竹盗物語

江洲 憩

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五幕「かぐやの正体」

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 ――婚約者が全て脱落したところに、太閤殿下と月の宣教師が目の前に現れた。

 月の宣教師は、江戸弁とも京弁とも言えない独特な言い回しで話し出す――


「ナンですかネェ、実の親の許可を得ずして婚約者を選ぶなんテ……」
「飛んで火に入る夏の虫タァ、このことだなぁ、お二人さんよ。」

 威勢を見せるが、以前殺されかけただけあって、身体の震えが止まらない。

「笑止、虫とは貴様らのことであろう害虫どもが。きさきとなるかぐやを盗みおって」

 聞き捨てらならねぇ言葉だな。
 かぐやが珍しく怒りを露わにして、問いかける。

「私は貴方の女房になるつもりありません。そして月の宣教師。貴方に一つ聞きたいことがあります」
「ナンデスカ、我が娘ヨ」
「貴方が、私を開発した研究者なのですね……?」

 開発?
 研究者……?

「アァ、そうデス。私が自動感情認識殺戮兵器『永愛えーあい』の生みの親デスヨ?」
「じどう……さつりく?」

 物騒な名前を聞かされ、頭の歯車がチグハグとなった。
 俺より頭の歯車が噛み合うかぐやは、受け入れたように冷静に続ける。

「なぜ私をこの世に……」
「この世界を平安の世にするためデス。遊女のように主人の慰み者とされ、そして世の邪魔者までも排除する、まさに一石二鳥の人格ロボット。それを私は開発に成功シマシタ!」

 こいつの頭には蛆虫うじむしでも沸いているんじゃぁねぇか?
 淫らな頭をグチャグチャに乱してやりたい感情に陥る。

「だがシカシ、どこぞの馬の骨に余計なことを吹き込まれ、変な感情が芽生えてしまったラシイデスネ……」

 月の宣教師は、南蛮銃の銃口をかぐやに向けて撃ち放つ。
 俺はすかさずかぐやを守り、俺の背中に銃弾が入っていくのが分かった。

「お父様ッ⁉︎」
「あれ……痛くない……」

 撃たれた背中は何一つ傷がついていなかった。

「おやオヤ、これはしくじってしまいましター。せっかくの『裏星兎りすたぁと弾』を無駄遣いしてシマウとは……」
「これ、宣教師よ。あまり遊びがすぎると、貴様の首が飛ぶことになるぞ」
「オー、それは困りマシタ! 次こそはこの弾を当てて、初期化してしまわないとデスネー!」

 初期化だと……?

「サァ、お遊びはここまでデス。月の国から出荷した状態に戻し、久吉様を癒し、全ての邪魔者を排除するのデス!」

 ふざけんじゃねぇ。
 誰がテメェらなんかに、かぐやを盗まれてたまるもんか……!

「さぁ、大人しくかぐやを返せば見逃してやるぞ、この溝鼠どずねずみよ」
「おいおい、テメェら俺を誰と思っていやがるだ……?」
「石川五右衛門であろう?」
をつけろや、このハゲネズミッ‼︎」
「……なっ⁉︎」

 満月の光をスポットライトに見立てた俺は、太閤殿下を目の前に大見得を切る。

「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よぉおッ‼︎ 月夜に輝くかぐや姫、おのが手に入れたくば、この天下を揺るがす大泥棒、石川五右衛門様を捕まえろぉおッ‼︎」

 散り散りに散ったはずの観客と、5人の脱落した貴族達が歓声をあげ、久吉達を無視して雪崩れのように駆け込んでくる。
 俺の声に反応した、阿国と助兵衛もその中に紛れ込んでいるであろう。

「おやオヤ、こんな方法で目眩しなんぞ、バカの考えることは面白いデスネ。魔心眼マシンガンで一人残らず殺してしまいマショウか?」
「それも一興だが、いまはかぐや姫の奪還だ。今夜中に取り戻さねば、貴様を蜂の巣にしてやるぞ」
「オオ、怖いデスネー」
「私ならここにいます」

 かぐやにしては色っぽい乱れた服装で宣教師に話しかけている。

「オオ、これはこれは自ら戻ってくるとは殊勝な心掛けデース」
「そう簡単には捕まりませんよ?」

 色っぽい笑みを浮かべて暗闇へと消えていくかぐや。
 それを宣教師は、鼻の下を伸ばして久吉そっちのけで追いかけ出した。
 色気があるのは勿論だ、何故ならそいつは我が座長の出雲阿国なのだから。

 俺達は太閤殿下、真柴久吉相手に一世一代の大芝居の幕を開けた――
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