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捧実の儀
(6)
しおりを挟む滞りなく入浴を済ませ、普段着に着替えた。
今夜、隆人は本邸で過ごす。こんな時でないと、遥はなかなか隆人と夕食を一緒に摂ることもできない。だからこうして本邸に帰ることは素直にうれしい。
ただ、気になることもある。
遥は夕食の席で隆人に疑問を投げつけた。
「隆人の家族は儀式にあまり出てこないのか?」
隆人の返事には、やや間があった。
「本来なら暁にはもっと見せたいのだが、あれもいろいろ忙しくてな」
遥は金目鯛の煮付けを口に運ぶ。
「長男はいずれ当主になるんだから、無理にでも連れてくればいいのに」
「お前と過ごす時間が減るぞ?」
遥は目を丸くした。
「俺のせい?」
隆人が首を振った。
「ああ、言い方が悪かったな。暁の朝稽古と当主教育は俺がしているから、その分お前と過ごす時間が減るという意味だ。本邸では当主の家族より鳳凰の繋がりの方が強いが、それらだけは特別扱いになる」
「むしろ俺が隆人とずっと一緒に過ごすから、家族は来たくないんじゃないか? 俺なら面白くないぞ」
遥は唇を隆人に摘ままれた。
「嫉妬か?」
意地悪げに笑う隆人の手を押しのける。
「当たり前だろう?」
隆人が息をのんだのがわかった。
気まずい空気が流れる。
遥は肩をすくめた。
「まあ、いいや。今は隆人と俺しかいないんだし」
隆人が神妙な顔をしている。
「もっとお前に気を使うようにする」
「どうしたんだよ、急に」
「孤独を感じさせないようにする。すまなかったな」
隆人が箸を動かし始めた。
遥は意味がわからず、首をひねるばかりだった。
その夜も遥の部屋で抱き合って眠った。隆人の腕に優しく遥を包み、胸の鼓動は穏やかで、安心できた。
しかし朝になれば、きぬぎぬの時は来る。
隆人はしきりに「もっと連絡をする」と言った。
何が隆人を変えたのかがわからない。遥が告げたのはただ「隆人の家族に嫉妬している」というシンプルな事実だったのだが。
隆人を見送り、秋の庭の散歩を楽しんだ後、遥は世話係を振り返った。
「さて、我々もそろそろ東京へ行くか」
遥が宣言すると、俊介たちが揃って「はい」と答えた。
今日も見事な秋晴れで、吹き抜ける風は心地よく乾き、空はあくまでも青く澄んでいた。
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