A Caged Bird ――籠の鳥【改訂版】

夏生青波(なついあおば)

文字の大きさ
上 下
70 / 182
春から梅雨

翌る朝(4)

しおりを挟む

 隆人が顔をしかめた。

「まずかったな」
「何?」

 遥はバスルームの床にへたり込んだまま、隆人を見上げた。降りかかるシャワーと湯気で隆人の顔は見えない。

「今日の墓参りでは坂道を歩いてもらわなくてはならない。加賀谷の墓とお前のお父上の墓、両方を回る。それなりの距離だ」

 遥は口をとがらせる。

「そんなの聞いてない」
「言わなかったからな。まさかお前が本当に――」

 隆人の言葉が途切れた。だが聞かなくてもわかる。

『本当に凰になるとは思わなかった』

 続く言葉はこんなものだろう。証立てを拒否するか、証立てそのものに失敗するか。いずれにせよ、遥が正式な凰になることは諦めていたのだ、隆人は。

「とうてい長い距離は歩けないからな」
「上り坂にすぐ音を上げるのだろうな」

 想像しただけでうんざりする。

「単なる墓参りじゃなかったのか。ちったぁ加減しろよ」
「喜んでねだった奴が何を言う」

 否定できずに遥は唇を引き結んだ。確かに最後はいろいろ口走っていた気がする。

「口答えしないこともあるのか」

 意外そうな隆人の言い回しにかちんと来た。

「知ってたのに拒否しないあんたが悪い。責任取れ」

 突然隆人がしゃがんだ。顎を捕まれ、目をのぞかれる。鼓動が異常に速くなった。
(俺は、間違ったことは言ってない)
 その割にびくびくしている自分が情けない。

「わかってる。無理はさせない」

 言葉とともに軽く口づけをされた。すぐに顎は開放され、隆人はまた立ちあがる。
 どきどきしていた。そして何だかとても腹が立った。自分にも隆人にもだ。


 隆人が先にバスルームを出ていった。ひとりになってのろのろと体を洗う。
 用があると知っていたのに隆人は遥を止めてくれなかった。遥はそんな隆人を責めた。だがその一方で、満足のいくまでセックスしなかったら、むくれたであろう自分を想像できる。
 あまりに勝手な自分自身が恥ずかしい。
 あれほどまでに隆人とのセックスを嫌っていたのに、この変わりようは何だ? 自ら選んだにしても、百八十度の方向転換だ。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

BL短編まとめ(甘い話多め)

白井由貴
BL
BLの短編詰め合わせです。 主に10000文字前後のお話が多いです。 性的描写がないものもあればがっつりあるものもあります。 性的描写のある話につきましては、各話「あらすじ」をご覧ください。 (※性的描写のないものは各話上部に書いています) もしかすると続きを書くお話もあるかもしれません。 その場合、あまりにも長くなってしまいそうな時は別作品として分離する可能性がありますので、その点ご留意いただければと思います。 【不定期更新】 ※性的描写を含む話には「※」がついています。 ※投稿日時が前後する場合もあります。 ※一部の話のみムーンライトノベルズ様にも掲載しています。 ■追記 R6.02.22 話が多くなってきたので、タイトル別にしました。タイトル横に「※」があるものは性的描写が含まれるお話です。(性的描写が含まれる話にもこれまで通り「※」がつきます) 誤字脱字がありましたらご報告頂けると助かります。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

処理中です...