百談

壽帝旻 錦候

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動物

第九話【賢い進化】

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 とある動物園に行くと、皆が皆、争いを好まない、穏やかな性格になるそうだ。
 たとえば、何かしらボランティアであったり、平和的な社会活動や動物愛護の活動をしたりする。

 そんな噂を聞き、取材に来たものの。
 別段、どこも変わった所はない。

 キリン、ライオン、トラ、シマウマ、ペンギン、クジャク、山羊に兎……

 動物達が普通に檻や囲いの中にいるだけで、他は、木々が植えてあり、どこの動物園とも何ら変わりがない。

 一体、何故、この動物園に来ると、皆、一様に穏やかな、優しい人間になるんだろうか?

 その噂の為、一度、囚人をここに連れてきたところ、皆、涙を流しながら許しを乞い、そして、深く反省し、全てが模範囚になったとか。


 一体、何故?


 そのまま、とある檻の前に立つ。

「可愛いな……」

 あまりの愛くるしさについ無意識に呟く。

 すると、檻の中の動物もこちらに気が付いたのか、ジッと見つめて来る。
 真っ黒に輝く、クリックリの瞳。
 思わず、魅入ってしまう。
 すると段々、意識が遠のく感じがしてきた。
 なんだろう……
 この目と、見ているだけで癒される動作。
 穏やかに笹をひたすら食べる姿を見ていると、なんだか……段々、意識が……遠の……い…… て……

****************************************

 動物学では「ベビーシェマ」という言葉がある。
 ベビーシェマとは、子どもの姿形のこと。
 人間の幼児やペット化された動物がそうである。

 クマの種類の中でも、幼児っぽい個体がパンダ化していったのだと思う。

 幼児の特性というのは、好奇心が強く、発想も柔軟性であり、だからこそ、知性を発達させることに長けている。
 元々、肉食であり、今もなお、パンダの腸内細菌は肉は分解できても、植物を分解する細菌が少ない。

 それなのに、笹を食べるようになった経緯を想像すると、非常に柔軟に環境に適応していったのだと思われる。
 周りの熊と争いながら、数少ない肉を奪い合うよりも、食べ物を肉から草に変え、住む場所まで変え、そして、見事に新しい環境に馴染んでいった。

 パンダは頭が良い。
 あらゆる環境の変化に対応し、自分を変えられたのである。
 そして、生き延びてきた。

 しかし、その白と黒のコントラストの綺麗な毛皮は、やがて人間に狙われ、その数を減らしたものの……

 今度は、その愛くるしい容姿を活かし、「保護」される立場を確立した。

『パンダ外交』
『見世物パンダ』

 そんな、言葉すら出来るほど彼らの人気は高く、その事を自らも知っているかのように、周囲に可愛さをアピールする。

 そう。
 パンダは常に周りの状況を把握し、そして争う事なく生き延びてきているのだ。
 こうやって、世界に借り出されるようになったパンダは、とある能力を身に着けているようだ。

 そう。
 無尽蔵に数を増やし、貧しい人々や動物達を押しのけ、生息域を増やしていく人間。
 既に、人間の「キャリイング・キャパシティー」(自然環境に対する限界生存)は、とっくに超えている。
 だからこそ、あちこちで戦争や様々な争いが激化し、数を強制的に制限するようになっていくのだが……。
 賢いパンダは人間の「心」を巧に利用し、絶滅するのを防ぐと共に、その愛くるしい姿やしぐさで、人の視線や心を惹きつけ油断したその隙間を狙う。

 そのつぶらな瞳から、とある思念を我々に植え付ける。

【マインドコントロール】

 パンダのマインドコントロールは、知恵のあるコントロール。
 パンダ自体、生殖能力が低い事も、ライフスタイルを変えていった事も、過酷な環境に適応していった事も、全てがこの「キャリイング・キャパシティー」を超えない為の進化。
 争いだけでなく、様々なスタイルを変える事が、人間にとっても動物にとっても、新たなる地平が広がり、限界を超えない事である。

 パンダは知っている。

 この狭い地球で生き残る術を。
 この狭い地球で、多くの種と上手に共存していく術を。

 それゆえに、世界各地今日もパンダは、そのつぶらな瞳から、人々の脳に訴えかけ、そして、コントロールしようとしているのかもしれない。



 パンダのマインドコントロールは、地球に優しいコントロールなのである。


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