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年越しの儀

一月二日、三日(14)

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 隆人の話は先に進む。
「年越しの儀では鳳と凰はひとつがいの真の鳳凰とならなければならない。それが第三者たる世話係にも認められて初めて、年越しを果たすことができる。鳳と凰とは相思相愛でなくてはならず、どちらかの気持ちが他に向いていれば、もう真の鳳凰ではない。凰一人すら振りかせることのできない鳳は、真の鳳どころか当主としての価値も低く見られる。――遥」
 遥は隆人を上目に見る。隆人も遥を見つめている。
「お前は今、俺を疑っているだろう? あるいは自分自身を。確かに鳳は初度の年越しに望んだ凰に求愛の言葉を言わせなくてはならない。そのための方便として――お前にも言わせるために、俺が何度も愛していると言ったのではないかと、そう疑っているだろう?」

 隆人に気づかれていた。頭の中でぐるぐる回っている嫌な疑問を。思わず遥は下を向いた。だが隆人はその点を責めなかった。
「それに対し、俺がいくら言葉を重ねても、より疑わしく感じるだけだろう。お前に信じてもらうためには、態度で示す以外にはない。少なくとも世話係は俺たちを真の鳳凰と認めた。お前の俺への気持ちを認めたと同時に、俺のお前への気持ちも認められたということだ。それはわかって欲しい」
 隆人の言葉はそう締めくくられた。

 しばらくうつむいたままいろいろなことを考えた。自分のことや隆人のこと、今までにあったできごとや、この年越しの儀の間のことなど、思い出すことはいくらでもあった。
 遥が考えている間、隆人は身じろぎせず、遥の邪魔することはなかった。納得いくまで遥が考え、答えを出すのを待つつもりなのだろう。
 長い時間をかけて、遥は自分の心の中を丁寧に探り、気持ちと考えを整理した。ふうっと息を吐いて顔を上げ、隆人の目を真っ直ぐ見つめる。そして、はっきりと告げた。

「あんたの本心なんて、もうどうでもいいや」
 隆人の目が見開かれた。遥はそんな隆人に肩をすくめる。
「あんたが俺をどう思っているかで揺れるような気持ちなら、それは偽物だ。でなければ単なる独占欲かも。あんたの一番でなければいやだっていうね。もちろん一番がいいに決まってるけどさ」
 自嘲がこぼれた。
「でも、ここまで来ちまうと単純にあんたを守りたいと思えるんだ。変な言い方を承知で言うけど、離れていてもあんたがいることを感じられて、とても……とても温かい気持ちになる。どうしようもなく恋しいときとは別に、すごく幸せな気持ちであんたのことを思える。今まで、誰にも感じたことのない気持ちだ」
 いつの間にかわずかにそらしていた視線を元に戻し、ゆっくりと言葉を続けた。

「好きって言葉では伝えきれない感じ。でもいい言葉がなくて、今まで言わなかった。ここへ来てから何度も愛してるって言われて、こんな言葉もあったんだなと思った。今まで自分が言うことも言われることもなかった言葉だ。言われているうちに、これを使えばいいんだと思えた。だから俺は、あんたに愛してると言った」
 自分を見つめる隆人を見返す。真剣な表情で聴いてくれていることがうれしい。言葉を受けとめてくれる人がいるだけで、気持ちが穏やかになり、心が強くなる気がする。
「それはあんたの気持ちと取り引きして感じた思いじゃない。あんたのことを思って俺が勝手に感じたものだ。だから――」
 声が震えた。一呼吸してから真っ直ぐ隆人を見つめ、にっこりと微笑みかけた。
「だから、俺は勝手にあんたを愛してる。あんたが俺のことをどう思っていたとしても、俺自身の中でそう納得した。自分に嘘はつかない。確かにあんたを愛してる」
 また自嘲が心の底から泡のように浮かんできた。目を伏せ、笑いながら言う。
「まったくこの期に及んで動揺するなんて、修業が足りねえよな、俺も」

 隆人の腕が体に回され、強い力に引き寄せられる。触れあう唇にぞくりと震えた。乱暴に押し入ってきた舌に遥は隆人のセーターをつかむ。荒々しく動き回るそれに自らも舌を絡める。容赦なく咥内をなぶられる感覚に体が熱くなる。

 抱きかかえられるようにして、寝室に連れて行かれた。キスを繰り返しながら遥の服をはぎ取る隆人に、遥はささやく。
「まだやりたいないのか」
「お前こそいやらしい奴だ」
 嫌がらせのように硬くなりかけの中心をなで上げられ、息を飲む。隆人と目があった。密やかに微笑い交わす。
 遥にまたがったまま自らの着ている物をベッド下に脱ぎ落とした隆人に両手を差し伸べた。隆人の体が重なってくると、その首と背に腕を回す。触れあう肌のなめらかさと温もりがとても気持ちいい。
 愛している人と肌を合わせるのはなんてうれしいのだろう。




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