺めていた壁。
それが赤く染まっていく。
燃えてしまえ、全て燃えてしまえ。
赤い赤い炎で、あいつも、あいつも…そして俺も。
「レイ?大丈夫?」
心ここに在らずでぼっーとしていた俺にルザラザが声をかけてきた。
とっくに授業は終わってみんな帰り始めていたが、一人黒板を見ながら時間が止まっていたらしい。
昨夜、外で突然アルメンティスに組み敷かれ、訳の分からないことを言われて逃げて帰ってきた。
遅く帰ってきた俺のことを、ルザラザは心配していたが、家族との電話が長引いてしまったと伝えておいた。
どんな所にも頭のおかしいやつはいる。むしろ、俺の生きてきた世界ではそういうやつしかいなかった。アルメンティスがどんなやつかも分からない。俺に近づいてきたの事に、深い意味などなさそうだが、最後の台詞が気になって頭から離れなかった。
「ありがとう。大丈夫だ…」
「寝不足なんじゃない?今日は早く休んだ方がいいと思うけど…で、朗報だよ。明日の放課後兄がこっちに来るんだ。実家のことで俺と話す予定なんだけど、その時にレイ、君を連れて行こうと思って。手紙で紹介したいって連絡したけど、よく考えたらあの人俺からの手紙なんていつ読むのか分からないし、この方が早く面会できるから!」
「あ…明日か…そうか……分かった」
散々頼んでおいて、いざ実現しそうになったのにテンションの低過ぎる俺を見てルザラザは不思議そうな顔になった。
「レイ?何かあった?」
「ルザラザ、聞きたいんだけど。この名前に聞き覚えはないか?アルメン……」
俺の問いかけはルザラザと仲のいい連中がわっと集まって来て途切れてしまった。
そういえば今日は誰かの誕生日で、そいつの部屋に集まってパーティーをするとかそんな話をしていたなと思い出した。
「こめん、レイ!後で聞くよ」
準備だ買い出しだと色々あるらしく、揉みくちゃにされながらルザラザは連れて行かれた。
俺も誘われたが体調不良でと断っていた。誰かが酒を調達したらしく、みんなで騒ごうと盛り上がっていたので遠慮した。パーティーは飲んで最後は雑魚寝するらしく、そんな気分にはなれなかった。
どれくらい寝たのだろう。
寝ても寝ても寝足りない。育ち盛りだと思いながら、まだ体に絡みつく眠気と一緒にベッドの波に身を任せた。
遠くで楽しげな歌が聞こえる。
きっと寮のどこかの部屋でパーティーが盛り上がって合唱でもしているのだろう。
小学生の頃、一度だけ呼ばれた誕生日会。
俺はハッピーバースデーの歌を知らなかった。
日本のお誕生日会は友達を呼んでプレゼントをもらい、そこの家の料理とバースデーケーキでもてなす。
俺を誕生日会に呼んだ男の子は、狭くて小さ家に住んでいた。古くさい佇まいの年季の入った玄関、壊れて転がっている玩具に破れた障子。
そいつの家はシングルマザーで、クラスでもよく貧乏だとバカにされていたが、その家を見たら入る前に納得した。
俺だって親戚の家に住んでいて、ろくな扱いを受けていなかったが、心のどこかではそいつのことをバカにしていた。
きっとこいつは自分より下なのだと思いこんでいた。
しかし家に通されて、狭い応接間に座らされた俺は自分の思いが、いかに浅はかでひどい勘違いだったことに気がついた。
狭いし物は溢れていて、お世辞にも綺麗な家ではなかった。だか天井には飾りがつけられて部屋には風船が浮いていた。
料理は慎ましいが、精一杯手が込んだものが机の上に並べられていた。
絵がついた紙皿は見たことがないくらい可愛らしいものだった。
いっぱい食べてねと言って笑ったそいつの母親。僕も参加すると言って料理をむしゃむしゃ食べていたそいつの弟。
みんなが楽しそうに笑っていた。
飾りにも料理にも母親の視線にも、そのどれもがたくさんの愛情で溢れていた。
一つ一つに、喜んでもらいたいという思いが込められているのが見えた。
ここにある物の一つも俺は持っていなかった。
それどころか、俺は自分の誕生日すら知らない。今まで、誰も祝ってくれたことがないからだ。
自分より下で不幸だと思っていた男の子は、本当は手が届かないくらい場所にいた。
ひどく惨めで苦しい気持ちになった。
こんな思いをするならお誕生日会なんて二度と行かないと決心したけれど、そんな心配はいらなかった。
なぜなら二度と呼ばれることはなかったから。
ニクイ
カナシイ
誰が?
ゼンブ
ゼンブニクイ
だったら
ダッタラ
全部燃やしてしまえ
「ううっ…!!がっ!ゴホッ…」
寝ながら大量に空気を吸い込んだので、飲み込めきれずに咽せながら飛び起きた。
制服で寝てしまったので、寝汗でシャツが濡れて体に張り付くのがひどく不快だった。
苦しかったのでいつも首元まで締めているシャツのボタンを掻きむしるように何個か外して一息をついた。
「はぁ…はぁ…」
悪夢に悩まされるのはよくあることだが、久しぶりにあの頃の事を思い出した。
バースデーパーティーなんて話を聞いたからかもしれない。
まったく、思い出したくないものばかり思い出す。
そこまで考えて俺はおかしくなった。
そもそも思い出したい思い出なんて、俺にはなかったのだ。
最低の夜だ。
夕方から寝ていたこともあるし、このまま大人しくベッドに収まっていることなどできなかった。
少しだけ夜風に当たろうと寮を抜け出して、夜道を歩き出した。
なぜ自分がここに来てしまったのか分からない。昨日は混乱させられて、とても近づきたくない場所のはずだ。それが無意識に歩いていたら、昨日と同じ場所にたどり着いてしまった。
そもそも方向音痴の俺が、地図も見ずにちゃんとこの場所に戻ってこれたことも信じられなかった。
通話室がある棟から少し出で、開けたスペース。昨晩アルメンティスと話をした場所だった。
月明かりの下、薄暗い外灯の周りだけぼんやりと浮かび上がっている。もちろん誰もいない。俺は何をしているのだと、外灯にもたれかかって目を閉じた。
お前は俺のもの、アルメンティスはそう言ってきた。それが何を意味するのか分からない。神にすがって名を残そうとしているくだらない男だ。
あちらのお国から来たやつなら、バカだと笑ってくるか可哀想にとお情けで同情してくれるかもしれない。
それなのに、まるで欲されているみたいな言い方が気に入らない。
やつは何がしたいのだろうか。
「やあ、こんばんは」
そうか、俺には理解できないなら、直接聞いてみるしかない。
聞こえてきた声に、目蓋から伸びた糸を引かれたように、俺はバチっと目を開けた。
そこには昨日と同じ、夜の世界に舞い降りたような白銀の天使みたいな男が微笑んで立っていた。
「待たせてごめんね」
「待ってない。約束すらしていないだろう」
「あれ?おかしいな。レイは俺のことをいい子で待っていると思ったのに」
「悪いが俺はいい子じゃない。そういう従順な人形が欲しければ他を当たれ」
いい加減言葉遊びにも疲れてきた。
目の前のキラキラしたふざけた男を睨みつけた。
目一杯、醜悪な顔を作ったつもりだったのに、アルメンティスは高揚したように頬を赤くしてニヤリと笑った。
何が嬉しいのだろうか。
嫌な笑い方だ。魂まで舐められているようで、俺はゾクリ震えて体を揺らした。
「はぁ…負けたよ。こういう遊びは慣れてないんだ。アルティ、お前はいったい何がしたいんだ?」
降伏したところで俺には失うものなど一つもない。毛を逆立てるのはやめて、素直に聞いてみることにした。
「今まで興味がなくてさ、むしろ増悪の気持ちすらあった。それなのに初めて会った時から君のことが頭から離れない。これはなに?なんなの?こんなに胸が騒ぐならいっそ手に入れてしまおうか。いくらレイが嫌だと言っても、逃げることができないように一番確実でシンプルな方法で……」
俺が質問したのに、まるで独り言みたいにアルメンティスはペラペラと喋りながら、俺の頭に手を伸ばして、指の腹で髪を撫でてきた。
「な…なっ……何言ってんだよ。ちっとも分からない」
「レイ、どうして君はここへ来たんだ?君こそ訳の分からない男にわざわざ会いに?それはなぜ?」
アルメンティスはどんどん距離を詰めてきた。離れなければと思って後退したが、背中に当たった外灯がそれを阻むように押し返してきた。
「し…知らない…、あ…足が勝手にここへ……おい……来るな…離れて…くれ…」
伸びてきた手が、シャツの前に触れた。そういえばボタンを外してから、前をほぼ開けたままだった。すでにはだけていた胸元は簡単にアルメンティスの侵入を許してしまった。
月明かりの下でまるで月から降りてきたような男は、神々しい光を放ちながら間近で俺を見つめていた。
俺はその視線に囚われて身動きが取れないまま、この先に何があるのかアメジストの輝く瞳の中に答えを探し続けた。
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