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12月◎日、獣神王、そして狸親父と狐と鼓

52.斯々猫々、御伽噺でして!

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 ――ご先祖様の日記の話を聞いた。
 橙色のレモンは胸を張り、

「これがボクたちと、しょだい様との出会いですニャ!」

 ん。
 ボクタチ?

「レインボー達って、何歳なの?」
「えっと、大体300歳以上ですニャ!」

 え。
 絵世界の成り立ちは何となく分かったが、この世界の謎はより一層深まったのだった――


「絵世界は、ふろーふしの世界ですニャ!」

 妖力が溢れる世界によって、身体からだの自然消滅は無いとのことだった。
 その身が滅ぶときは魂の消失。
 又は物理的な身体しんたいの消滅。


 つまりは、殺し合いで消え去るとのことだった。


「しょだい様は、おうじょさまと祝言しゅうげんを挙げ、おうじょさまをこの世界へまねいたのですニャ! それで、おうじゃさまが大好きな御伽噺おとぎばなしをもとに、たくさんの魂を生み出したのですニャ!」

 だから桃太郎や、猿と蟹が居るのか。

「そこでたくさんの魂が生まれて、しょだい様は友だちを呼んでお浚い会をヒロウしたのですニャ!」
「それで、その内容は?」
「おうじょさまはみんなにご飯を振る舞ってくれたり、かぶきやくしゃさんがかぶきをヒロウしたり、しょだいさまは絵をヒロウしてくださいましたにゃ!」

 あー、本当に文化祭みたいだな。
 ふと、俺は疑問に思う。

「この世界が不老不死の世界なら、まさか俺のご先祖様……初代様は生きてたりするのか?」
「そんなことはないですニャ!」

 大体の事を知っている橙色のレモンは、再び巻物日記を読みだした。


 ――私はこの世界を愛した。
 
 猫に囲まれ、あらゆる御伽噺に囲まれ幸せだ。
 女房と数少ない友にだけ教えたこの世界だが、
 この世界はどうやら時間が進まないらしい。

 進まないのではない。
 進んでいるが肉体の老いが無い。
 これは素晴らしいと捉えるのが普通かもしれない。

 かぐや姫が残した不死薬の様で、
 まさにこの世は竜宮城の様なのだ。

 摩訶不思議な力も操ることができ、
 人生を彩ることができる世界。

 友も楽しく過ごしているが、
 これではいけない。

 浦島太郎の様に、
 現実に戻れば別世界になっているだろう。

 悲しいが、
 一度さようならをせねばならない。

 私に宿った不思議な力も。

 私の描いた世界を消すことはしない。
 このまま大好きな世界であってほしい。
 そう願って、


 私は、全ての妖力を込めて筆に願いを込めた――


「そうして、しょだい様は絵世界から去ったのですニャ!」
「なんだか本当に御伽噺みたいな世界だな……」
「その筆が、しょだい様の妖力のかたまりなのですニャ!」
「この筆宝が……」


 筆宝を見ると、
 宝石がキラキラと何色にも光り、
 俺の眼に映る。


 なんとなくだけど。
 ご先祖様の日記が俺の日記に似ている。
 俺の日記もこんな感じで残るのだろうか……


 厨二病、黒歴史ばかりでソワソワする。


「それから絵世界の魂は、ハンショクを覚えましたのニャ!」
「繫殖……」
「ふしのために、この絵世界は魂であふれましたニャ……」

 レモンの表情が、怒られた猫の様にシュンとする。

「しょだい様がいなくなってから、絵世界はたいへんでしたのニャ……」
「何かあったのか……?」
「なわばり争いですにゃ」
「縄張り争い……?」
「多くの種族がたんじょーして、互いの土地をうばいあって、ころしあいが始まったのですにゃ」

 どこの世界も、きっかけは変わらないか……

「それをキッカケに、新しいシコー様がやってきて起きたのが、えせかいたいせんですニャ」

 あ。
 絵世界大戦って……。

「俺の婆ちゃんと、龍馬りゅうまさんが戦った話か?」
「レモンもその戦いは、大体しか知らにゃいのですが、その争いで沢山の魂が消えましたニャ」

 俺の婆ちゃんと龍馬さん。
 仲が悪かったっていうけど、本当にそうなのだろうか。
 俺が知ってる龍馬さんは、ただの調子の良い爺ちゃんだったけど……

「たいせんが激しくなる中、くだいめのシコー様はじゅーじん王をやめて、ぼたんさまのダンナ様を新たなじゅーじん王にしたのですニャ!」

 えっと、
 『牡丹様』ってのが、母さんの雅号で……
 その旦那様ってことは……

「俺の父さんってことか?」
「そーですニャ!」

 ん、俺の父さんが獣人王だった?
 でも母さんが獣人王って言われてたような……

「ながいながいえせかいたいせんで、じゅうじんおうさまは……」

 身体からだを失った。
 そういう話だった。
 
 長い話に頭が追い付かなかった。
 そんな時、突如聞き慣れた声がする。

「あ、虎之助様!」

 大樹の麓で駄弁っていた俺達に声を掛けたのは、牛の獣神である孟々さんだった。

「虎之助様、獣人王就任おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます……」

 長い話に飽きて、俺の膝の上で寝ているミィを撫でながらお礼を言う。

「それで文化祭についてなのですが……」

 孟々さんは、大量の資料を目の前に置き……

「陽子ちゃんからのお達しで……文化祭での王自らの出し物。そして屋台の許可証、また国民への対応等々、その他諸々のお仕事をしてもらわないと、もうっ…もう時間が間に合いません!」

 半べそをかく孟々さんは、俺に助けを求め……

「狸寝入りのミィちゃんも助けてくださいー!」


 俺の膝の上でいびきをかいていた猫娘は、寝たふりがバレて冷や汗をかいておりました――
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