上 下
114 / 182
捧実の儀

(4)

しおりを挟む


 駐車場で隆人と一緒になり、車で本邸に戻った。
 そのまま禊ぎをするという。朝と同じく隆人と二人きりで禊ぎの場に行った。日が完全に昇った分、気温は上がったようだが、滝からの細かいしぶきに髪もまとってきた浴衣もすぐに湿り気を帯びた。岩の上に浴衣を脱ぎ捨て、ざぶざぶと川の中へ入る。
 朝よりも念入りに身を沈め、息を止めて水に潜る。
 禊ぎを済ませた体は、白の長襦袢と長着を着付けられた。下着は履いていない。
 これからが鳳と凰の儀式だ。



 世話係に前後を挟まれ、隆人とともに鳳凰の間に通された。今日はいつも閉じている障子が開け放たれ、ぐるりと巡らされた縁側の向こうのガラス戸を通して庭が見えた。かえでが色づき始めている。
 そして鳳凰の間の凰の座所「鳥籠」の前に二人が十分に寝られる幅の白い布団が敷かれている。

 そのシーツの上で、遥は隆人と向きあい、座った。

「障子はあのままなのか」

 遥の問いに隆人が頷く。

「鳳凰様にお目に掛けるのだ。俺たちも供物のひとつだからな」

 遥は笑った。

「夏の花火の時と言い、本当に睦言がお好きなんだな」
「お前も嫌いではあるまい?」

 隆人の手に頬を撫でられ、背がぞくりとした。低く笑う。

「まあね」


 ゆっくりと口づけを交わす。隆人の首に腕を回し、自らシーツに倒れ込んだ。
 口内を這いまわる生き物のような隆人の舌が気持ちいい。上顎をくすぐられ、舌の下まで潜り込まれて、甘えたような息をこぼす。
 隆人の角帯の結び目をほどく。しゅっと絹の擦れる音が耳に心地よく響く。
 隆人の手が強引に長着の胸元に差しこまれてきた。長襦袢に触れて立ってしまった胸粒を爪で掻かれ、びくりと走る甘い疼きに身をよじる。

「帯、解けよ。きつ……」

 そう遥は訴えたが、隆人は帯はそのままに遥の長着と長襦袢の前をくつろげ始めた。

「何考えてんだよ」

 肩から胸をあらわにされ、恥ずかしさと期待に鼓動が速まる。腕に袖が絡まり動きにくい。
 隆人は自分で帯と腰紐を取り去り、長着を脱ぎ捨て、長襦袢姿だ。

「たまにはいいだろう、こういう趣向も」

 遥の乱れた裾を広げ、白い膝の間に身を置いた隆人が、再び口づけてくる。その首に腕を回して、遥からも隆人の口内を犯す。それを罰するかのように、胸の尖りに爪を立てられた。

「んっ」

 胸の痛みが下腹に稲妻のように走り、びくんと体が跳ね上がった。摘ままれ、指の腹で転がされても、抑えきれない悦びが下腹へ走り、腰が揺れてしまう。
 遥は隆人の唇に歯を立てた。隆人が身を離す。顰めた顔を、遥はにらむ。

「胸ばかり弄るな」

 隆人が笑った。

「凰様はこちらをご所望か?」

 帯下の着物と長着の前をぐいと開かれた。すっかり張りつめ、快楽に飢えた欲望が淫液を滴らせている。隆人の手がそれを包みこみ、ぬるぬると広げる。

「あっ、は、そう、でない、と……」

 くちくちと先端を親指で撫でられ、全体を上下に擦られる。胸の尖りに歯を立てられては、癒やすように舌でとろとろと舐められ、熱い吐息が零れる。目を閉じて遥は快楽を甘受する。奥から込みあげる悦びは、波のように遥を追いかけ、飲み込み、高みへと運ぼうとしてくる。


 遥が意識も飛びそうな波の頂きに持っていかれそうになった瞬間、隆人が手を放した。

「ああっ」

 落胆の声が漏れた。開けた目は潤んでいて、隆人の表情がにじんでよく見えない。

「じらすなよ」
「そういうわけではない。もっとお前を善くしてやりたいだけだ」

 そう言うと隆人が枕元にあったジェルのボトルを手にした。隆人の両手がジェルに塗れる。
 隆人の左手の指が後ろへ潜りこんできた。同時に前も再び右の手のひらに包みこまれる。

「ひあっ」

 両方の刺激に遥はたまらず、身を捩ってずり上がろうとした。しかし隆人がそれを許さない。前をしっかりと握りこまれて、擦られる。後ろの指は増やされ、遥の内を蠢き、探る。
 内部の違和感は外からの快感に打ち消され、遥はシーツの上で身悶えるしかない。いずれ隆人の指は遥の快楽の源を暴くだろう。それをしゃくに思いながらも、自ら腰を振ってしまった。

「ん、あぁっ」

 指がそこを押した途端、目も眩む絶頂に到達した。背を浮かせた遥の悦びの証しが飛び散る。長着にも長襦袢にも帯にも。


「あっ、は、う……」

 びくびくと続く解放に、細く声が漏れる。

「いい声だ」

 笑いを含んだ熱い声を耳に吹き込まれ、ぞくりと震えた。

「もっと大きな声を出せ遥。障子を開けているのに鳳凰様に届かないぞ」
「ん、それが、供物、ん、なのかよっ、あっ」
「そうだ。俺たちが、捧げるのは、睦まじさだ」

 隆人の指は更にそこを揉み、撫でる。顔を横に向けて湧き起こる滾りに必死に耐える。

「こっちは、イッた、ばかり、うっ、もっと、遠慮し、くぅ……」

 遥の訴えを無視して、指は中を柔らかく弄ぶ。

「こ、の……」

 一方的に責めてくる隆人の中心を、長襦袢の上から遥は掴んだ。それはしっかりと頭をもたげ、硬く張りつめている。

「とっとと、これを挿れろ。搾りとってやる」

 隆人がため息をついた。

「品のないことを言うな。儀式中だぞ」
「雌雄和合を示すんだろう?」

 遥はにこりと笑った。

「俺もあんたを悦ばせたい」




しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

兄が届けてくれたのは

くすのき伶
BL
海の見える宿にやってきたハル(29)。そこでタカ(31)という男と出会います。タカは、ある目的があってこの地にやってきました。 話が進むにつれ分かってくるハルとタカの意外な共通点、そしてハルの兄が届けてくれたもの。それは、決して良いものだけではありませんでした。 ハルの過去や兄の過去、複雑な人間関係や感情が良くも悪くも絡み合います。 ハルのいまの苦しみに影響を与えていること、そしてハルの兄が遺したものとタカに見せたもの。 ハルは知らなかった真実を次々と知り、そしてハルとタカは互いに苦しみもがきます。己の複雑な感情に押しつぶされそうにもなります。 でも、そこには確かな愛がちゃんと存在しています。 ----------- シリアスで重めの人間ドラマですが、霊能など不思議な要素も含まれます。メインの2人はともに社会人です。 BLとしていますが、前半はラブ要素ゼロです。この先も現時点ではキスや抱擁はあっても過激な描写を描く予定はありません。家族や女性(元カノ)も登場します。 人間の複雑な関係や心情を書きたいと思ってます。 ここまで読んでくださりありがとうございます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...