竹盗物語

江洲 憩

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四幕「求婚者レース」

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 ――急に言われた結婚宣言。
 結婚したこともない俺が、愛娘から結婚という言葉を受けて、どうしようと動揺する。
 阿国を呼んで、緊急家族会議が始まった――


「あぁ、祝言しゅうげんの話はアタシが考えたことさ」

 こいつが元凶か!
 また損得勘定で決めたに違いない!

「最近どうやら久吉の動きが活発になってきてね、恐らくかぐやの人気が耳に入ったんだろうねぇ」
「求婚者の中に、久吉と月の宣教師と繋がってるであろう人がいたのです……」
「それでなんで結婚って話になるんだよ!」

 どうせ阿国が、貴族と結婚すれば大金が手に入るとか考えているんだろう。
 そうよこしまな考えだろうと思っていたら、かぐやが弁明する。

「私が結婚すれば話題になると思います。それで久吉を引き付け、もう一度月の宣教師に会って話がしたいんです。私は一体誰の子どもで、私は一体何者なのかを……」
「それに祝言を上げたら、その花婿から金を巻き上げて、久吉のおとりにしたら一石二鳥、いや三鳥になるかもしれないからねぇ!」

 阿国の話は呆れるが、かぐやの思いを聞いて納得した。
 自分が一体何者なのか判らないのは辛いだろう。
 だけど……

「求婚者と結婚するかは許さんが、とりあえず目立ちゃぁ良いわけだろ?」
「お父様?」
「俺に良い考えがある……」

 頭は悪いが、かぐやの為とあれば回るもんだ。
 まぁ悪いことにゃぁならねぇだろうと、行動に移す。


 それからまた一ヶ月が経ち、三度目の満月の夜。
 

 大勢の人々の大盛況。
 阿国一座番頭役の助兵衛が声を上げる。

「レディースアンドジェントルメン‼ 遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ‼ 我らが歌舞伎踊りの超新星、かぐや姫様の結婚相手を決める大会、求婚者レースの始まりでやんすぅうーッ‼」

 司会の助兵衛が盛り上げると、観衆は大きな声援を上げる。
 声援の先には、五人の貴族たち。
 かぐやを狙う、盗人ぬすっとどもだ。

「命知らずの求婚者たちに、我らが阿国一座の副座長! 石川五右衛門が、ルール説明をするでやんすよぉッ‼」

 司会の導きに俺は出て、久吉を導くための一芝居に出る。

「えー。紹介に預かりました石川五右衛門です。今回皆さんには、かぐや姫と結婚するにふさわしいかを試させていただきます。まずは背番号一番!」
「はい!」

 着物に似合わぬゼッケンを着た背番号一番が返事をする。

「一番は、仏の御石みいしを手に入れろ!」
「はい!」
「二番は、蓬莱ほうらいの玉の!」
「はい!」
「三番は、火鼠ひねずみ皮衣かわごろも!」
「はい!」
「四番は、龍のくびの珠! 五番はつばくらめの子安貝!」
「「はいッ!」」

 俺は絶対手に入らないであろう入手困難な物を提示する。
 すると、お人形のように綺麗な身なりをしたかぐやが俺に向かって問いかける。

「お父様、そんな代物が手に入るわけ……」
「いいかぁ、オメェら、かぐや姫と結婚したいかぁあッ!」
「「おーッ‼」」
「かぐや姫とイチャイチャしたいかぁッ!」
「「おーッ‼」」

 俺はかぐやの言葉を無視して、高らかに声を張る。

「第一回、求婚者レースの始まりだぁあーッ‼」
「「おぉーッ‼」」

 戦いの火蓋は切られ、五人の求婚者たちは観客の声援を背に散り散りと消えていった。
 無理なことは百も承知だが、これだけ大っぴらにやりゃぁ久吉も黙ってないだろう。

 一番の仏の御石は天竺てんじくの高級品だ。
 数時間で帰ってきたゼッケン一番は、百円均一で売っているような鉢を持ってきて即失格。
 
 二番の蓬莱の珠の枝は、ガラス細工で偽物を作っていたので、ぶっ壊してやった。
 三番の火鼠の皮衣は燃えないはずだが、火をつけたら盛大に燃えた。
 四番の龍の頸の珠は、そもそも龍が存在しない。
 そしたらトカゲの頸に鈴をつけて持ってきた。
 
 個人的には面白く褒めてやりたかったのだが、心を鬼にして失格とした。

 そして最後の五番は思いの外、大健闘。
 燕の子安貝は、燕が産んだ貝のことだが存在するはずがない。
 そう思っていたのだが、遠くから見守っていると五番は一生懸命、崖を登っていた。

「燕の巣にたどり着くまで……あきらめんぞ!」
「ほぉーん、中々見込みのあるおとこだなぁ……」

 かぐやをやる気は毛頭ないが、もう登頂まで登ったゼッケン五番。
 すると奇跡が起きた。

 燕の巣に貝があったのだ。
 ゼッケン五番が喜び勇むと、足を滑らせ落っこちる。

 俺は貝と五番をキャッチする。

「こらこら、貝は落としても命を落としちゃぁ意味ねぇぜ?」
「すみません……」
「オメェは偉いが、俺は盗人だ。この貝は俺が頂いたよ」
「はい……」

 こうして、全員の脱落が決定した。
 会場の四条河原へと戻ると、観客たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
 今回の最大の目的が果たされたのだ。

「石川五右衛門、かぐやを返してもらおうぞ?」

 太閤殿下が自ら出向き、その隣には胡散臭い男もついていた――
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