50 / 182
A Caged Bird ――籠の鳥【改訂版】
(50)
しおりを挟む
玄関でサングラスを手渡された。
「何?」
「おそらく見張られているでしょう。隆人様より、まだ顔を見せるなとのご指示をいただいておりますので」
黙ってサングラスを掛ける。室内では色の濃いレンズは不便だ。
「あらかじめお知らせしておきますが、車の中ではアイマスクをしていただきます。ご承知おきください」
遥はため息をついてうなずいた。
加賀谷たちのやり方にももうずいぶん慣らされた。遥がどう思おうと、そうすべきだと彼らが考えたことは実行される。
遥はたたきに並べられている靴を履く。
ここには遥の物は何もない。すべて与えられたものだ。しかし、どれも遥の体に合うように用意されている。
湊が玄関のドアを開けた。
遥の頬や体を撫でるように、風が流れ込んでくる。
何日ぶりなのかわからない、外の空気だった。
エレベーターで地下に降りるまでにもうひとりが途中の階から合流した。
「おはようございます。失礼いたします」
桜木たちに似た雰囲気の男だ。物腰は柔らかだが、意思が硬そうだ。
「後ほどご紹介いたします」
桜木が遥にそう言った。
マンションの地下は駐車場だった。そこに大きめのセダンが待っていた。
運転席の男が素早く降りてきて、遥に頭を下げた。
「おはようございます。本日ご案内させていただきます、桜木諒と申します。よろしくお願いいたします」
また桜木だった。
「諒、早く」
桜木が言うと、諒が素早く車の後部座席のドアを開けた。
遥の横には桜木が座った。諒は運転席で、湊が助手席だ。エレベータの中で一緒になった男は、別の車の助手席に乗り込む。
遥は桜木にサングラスを返し、渡されたアイマスクを自ら付ける。
少なくとも五人の人間が遥の移動に関わっている。もしかしたら、他にもいるのかもしれない。
「横になって休まれた方がよろしいですよ」
「ん……」
遥はシートを探りながら、ゆっくりと身を横たえる。
どうしても頭の来る位置に桜木がいる。
「枕代わりになさってください」
黙って遥は桜木の腿に頭を置く。頬に桜木の体の温もりを感じる。
「出発いたします」
諒の声がした。
動き出した車の中で、桜木が言った。
「諒は私と湊の従弟に当たります。先ほどエレベーターの中に参りました者は桜木則之。則之の乗る車を運転しているのがその弟の喜之と申しまして、諒同様従弟です」
「みんな桜木なのか?」
「はい。わたくしども桜木家の者は現在全員、遥様の護衛に当たっております」
「全員?」
「そう申しましても、わたくしを筆頭に七名に過ぎません。他の二名は離れた場所から遥様をお守りしております」
遥は小さく息を吐いた。
「ありがと」
「は?」
「寝る」
「はい。おやすみなさいませ」
何かがふわっと体にかけられた。感触からすると、タオルのようなものだ。遥はその端をつかんで胸元に引き寄せると、目を閉じた。
「何?」
「おそらく見張られているでしょう。隆人様より、まだ顔を見せるなとのご指示をいただいておりますので」
黙ってサングラスを掛ける。室内では色の濃いレンズは不便だ。
「あらかじめお知らせしておきますが、車の中ではアイマスクをしていただきます。ご承知おきください」
遥はため息をついてうなずいた。
加賀谷たちのやり方にももうずいぶん慣らされた。遥がどう思おうと、そうすべきだと彼らが考えたことは実行される。
遥はたたきに並べられている靴を履く。
ここには遥の物は何もない。すべて与えられたものだ。しかし、どれも遥の体に合うように用意されている。
湊が玄関のドアを開けた。
遥の頬や体を撫でるように、風が流れ込んでくる。
何日ぶりなのかわからない、外の空気だった。
エレベーターで地下に降りるまでにもうひとりが途中の階から合流した。
「おはようございます。失礼いたします」
桜木たちに似た雰囲気の男だ。物腰は柔らかだが、意思が硬そうだ。
「後ほどご紹介いたします」
桜木が遥にそう言った。
マンションの地下は駐車場だった。そこに大きめのセダンが待っていた。
運転席の男が素早く降りてきて、遥に頭を下げた。
「おはようございます。本日ご案内させていただきます、桜木諒と申します。よろしくお願いいたします」
また桜木だった。
「諒、早く」
桜木が言うと、諒が素早く車の後部座席のドアを開けた。
遥の横には桜木が座った。諒は運転席で、湊が助手席だ。エレベータの中で一緒になった男は、別の車の助手席に乗り込む。
遥は桜木にサングラスを返し、渡されたアイマスクを自ら付ける。
少なくとも五人の人間が遥の移動に関わっている。もしかしたら、他にもいるのかもしれない。
「横になって休まれた方がよろしいですよ」
「ん……」
遥はシートを探りながら、ゆっくりと身を横たえる。
どうしても頭の来る位置に桜木がいる。
「枕代わりになさってください」
黙って遥は桜木の腿に頭を置く。頬に桜木の体の温もりを感じる。
「出発いたします」
諒の声がした。
動き出した車の中で、桜木が言った。
「諒は私と湊の従弟に当たります。先ほどエレベーターの中に参りました者は桜木則之。則之の乗る車を運転しているのがその弟の喜之と申しまして、諒同様従弟です」
「みんな桜木なのか?」
「はい。わたくしども桜木家の者は現在全員、遥様の護衛に当たっております」
「全員?」
「そう申しましても、わたくしを筆頭に七名に過ぎません。他の二名は離れた場所から遥様をお守りしております」
遥は小さく息を吐いた。
「ありがと」
「は?」
「寝る」
「はい。おやすみなさいませ」
何かがふわっと体にかけられた。感触からすると、タオルのようなものだ。遥はその端をつかんで胸元に引き寄せると、目を閉じた。
0
お気に入りに追加
129
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる