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三幕「京都、四条河原」
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――我を失い太閤殿下に殴りにかかると、危うく命を失いかけた。
俺の娘となったかぐやの不思議な力により間一髪、命を拾った。
ここは京都、四条河原。
目を覚ますと、俺達一座の本拠地だった――
「目を覚ましましたでやんすね、五右衛門の旦那」
俺は気絶をしていたらしい。
目を覚ますと阿国一座の番頭役、助兵衛が顔を覗かした。
「助兵衛か……。……かぐやは……ッ⁉」
「あぁ、あの可愛い子なら歌舞伎踊りの稽古中でやんすよ」
話を整理するとこうだった。
俺はかぐやの不思議な力でここへ飛び、一日中、気絶をしていたらしい。
その間に、阿国がかぐやの美貌に目をつけ一座に迎えたとのことだった。
小屋から外へ出てみると、阿国とかぐやが踊っていた。
初心者とは思えないほど、優雅で可憐に踊っているかぐや。
俺に気づくと、踊るのをやめて近寄ってくる。
「お父様、目を覚ましたのですね!」
無邪気に俺に抱きついてくる。
「アンタ、かぐやに感謝しなさいな。かぐやがいなかったら、今頃仏様になってたんだからね」
「分ぁーってるよ。かぐや、ありがとうな」
「元気でなによりです!」
最初は無機質な顔つきだったのに、この一日で柔らかな笑顔を見せるかぐや。
なんとも言えない不思議な力と雰囲気を持つ子だ。
「あのぉ、良い雰囲気を醸し出すのは結構なんでやんすが、今回の仕事は無報酬。これじゃあ次回公演できるほどの資金がないんでやんすよ」
「うるせぇな助兵衛、命あっての物種じゃぁねぇか」
「たしかに命は金に換えられませんが、そろそろ一座が倒産でやんすよ、お父さん」
事情を聞いたらしい助兵衛が、俺に嫌みを言ってくる。
義賊活動の報酬の半分は孤児の手当。
そして残りの半分は阿国一座の資金になっている。
「うるさいねぇ、助兵衛。今回は金にゃぁならなかったけど、この子がいれば大判小判ざっくざくは間違いないわ!」
「はい! 歌舞伎踊り、一生懸命精進します!」
自分の娘に算盤を弾く、守銭奴の阿国。
久吉の一件で、身体がまだ重い俺は、もう一度寝ることにした。
それから幾日かが経つ……
銃に撃たれて重傷となった門左衛門は目を覚ますと、すぐに姿を消した。
かぐやは短期間で見事なまでに成長し、人前で歌舞伎踊りを披露していた。
阿国のお墨付きなだけはあり、瞬く間に人気と金を集めた。
かぐやは毎日毎晩ファンに囲まれ、柔らかな笑顔と困った顔をする。
最近では貴族達から求婚までされるほどだ。
うちの娘はやらん!
……という、定番なセリフが身をもって分かった。
また数日が経ち、満月の夜。
小屋から出ると、阿国とかぐやが話していた。
なにやら話して阿国が去る。
するとかぐやは満月を眺め、黄昏ていた。
その姿は儚げで、月明かりに照らされ美しかった。
そのまま不思議な力で月に消えて行ってしまうのではないかと、心がざわつく。
俺の娘になってから一ヶ月、短いようで長かった。
最近では阿国に似たのか、俺よりも損得勘定が得意で助兵衛と予算会議をするほどだ。
「どうした、かぐや。月なんか眺めて」
「お父様。私は月の宣教師の娘と言われたこと覚えていますか?」
「あぁ、久吉の隣にいた変なやつか」
「今思うと、本当にあの人が親だったのだと思います」
「そうか……」
月を眺めているかぐやの横顔を見ると、胸が締め付けられた。
もしかして、本当に遠くにいってしまうんだろうか。
「本当の親の元へいきたいか?」
「いいえ。私の親は、お父様とお母さまですから!」
眩い笑顔を見て、俺の心はホッとする。
ホッとしたのも束の間で、放っておけない話が続く。
「私、結婚しようと思います」
月の国へと帰るのではなく、どこの馬の骨か分からない奴との結婚の宣言。
どちらにしても結局は、俺の元から離れていくのだと思うと、額と目から汗が滲み出た――
俺の娘となったかぐやの不思議な力により間一髪、命を拾った。
ここは京都、四条河原。
目を覚ますと、俺達一座の本拠地だった――
「目を覚ましましたでやんすね、五右衛門の旦那」
俺は気絶をしていたらしい。
目を覚ますと阿国一座の番頭役、助兵衛が顔を覗かした。
「助兵衛か……。……かぐやは……ッ⁉」
「あぁ、あの可愛い子なら歌舞伎踊りの稽古中でやんすよ」
話を整理するとこうだった。
俺はかぐやの不思議な力でここへ飛び、一日中、気絶をしていたらしい。
その間に、阿国がかぐやの美貌に目をつけ一座に迎えたとのことだった。
小屋から外へ出てみると、阿国とかぐやが踊っていた。
初心者とは思えないほど、優雅で可憐に踊っているかぐや。
俺に気づくと、踊るのをやめて近寄ってくる。
「お父様、目を覚ましたのですね!」
無邪気に俺に抱きついてくる。
「アンタ、かぐやに感謝しなさいな。かぐやがいなかったら、今頃仏様になってたんだからね」
「分ぁーってるよ。かぐや、ありがとうな」
「元気でなによりです!」
最初は無機質な顔つきだったのに、この一日で柔らかな笑顔を見せるかぐや。
なんとも言えない不思議な力と雰囲気を持つ子だ。
「あのぉ、良い雰囲気を醸し出すのは結構なんでやんすが、今回の仕事は無報酬。これじゃあ次回公演できるほどの資金がないんでやんすよ」
「うるせぇな助兵衛、命あっての物種じゃぁねぇか」
「たしかに命は金に換えられませんが、そろそろ一座が倒産でやんすよ、お父さん」
事情を聞いたらしい助兵衛が、俺に嫌みを言ってくる。
義賊活動の報酬の半分は孤児の手当。
そして残りの半分は阿国一座の資金になっている。
「うるさいねぇ、助兵衛。今回は金にゃぁならなかったけど、この子がいれば大判小判ざっくざくは間違いないわ!」
「はい! 歌舞伎踊り、一生懸命精進します!」
自分の娘に算盤を弾く、守銭奴の阿国。
久吉の一件で、身体がまだ重い俺は、もう一度寝ることにした。
それから幾日かが経つ……
銃に撃たれて重傷となった門左衛門は目を覚ますと、すぐに姿を消した。
かぐやは短期間で見事なまでに成長し、人前で歌舞伎踊りを披露していた。
阿国のお墨付きなだけはあり、瞬く間に人気と金を集めた。
かぐやは毎日毎晩ファンに囲まれ、柔らかな笑顔と困った顔をする。
最近では貴族達から求婚までされるほどだ。
うちの娘はやらん!
……という、定番なセリフが身をもって分かった。
また数日が経ち、満月の夜。
小屋から出ると、阿国とかぐやが話していた。
なにやら話して阿国が去る。
するとかぐやは満月を眺め、黄昏ていた。
その姿は儚げで、月明かりに照らされ美しかった。
そのまま不思議な力で月に消えて行ってしまうのではないかと、心がざわつく。
俺の娘になってから一ヶ月、短いようで長かった。
最近では阿国に似たのか、俺よりも損得勘定が得意で助兵衛と予算会議をするほどだ。
「どうした、かぐや。月なんか眺めて」
「お父様。私は月の宣教師の娘と言われたこと覚えていますか?」
「あぁ、久吉の隣にいた変なやつか」
「今思うと、本当にあの人が親だったのだと思います」
「そうか……」
月を眺めているかぐやの横顔を見ると、胸が締め付けられた。
もしかして、本当に遠くにいってしまうんだろうか。
「本当の親の元へいきたいか?」
「いいえ。私の親は、お父様とお母さまですから!」
眩い笑顔を見て、俺の心はホッとする。
ホッとしたのも束の間で、放っておけない話が続く。
「私、結婚しようと思います」
月の国へと帰るのではなく、どこの馬の骨か分からない奴との結婚の宣言。
どちらにしても結局は、俺の元から離れていくのだと思うと、額と目から汗が滲み出た――
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