103 / 182
夏鎮めの儀
13.花火(前)
しおりを挟む昼の禊ぎは穏やかに済んだ。
禊ぎ備えの部屋で白の浴衣を着せられ、禊ぎの場へ出てすぐ全裸になって禊ぎをする。この無駄とも思える手順には内心閉口したものの、慣れるしかないと諦めた。
それが終わると、また精進料理のような昼食が出た。
早起きをしたせいか、遥はうとうとしてしまったが、とがめられることはなかった。それどころか「眠るなら布団を敷くぞ」とまで言われた。
「いや、さすがに儀式と名のついた行事中に、堂々と昼寝する気にはならない。遠慮する」
そう答えると、隆人が微笑んだ。
それに午後四時には明けの禊ぎから半日と言うことで、禊ぎの場で手を清めるという。ゆっくり寝ている暇はない。
そして午後四時、遥は隆人と禊ぎの場にいた。流れる水に手をさらし、汚れを祓う。
隆人が小声で指示をくれた。
「両手で水をすくって水を飲め。真似でいい。着物が濡れても気にするな。水が与えられていることに感謝をして、いただくんだ」
遥は無言で頷き、両手を結んで水をためる。そして言われた通り口に運び、唇を濡らして水をあおる。喉が濡れて衿の中に入る。
(豊かな水をお与えくださいましてありがとうございます。願わくはこれより後も水をお与えください)
同じように水をあおった隆人が、手をさしのべて立ち上がらせてくれた。
禊ぎ備えの部屋に戻ると、襖に隠されていた浴室に通された。
「鳳の部屋も同じなのか?」
「はい。そのはずです」
ガラス戸の向こうで俊介が答えた。
すぐに風呂を上がると、着せつけられたのは新しい着物だった。
「さっきの着物は?」
「襟元が濡れましたので、手入れに出します」
何の疑問も感じていないようすの俊介の返事に、儀式の手間の大変さをかえって感じさせられた。
鳳凰の間に戻り、六時に夕食となった。
これもまた魚や肉はない。豆腐やこんにゃくなどをいわゆる生臭物に見立てた料理である。
ただそれまでと違ったのは酒がついたことだった。お猪口に一杯ではあったが、フルーティーで飲みやすい日本酒だった。
酒を飲むことなどなかった遥は、たった一口で胸がかっと熱くなる感覚に驚いた。さらに口にしようとした時――
ドンとどこかで音がした。
たぶん花火の音だ。
そういえば朝から何回か聞いたような気がする。
「花火大会があるのか」
「ああ、そうだ」
「へぇ」
見たい気はした。だが儀式中だ。わがままは言えない。
だが試し打ちらしい音が何度も聞こえると、そわそわしてしまった。
花火など高校の時以来見たことがない。
「我が凰は花火鑑賞を所望か?」
からかうように隆人が言った。思わず口が尖ってしまう。
「悪いか? もう十年近く見たことがないんだ」
「そうか。それならば見せてやろう」
「え? いいの?」
隆人が笑った。
「あれは鳳凰様に捧げる神事の一環だ。人の鳳と凰も見るのは当然のことだ。行くぞ」
立ち上がった隆人が鳥籠の出入り口に迎えに来てくれた。手を取られて、鳥籠から一段下りる。
「通る」
隆人が一言命じると、襖がさっと左右から開かれた。
廊下に明かりがずっと連なって灯されていた。幻想的な灯りの道だ。
「うわっ」
思わず声が出た。
「これを辿っていけばいい」
きょろきょろしていた遥に隆人が言った。
灯りは最奥と中奥を隔てる木戸をも越えていた。世話係が木戸を開け、中奥を進んでいく。
どこへ行くのかわからぬまま灯りの中、隆人の後をついていった。
0
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
家族連れ、犯された父親 第二巻「男の性活」 ~40代ガチムチお父さんが、様々な男と交わり本当の自分に目覚めていく物語~
くまみ
BL
ジャンヌ ゲイ小説 ガチムチ 太め 親父系
家族連れ、犯された父親 「交差する野郎たち」の続編、3年後が舞台
<あらすじ>
相模和也は3年前に大学時代の先輩で二つ歳上の槙田准一と20年振りの偶然の再会を果たした。大学時代の和也と准一は性処理と言う名目の性的関係を持っていた!時を経て再開をし、性的関係は恋愛関係へと発展した。高校教師をしていた、准一の教え子たち。鴨居茂、中山智成を交えて、男(ゲイ)の付き合いに目覚めていく和也だった。
あれから3年が経ち、和也も周囲の状況には新たなる男たちが登場。更なる男の深みにはまりゲイであることを自覚していく和也であった。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる