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衣類
第四話【ロングコート】
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ある冬の日の事。
最近、この地域では【神隠し】が流行っているそうだ。
狙われるのは、だいたい小学生の高学年。
それ以下の子は殆ど一人っきりでいる事など、この物騒な世の中。
中々ないせいなのかもしれないが、それでも、小さな子供を狙う悪質な犯罪だと、地元警察は町全体に注意を呼びかけ、そして怪しい人物がいないか警戒しているのだが、一向に捕まる気配がない。
それどころか、ほんの数分目を離しただけでも、【神隠し】に合う子供が増加していた。
ま、そんなの私には関係ない。
子供もいなけりゃ、彼氏すらいない社会人。
気を付ける事と言ったら、痴漢くらいだろう。
そんな事を思いながら、今日も、暗くなった夜道を、駅から淋しく一人帰路に着く。
コツコツコツ……
人気が無く、街路灯の明かりだけが心細く照らす田舎道。
前方から近付く足音に、私は体を強張らせる。
単なる近所の人っていう事は分かっていても、女一人で歩く身では、どこか警戒してしまう。
徐々に近付く人影。
背丈からも、男性のようだ。
寒い冬の夜、ダウンコートではなく、小奇麗なロングコートを着た紳士。
身なりからしても、おかしな人では無さそうだ。
安堵の溜息をつきながら、自然と緊張がほぐれ、前へ前へと足を進める。
二人の距離が近付く。
あと2、3歩ですれ違う……
そんな時
“バッ!”
紳士の仮面を被った男は、ロングコートの前を一気に開けた。
「きゃぁぁ!」
冬だと言うのに、まさかの露出狂?
そう思って、驚き、顔を背ける。
「タ……ス……ケテェ……」
「ココ……カラ……ダ……シ、テェ……」
「カエ……シ……テェ……」
何人もの子供の声が聞こえて来る。
恐る恐る、声のする方を見ると、男が広げたロングコートの中に何人もの……
数多くの子供の泣き顔が……苦しみ歪んだ子供の顔が浮かんでいた。
「ひぃぃぃぃぃぃぃ!」
驚き、腰を抜かす私に、男は大きく口を歪め、ニヤリと笑った。
「76人目ぇ……あと24人……」
不気味な声で呟くと、容赦なく私をコートで包み込んだ。
「いやぁぁぁぁぁぁ! なんでぇぇぇぇ!」
私は、包み込まれる瞬間、気が付いた。
そうか……こいつは“子供”を狙っている訳ではない。
ただ、“このコートに包み込める体型”であれば、誰でもいいのだと。
そして、こいつは、先程のセリフから察するに、百人まで“人さらい”を続けるんだと……
それが、この男にとっては、意味のある行動なのだと……そう分かったといえど、もう遅い。
私は、この男に取り込まれた。
彼女は今迄も、自分のこの体型を幾度となく呪った事があったが、今日ほど百四十二センチの小柄な身長を呪った事は無かった。
最近、この地域では【神隠し】が流行っているそうだ。
狙われるのは、だいたい小学生の高学年。
それ以下の子は殆ど一人っきりでいる事など、この物騒な世の中。
中々ないせいなのかもしれないが、それでも、小さな子供を狙う悪質な犯罪だと、地元警察は町全体に注意を呼びかけ、そして怪しい人物がいないか警戒しているのだが、一向に捕まる気配がない。
それどころか、ほんの数分目を離しただけでも、【神隠し】に合う子供が増加していた。
ま、そんなの私には関係ない。
子供もいなけりゃ、彼氏すらいない社会人。
気を付ける事と言ったら、痴漢くらいだろう。
そんな事を思いながら、今日も、暗くなった夜道を、駅から淋しく一人帰路に着く。
コツコツコツ……
人気が無く、街路灯の明かりだけが心細く照らす田舎道。
前方から近付く足音に、私は体を強張らせる。
単なる近所の人っていう事は分かっていても、女一人で歩く身では、どこか警戒してしまう。
徐々に近付く人影。
背丈からも、男性のようだ。
寒い冬の夜、ダウンコートではなく、小奇麗なロングコートを着た紳士。
身なりからしても、おかしな人では無さそうだ。
安堵の溜息をつきながら、自然と緊張がほぐれ、前へ前へと足を進める。
二人の距離が近付く。
あと2、3歩ですれ違う……
そんな時
“バッ!”
紳士の仮面を被った男は、ロングコートの前を一気に開けた。
「きゃぁぁ!」
冬だと言うのに、まさかの露出狂?
そう思って、驚き、顔を背ける。
「タ……ス……ケテェ……」
「ココ……カラ……ダ……シ、テェ……」
「カエ……シ……テェ……」
何人もの子供の声が聞こえて来る。
恐る恐る、声のする方を見ると、男が広げたロングコートの中に何人もの……
数多くの子供の泣き顔が……苦しみ歪んだ子供の顔が浮かんでいた。
「ひぃぃぃぃぃぃぃ!」
驚き、腰を抜かす私に、男は大きく口を歪め、ニヤリと笑った。
「76人目ぇ……あと24人……」
不気味な声で呟くと、容赦なく私をコートで包み込んだ。
「いやぁぁぁぁぁぁ! なんでぇぇぇぇ!」
私は、包み込まれる瞬間、気が付いた。
そうか……こいつは“子供”を狙っている訳ではない。
ただ、“このコートに包み込める体型”であれば、誰でもいいのだと。
そして、こいつは、先程のセリフから察するに、百人まで“人さらい”を続けるんだと……
それが、この男にとっては、意味のある行動なのだと……そう分かったといえど、もう遅い。
私は、この男に取り込まれた。
彼女は今迄も、自分のこの体型を幾度となく呪った事があったが、今日ほど百四十二センチの小柄な身長を呪った事は無かった。
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