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12月◎日、獣神王、そして狸親父と狐と鼓
57.斯々猫々、喫茶で殺気が起きまして!
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――地下鉄を降りた先は秋葉原だった。
街にはサンタコスのお姉ちゃんがチラホラと。
よく考えたら12月も中頃で、世間はクリスマスシーズン一色になり始めていた。
奇しくもクリスマスは、絵世界の文化祭当日であり、この世間の移り変わりはタイムリミットの近付きのお知らせでもあった。
櫻さんは、通い慣れているのか迷うことなく進んでいき、少し遅い昼飯を食べる場所に着いたようだった。
「オムライスと言えば、ここ」
「ここは……ッ‼︎」
喫茶店は喫茶店でも、メイド喫茶でした――
「メイド喫茶……?」
「ここは演劇部の友達がバイトしてて、それのお手伝いで私もたまに手伝ってるの」
「へ、へぇ……」
なんという交友関係……
入ったことのない喫茶店の扉を開ける。
すると同い年くらいの女の子が、
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
「ただいま、メイ」
「なんだオウちゃんかー! いらっしゃい!」
同い年っぽいメイドさんは、
設定を忘れ、普通の女子高生に戻った。
そんな声に、他のメイドさん達が集まりだす。
「櫻様ですって……!」
「はっ、なんてこと、櫻様に彼氏……」
「そんな、櫻様に限って……」
「普段着の櫻様……サイコーッ!」
静かに黄色い声と悲鳴を上げるメイドさん達。
「オムライスが食べたいの。お願いしてもいいかしら?」
「「「「よろこんでッ‼」」」」
従業員のメイドさん達は、櫻さんの鶴の一声に大勢で返す。
俺はここに居ていいのだろうか……
「あははー。驚かせてゴメンね、獅子玉くん」
最初に出迎えてくれた演劇部の人が素の声で話し掛けてくれた。
「今は店長がいないから安心して?」
「そ、そうですか……」
「私は三年F組の神馬芽衣って言うの」
「あ、俺と同学年なんですね」
「そーだよー。覚えてないかもだけど、一年生の時は同じクラスだからね?」
「わっ、ごめんなさい」
「こっほん。……大丈夫ですよ、ご主人様?」
急にメイドモードに入った、神馬さん。
「このお店ではメイメイって呼んでください! ……あ、折角ですから御嬢様。ご主人様の為に、お着替えをなされましては?」
「うん。虎之助、着替えてくるから待ってて」
そう言って、従業員専用の部屋へと入っていく櫻さん。
周りを見れば、チラホラとお客さんが居る中、俺はポツリと残される。
一人残されたので、文化祭の出し物をどうしようかと悩んでいると、
「お待たせしました、オムライスでございます……」
普段の給仕服でもなく、絵世界の大正モダンな装備でもない、聖地に降り立つメイド様がそこにいた。
「お、おうさん……?」
「ご主人様、オムライスを美味しくする呪文を御掛けしましょうか?」
そう言って何やら妖力を放とうとするので……
「ケチャップでお願いします、メイド様……」
「あらそう?」
厨房と控室辺りから、羨望と嫉妬の殺意を大量に感じたのであった……
「まぁ、冗談はここまでにして語りましょうか」
「セーラーニャーンのことですか⁉︎」
「ううん、文化祭について」
メイド服の櫻さんは、真剣な表情で話を切り出した。
「何かしたいことあるの?」
「んー、話を考えるのは好きなんですけど……」
「けど?」
「人前に出るのが恥ずかしくて……」
人前に出るのが苦手。
昔から悩んでいることだ。
櫻さんは、それを汲み取ってくれて今日誘ってくれたのだろう。
「主役をやらなくても、虎之助が物語を作ればいいと思うの」
「へ?」
「私はあなたの話が好きよ?」
ん。ん。ん……?
「獅子16号先生……?」
「やめっ、やめろぉおおーーッ!」
人目を気にする暇も無く、大声で黒歴史を搔き消そうとするが無駄だった……
そうだ、櫻さんは俺の部屋を掃除してくれてる時に読んでいたんだッ!
「いいじゃない。私は好きだもの」
「ほ、本当ですか……?」
巽派の内弟子が俺の漫画の悪口を言っていた過去があるので自信が無い。
俺は思い描いた世界を描くのが好きなだけだ……
「新しい話を書きましょう、虎之助?」
「え?」
「私も手伝うから、ね?」
俺の目の前に置かれた一つのオムライスを頬張りながら、俺をあやす様に微笑む櫻さんだった。
……それから今日観た、歌舞伎と映画を元に熱論を繰り広げた。
「いやっ、五右衛門はかぐやを助けるんです!」
「ダメ。かぐやには母親である阿国というものがいて……」
「調べましたけど、五右衛門と出雲阿国は違う時代じゃないですか!」
「いいの、それでもいいの! お芝居は異世界なの! だからメルヘンでいいの!」
普段無口な俺達が、
一つの議題で忖度無しに討論した。
お互いがお互いの良い所を取り合っていく内に……
「竹盗物語……いいですね、これでいきましょう!」
「そうね……これで私も良いと思うわ」
大体のプロットが決まり、勢いで白黒のネームを作り上げた。
「なぁーにー、これ面白そうじゃん!」
演劇部の神馬さんは、楽しそうに読んでくれた。
「あはは! うちの劇部でやりたいくらい!」
俺と櫻さんは熱論の末、
顔を見合わせて、
満面の笑みで笑っていた……
すると店の扉が開き、新たなお客さんが来店する。
「おかえりなさいませ、御嬢様!」
神馬さんは、帽子を目深に被りサングラスとマスクをした女の子を案内する。
……ん、あの全身カーキ色にリュックサックを背負った女の子。
映画館で前の列にいた人だよな……?
女の子は神馬さんにメニューを注文し、やがてオムライスが届く。
「萌え萌えキュン!」
神馬さんの魔法に女の子は萌え萌えして、帽子とサングラスを取る。
そして嬉しそうにマスクを取り、スプーンに手を掛け、俺は気づいてしまった……
「じゅら……?」
「どうしたの、虎之助」
俺は徐に立ち上がり、女子に近づく。
女の子に近づくにつれ、確信に近づく。
金髪プリン頭に、カラコンもしていない黒い瞳。
チークもリップもしていないスッピンだけど、俺には分かる……。
元引き籠りが言うセリフでは無いのだが、無意識に……
あー、無意識は言い訳か。
俺に似た子を放っておけず、
机に手を突き、
声を掛けるッ……!
「ジュラ! どうして学校に来ないんだッ‼」
「……ふぇッ⁉ ……しぇ、しぇんぱいッ……⁉」
ジュラは噛むほど美味しいオムライスを頬張りながら言葉を噛み、俺の姿を見てひっくり返った――
街にはサンタコスのお姉ちゃんがチラホラと。
よく考えたら12月も中頃で、世間はクリスマスシーズン一色になり始めていた。
奇しくもクリスマスは、絵世界の文化祭当日であり、この世間の移り変わりはタイムリミットの近付きのお知らせでもあった。
櫻さんは、通い慣れているのか迷うことなく進んでいき、少し遅い昼飯を食べる場所に着いたようだった。
「オムライスと言えば、ここ」
「ここは……ッ‼︎」
喫茶店は喫茶店でも、メイド喫茶でした――
「メイド喫茶……?」
「ここは演劇部の友達がバイトしてて、それのお手伝いで私もたまに手伝ってるの」
「へ、へぇ……」
なんという交友関係……
入ったことのない喫茶店の扉を開ける。
すると同い年くらいの女の子が、
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
「ただいま、メイ」
「なんだオウちゃんかー! いらっしゃい!」
同い年っぽいメイドさんは、
設定を忘れ、普通の女子高生に戻った。
そんな声に、他のメイドさん達が集まりだす。
「櫻様ですって……!」
「はっ、なんてこと、櫻様に彼氏……」
「そんな、櫻様に限って……」
「普段着の櫻様……サイコーッ!」
静かに黄色い声と悲鳴を上げるメイドさん達。
「オムライスが食べたいの。お願いしてもいいかしら?」
「「「「よろこんでッ‼」」」」
従業員のメイドさん達は、櫻さんの鶴の一声に大勢で返す。
俺はここに居ていいのだろうか……
「あははー。驚かせてゴメンね、獅子玉くん」
最初に出迎えてくれた演劇部の人が素の声で話し掛けてくれた。
「今は店長がいないから安心して?」
「そ、そうですか……」
「私は三年F組の神馬芽衣って言うの」
「あ、俺と同学年なんですね」
「そーだよー。覚えてないかもだけど、一年生の時は同じクラスだからね?」
「わっ、ごめんなさい」
「こっほん。……大丈夫ですよ、ご主人様?」
急にメイドモードに入った、神馬さん。
「このお店ではメイメイって呼んでください! ……あ、折角ですから御嬢様。ご主人様の為に、お着替えをなされましては?」
「うん。虎之助、着替えてくるから待ってて」
そう言って、従業員専用の部屋へと入っていく櫻さん。
周りを見れば、チラホラとお客さんが居る中、俺はポツリと残される。
一人残されたので、文化祭の出し物をどうしようかと悩んでいると、
「お待たせしました、オムライスでございます……」
普段の給仕服でもなく、絵世界の大正モダンな装備でもない、聖地に降り立つメイド様がそこにいた。
「お、おうさん……?」
「ご主人様、オムライスを美味しくする呪文を御掛けしましょうか?」
そう言って何やら妖力を放とうとするので……
「ケチャップでお願いします、メイド様……」
「あらそう?」
厨房と控室辺りから、羨望と嫉妬の殺意を大量に感じたのであった……
「まぁ、冗談はここまでにして語りましょうか」
「セーラーニャーンのことですか⁉︎」
「ううん、文化祭について」
メイド服の櫻さんは、真剣な表情で話を切り出した。
「何かしたいことあるの?」
「んー、話を考えるのは好きなんですけど……」
「けど?」
「人前に出るのが恥ずかしくて……」
人前に出るのが苦手。
昔から悩んでいることだ。
櫻さんは、それを汲み取ってくれて今日誘ってくれたのだろう。
「主役をやらなくても、虎之助が物語を作ればいいと思うの」
「へ?」
「私はあなたの話が好きよ?」
ん。ん。ん……?
「獅子16号先生……?」
「やめっ、やめろぉおおーーッ!」
人目を気にする暇も無く、大声で黒歴史を搔き消そうとするが無駄だった……
そうだ、櫻さんは俺の部屋を掃除してくれてる時に読んでいたんだッ!
「いいじゃない。私は好きだもの」
「ほ、本当ですか……?」
巽派の内弟子が俺の漫画の悪口を言っていた過去があるので自信が無い。
俺は思い描いた世界を描くのが好きなだけだ……
「新しい話を書きましょう、虎之助?」
「え?」
「私も手伝うから、ね?」
俺の目の前に置かれた一つのオムライスを頬張りながら、俺をあやす様に微笑む櫻さんだった。
……それから今日観た、歌舞伎と映画を元に熱論を繰り広げた。
「いやっ、五右衛門はかぐやを助けるんです!」
「ダメ。かぐやには母親である阿国というものがいて……」
「調べましたけど、五右衛門と出雲阿国は違う時代じゃないですか!」
「いいの、それでもいいの! お芝居は異世界なの! だからメルヘンでいいの!」
普段無口な俺達が、
一つの議題で忖度無しに討論した。
お互いがお互いの良い所を取り合っていく内に……
「竹盗物語……いいですね、これでいきましょう!」
「そうね……これで私も良いと思うわ」
大体のプロットが決まり、勢いで白黒のネームを作り上げた。
「なぁーにー、これ面白そうじゃん!」
演劇部の神馬さんは、楽しそうに読んでくれた。
「あはは! うちの劇部でやりたいくらい!」
俺と櫻さんは熱論の末、
顔を見合わせて、
満面の笑みで笑っていた……
すると店の扉が開き、新たなお客さんが来店する。
「おかえりなさいませ、御嬢様!」
神馬さんは、帽子を目深に被りサングラスとマスクをした女の子を案内する。
……ん、あの全身カーキ色にリュックサックを背負った女の子。
映画館で前の列にいた人だよな……?
女の子は神馬さんにメニューを注文し、やがてオムライスが届く。
「萌え萌えキュン!」
神馬さんの魔法に女の子は萌え萌えして、帽子とサングラスを取る。
そして嬉しそうにマスクを取り、スプーンに手を掛け、俺は気づいてしまった……
「じゅら……?」
「どうしたの、虎之助」
俺は徐に立ち上がり、女子に近づく。
女の子に近づくにつれ、確信に近づく。
金髪プリン頭に、カラコンもしていない黒い瞳。
チークもリップもしていないスッピンだけど、俺には分かる……。
元引き籠りが言うセリフでは無いのだが、無意識に……
あー、無意識は言い訳か。
俺に似た子を放っておけず、
机に手を突き、
声を掛けるッ……!
「ジュラ! どうして学校に来ないんだッ‼」
「……ふぇッ⁉ ……しぇ、しぇんぱいッ……⁉」
ジュラは噛むほど美味しいオムライスを頬張りながら言葉を噛み、俺の姿を見てひっくり返った――
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