A Caged Bird ――籠の鳥【改訂版】

夏生青波(なついあおば)

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春から梅雨

翌る朝(10)

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 遥はひとり朝食に向き合う。
 ひとりの食卓は決して楽しいものではなかったが、碧が何かと気を遣ってくれた。

「お口に合いますでしょうか」
「おいしい」
「うれしいお言葉ありがとう存じます。厨方くりやかたに申し伝えます」

 うるさくない程度に声をかけてくるし、適当な距離を置いて控えてくれる。そういう人物だから、世話係に選ばれたのだろう。

 食後に紅茶を飲みながら、訊ねてみた。

「自由にしていいと言われたけど、どのくらいまでがしてもいい自由なんだ?」

 碧が「さようでございますね」と首をかしげた。

「まだ、分家のみなさまが滞在しておいでです。それを考慮に入れますと、まだこのお部屋と前の中庭程度の範囲でお過ごしいただきたく存じます。
 我らにとって大切な御身。老婆心が先に立ちますご無礼、平にご容赦くださいませ」

 隆人の言う自由は、案の定ささやかなものだった。だが碧の言うことはわかる。既に遥の胸にはあきらめに似たものが生じている。

 ま、こんなものだろう。

 あのマンションに監禁状態だったことを考えれば、あからさまな監視をされていない分、確かに自由だ。ただし、護衛という名目でこの部屋の周りには桜谷という連中が配置されているだろう。その意味でもう遥には完全な自由は手に入らない。
 ふっと思いついた。
 もしかしたら本当に死ぬまでこんな暮らしになるのだろうか?
 昨夜隆人と死ぬまでと誓い合った時は、そこまで考えていなかった。

 俺は自ら鳥籠の中に入っていったのだな
 だが、俺ひとりきりというわけではないらしい

 苦笑が浮かぶのを堪えながら、プレートに並んだプチケーキを食べ、紅茶を飲んだ。


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