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春から梅雨
翌る朝(12)
しおりを挟むノックがされた。
俊介がドアに控える。
「はい」
『隆人様がお運びになった。樺沢達夫が案内役である』
俊介が開けると、隆人が入ってきた。それに続いて、隆人よりいくつか年長と思われる男も入ってきた。
隆人が真っ直ぐ遥の元へきた。手の中の新聞を見てくすっと笑い、遥の頬に唇を寄せた。
「わっ」
遥は驚いて新聞をぐしゃりと潰してしまった。すかさず俊介が遥から新聞を受け取る。
「何だよ。外国人かよ」
嫌みを言うと、隆人はにやにやとしながら遥の肩を抱いた。そして、一緒に入ってきた男を示した。
「遥、これが樺沢本家当主、樺沢達夫だ。樺沢東京本家当主の樺沢恒夫とは従兄弟の関係になる」
隆人に比べると、やや恰幅のいい男が深々と頭を下げた。
「お初にお目にかかれますこと、光栄に存じます。樺沢家当主、樺沢達夫と申します。
凰様におかれましては、昨日《さくじつ》の大変見事な証立て、祝着至極に存じます。
どうか隆人様のことをお守りくださいますよう心よりお願い申しあげます」
遥はちらっと隆人を見上げてから口を開いた。
「任せとけ、とは言わないからな。すべては、た、隆人さんの態度次第だ」
まだ呼び慣れぬ名前をぎこちなく口にすると、隆人が噴きだした。
「確かにそうだな。凰を大切にしない鳳は守られる資格がない」
笑う隆人に対し、達夫と俊介が表情を強ばらせている。
隆人の手が遥を強引に自分の方に向けた。
「お前は本当にいいことを言う。初心に返る思いがする」
唇が重ねられた。
「おまっ、すぐそういうことを!」
突き放すが、隆人の意地の悪げな笑みは収まらない。
「人に言うのだから、お前もしっかり受け取れ」
「んっ」
抱きしめられて、顎を掴まれ舌に口中を蹂躙される。必死に隆人の背を叩いた。
達夫が咳払いをした。
「鳳凰様の互いを思う睦まじさ、この達夫よくよく身に染みました。誠に重畳。
それでは今後のご予定、申し上げてもよろしゅうございましょうや?」
「いいぞ」と言う隆人を遥はようやく突き放すことに成功した。ふーふーと気が立った猫のような息をして、隆人を睨んだ。
「いい加減にしろ。予定が聞けないじゃないか」
「俊介がついていれば、お前には問題はない」
「そういう問題じゃない」
見かねたのか、ついに俊介が間に割って入った。
「それではいつまで経っても達夫兄のお務めが終わりません。どうかお気を静めてくださいませ」
ようやく二人が聞く態勢になる。言葉の応酬が止んで、達夫がほっとした顔を見せた。
「午前十一時より、瑞光院瑞鳥の間にて鳳凰誓詞奉納を行っていただきます。その後、加賀谷家墓所にて展墓となっております」
遥が口を開くより早く、隆人が付け足した。
「その後、高遠家の墓に参る。いいな」
遥は頷いた。
「というわけで、遥はそろそろ着替えろ。早めに瑞光院へ行き、院主を紹介したい。俊介、任せた」
「かしこまりました」
俊介が頭を下げた。
「では、後で」
隆人たちが出ていった。
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