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春から梅雨
墓参(2)
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駐車場で隆人とともに車に乗り込み、瑞光院まで行った。が、ほんの数分で到着した。
「歩いて行けるんじゃないか?」
「行ける。だが、それでは護衛に人数を割かねばならなくなるからな」
なるほど。地元でも襲撃される恐れがあるのか。
遥の考えを覗いたかのように隆人が付け足した。
「ま、お前が凰になったから、危ういことは起こるまい」
桜谷隼人が後部座席のドアを開けた。隆人に続いて遥も降りる。
「お待ちしておりました」
駐車場に老僧が若い僧侶とともに出てきていた。顔はふくよかで剃髪した頭も健康的でつやがいい。
「凰様の御披露目、無事に終わられましたことお祝い申し上げます」
「ああ、ありがとう」
僧に応じた隆人が遥に紹介した。
「この瑞光院の院主、萩屋慶浄だ」
「院主の萩谷慶浄でございます。凰様におかれましては、誠に見事な証立てであったとうかがっております。その御心を持って鳳様をお守りくださいますよう、お願い申し上げます」
慶浄は笑顔で、頭を深く下げた。
「慶浄、これが我が凰、高遠遥だ。跳ねっ返りで危なっかしいが、よろしく頼む」
遥は軽く隆人を睨んでから「初めまして」と遥は頭を下げる。慶浄は遥と隆人を見比べて微笑んでいる。
「さ、どうぞ中へお入りください」
慶浄が先にたって、建物の中へ案内をしてくれた。
応接間に通され、茶と菓子が出された。
遥は形だけ茶碗に口をつけ、慶浄に訊ねた。
「こちらに父の墓があると聞いたのですが」
「はい、こちらでお眠りいただいております」
ほっとした。隆人の言葉は真実だった。
「お父上のご両親などのお遺骨もお納めできればと思いお探ししたのですが、既に元の菩提寺の方で無縁墓として撤去され、それが叶いませんでした」
残念そうに慶浄は言ったが、遥は父から祖父母の話はほとんど聞いていない。名前すらあやふやだ。
「気にしないでください。祖父母との縁は薄かったので、仕方のないことだと思います」
慶浄は「わかりました」と短く答えた。
「墓に関して、すべてお前に無断で行ったことは重ねて謝る。すまなかった」
隆人が頭を下げたことに、遥は苦笑いが浮かんできた。
「それはもういい。すんだことだ。ここに父さんがいる。それでいい」
話が切れたところで、慶浄が冊子を遥の前に差し出した。
「後ほど、本院瑞鳥の間にて鳳凰誓詞奉納を行っていただきます。凰様は初めてのことですので、あらかじめお目を通していただいた方がよろしいかと存じます」
遥が反応するより早く、隆人が冊子を手に取りぱらぱらとページを繰った。
「ここだ」
示された部分をざっと見て、顔をしかめてしまう。遥の苦手とする丁寧な言葉の連なりだった。口の中でぶつぶつと音読する。
「ここはお前ひとりだから、ゆっくり落ち着いて読めばいい。ここは私と一緒だ」
長い文章ではないのが救いだった。
「間違えても笑われないかな」
「笑うことはできない。内心まではわからんが」
「内心て誰の?」
隆人が一拍、間を置いて答えた。
「私の家族だ」
遥はビクッとした。
隆人の家族といえば、昨日会った息子の暁の他に妻と娘がいる。
ここで会うのか……
思わず茶碗に手を伸ばして、一口飲み下した。
突然隆人の手が頭に乗せられた。
「堂々としていればいい。お前は俺の凰なのだから」
隆人なりに気を使ってくれている。遥はふうっと息を吐いてから、肩をすくめた。
「間違えるの前提で諦めてもらうしかないな」
「居直ったな」
隆人の手が遥の髪をかき乱す。
「やめろよ、こら」
ほほと慶浄が抑えた笑いをこぼした。
「仲睦まじくていらして、この慶浄安堵致しました」
ノックされた。
「ご本家の方お見えでございます」
「さ、参りましょう」
慶浄が立ち上がった。
「歩いて行けるんじゃないか?」
「行ける。だが、それでは護衛に人数を割かねばならなくなるからな」
なるほど。地元でも襲撃される恐れがあるのか。
遥の考えを覗いたかのように隆人が付け足した。
「ま、お前が凰になったから、危ういことは起こるまい」
桜谷隼人が後部座席のドアを開けた。隆人に続いて遥も降りる。
「お待ちしておりました」
駐車場に老僧が若い僧侶とともに出てきていた。顔はふくよかで剃髪した頭も健康的でつやがいい。
「凰様の御披露目、無事に終わられましたことお祝い申し上げます」
「ああ、ありがとう」
僧に応じた隆人が遥に紹介した。
「この瑞光院の院主、萩屋慶浄だ」
「院主の萩谷慶浄でございます。凰様におかれましては、誠に見事な証立てであったとうかがっております。その御心を持って鳳様をお守りくださいますよう、お願い申し上げます」
慶浄は笑顔で、頭を深く下げた。
「慶浄、これが我が凰、高遠遥だ。跳ねっ返りで危なっかしいが、よろしく頼む」
遥は軽く隆人を睨んでから「初めまして」と遥は頭を下げる。慶浄は遥と隆人を見比べて微笑んでいる。
「さ、どうぞ中へお入りください」
慶浄が先にたって、建物の中へ案内をしてくれた。
応接間に通され、茶と菓子が出された。
遥は形だけ茶碗に口をつけ、慶浄に訊ねた。
「こちらに父の墓があると聞いたのですが」
「はい、こちらでお眠りいただいております」
ほっとした。隆人の言葉は真実だった。
「お父上のご両親などのお遺骨もお納めできればと思いお探ししたのですが、既に元の菩提寺の方で無縁墓として撤去され、それが叶いませんでした」
残念そうに慶浄は言ったが、遥は父から祖父母の話はほとんど聞いていない。名前すらあやふやだ。
「気にしないでください。祖父母との縁は薄かったので、仕方のないことだと思います」
慶浄は「わかりました」と短く答えた。
「墓に関して、すべてお前に無断で行ったことは重ねて謝る。すまなかった」
隆人が頭を下げたことに、遥は苦笑いが浮かんできた。
「それはもういい。すんだことだ。ここに父さんがいる。それでいい」
話が切れたところで、慶浄が冊子を遥の前に差し出した。
「後ほど、本院瑞鳥の間にて鳳凰誓詞奉納を行っていただきます。凰様は初めてのことですので、あらかじめお目を通していただいた方がよろしいかと存じます」
遥が反応するより早く、隆人が冊子を手に取りぱらぱらとページを繰った。
「ここだ」
示された部分をざっと見て、顔をしかめてしまう。遥の苦手とする丁寧な言葉の連なりだった。口の中でぶつぶつと音読する。
「ここはお前ひとりだから、ゆっくり落ち着いて読めばいい。ここは私と一緒だ」
長い文章ではないのが救いだった。
「間違えても笑われないかな」
「笑うことはできない。内心まではわからんが」
「内心て誰の?」
隆人が一拍、間を置いて答えた。
「私の家族だ」
遥はビクッとした。
隆人の家族といえば、昨日会った息子の暁の他に妻と娘がいる。
ここで会うのか……
思わず茶碗に手を伸ばして、一口飲み下した。
突然隆人の手が頭に乗せられた。
「堂々としていればいい。お前は俺の凰なのだから」
隆人なりに気を使ってくれている。遥はふうっと息を吐いてから、肩をすくめた。
「間違えるの前提で諦めてもらうしかないな」
「居直ったな」
隆人の手が遥の髪をかき乱す。
「やめろよ、こら」
ほほと慶浄が抑えた笑いをこぼした。
「仲睦まじくていらして、この慶浄安堵致しました」
ノックされた。
「ご本家の方お見えでございます」
「さ、参りましょう」
慶浄が立ち上がった。
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