上 下
2 / 182
A Caged Bird ――籠の鳥【改訂版】

(2)

しおりを挟む
 その男は深夜に現れる。
 事前にその連絡が入ると、彼は世話係と外から来る別の男に押さえつけられ、男を受け入れるための仕度をさせられた。そしてベッドに拘束された。
 すべてが整えられた頃合いに男が訪れ、寝室で二人きりになる。
 無駄なあがきとわかっていてもいつも彼は顔を背け、できるだけ男から離れようとした。
 男はため息をついては彼の顔を掴んで自分の方を向かせ、わざとらしい困惑したような眼差しをよこす。
 そんな男の態度に、彼は虫酸が走った。
 しかし、いくら抵抗したくても、それ以上の抵抗はできない。結局は男の望むまま男の欲望を受け入れることしか許されていない。

 寝室には、うめき声が満ちていた。
 いやらしく響く濡れた交合の音と、男の荒い息づかいがそれに重なっている。
 彼は背後から男に犯されていた。舌を噛んだりしないようさるぐつわを噛まされ、両手首は毛皮を巻き付けた柔らかな手錠でベッドのヘッドボードに繋がれている。
 男に突き上げられては、彼は呻いた。苦痛のためだけではないのは明らかだった。
 呻きが甘くかすむのは体の奥に塗り込められた薬のせいだ。彼の意思とはまったく関係なく攻められて燃え上がる。
 動物のように抑えつけられて、それを男の手で塗り込められる屈辱は、彼にいつも激しい怒りを与えた。だが、すぐに体の芯からわき起こるとろけるような感覚に翻弄される。
 そうなれば癒やされる方法は一つしかないと、覚えさせられた。男のそのそそり立ったものにめちゃくちゃに突かれ抉られることでしか満足できないと、叩き込まれた。
 彼の体は男を欲しがる、彼は望んでいないのに。
 自分を裏切る体に、彼はいつも悔しくて泣いた。泣くことしかできなかった。一切の抵抗を封じられ、男の前に尻をさらけ出されて、犯されるのだ。他にどうしろというのだ。
 泣きながら、自らの快楽の証をシーツに上に散らし、体の奥に吐き出される男の精を受けとめた。

「遥……」
 男が彼の名を呼んだ。
 寝室で犯され、風呂場でもう一度犯された後にもどってきた寝室は、世話係の手によりきれいに片づけられている。その中にある大きなベッドの上で、遥は男の胸に寄り添わされ、肩を抱きしめられている。その手がおぞましい。
 遥は男から顔を背け続ける。その時もまだ両手を体の前で拘束され、口にもさるぐつわがはめられたままなのだ。
「お前がもう少し私になじんでくれれば、今のような厳しい監視はしないですむ。儀式が済めば外へ出かけることも許そう」
 男の手が体を這うと、寒気がした。完全に薬の切れた体は、男をはっきりと拒絶している。
「私もお前にこんなことはしたくない。うまくやっていきたい」
 男は遥に自分を受け入れろと言う。喜んで体を差し出せと言う。男を体に受け入れて悦べ、悶えて、ねだれ――そう言っている。

(そんなことできるか。俺の一生をめちゃくちゃにしているくせに。誰がお前なんかに)
(たとえ体を薬で飼い慣らされたとしても、心まで捧げろというあんたは許せない)
(俺に父さんとの約束を破らせて)

 顔を背け続ける遥の耳に、男の深いため息が聞こえた。
「私がお前にしたことは、確かに許されないことだ。だが、お前が必要だった。これからも必要だ。お前を手放しはしない。ずっと守っていく」

(そんなこと俺が知るか。あんたたちの都合なんか、俺には関係ない)

 心の中の罵りは、男に聞こえるはずはない。だが、頑な遥の態度は言葉よりずっと雄弁に心の内を男に伝えている。
 もう一度男はため息をついた。

 男が着替えて出ていった。
 入れ替わりに、世話係の男が入ってくる。下着やパジャマなどを用意し、遥の拘束を外した後は遥が着替えるまで寝室を出て行かない。
 実験動物だと思う。
 体を弄りまわされ、観察される以外には生きている価値のない実験動物だ。
 遥は着替えるとベッドへ戻り、毛布をかぶった。
 寝室のドアが静かに閉まる音がする。
 毛布をかぶってしまえば、とりあえず監視カメラで泣き顔は見られない。声は聞かれるだろうが、それはいつものことだ。
 毛布の中で、遥は声を上げて泣いた。本当に泣くことしかできない。遥は何も許されていない。すべてを奪われ、何もできないのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッチョ兄貴調教

Shin Shinkawa
BL
ジムでよく会うガタイのいい兄貴をメス堕ちさせて調教していく話です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

家族連れ、犯された父親 第二巻「男の性活」  ~40代ガチムチお父さんが、様々な男と交わり本当の自分に目覚めていく物語~

くまみ
BL
ジャンヌ ゲイ小説 ガチムチ 太め 親父系 家族連れ、犯された父親 「交差する野郎たち」の続編、3年後が舞台 <あらすじ>  相模和也は3年前に大学時代の先輩で二つ歳上の槙田准一と20年振りの偶然の再会を果たした。大学時代の和也と准一は性処理と言う名目の性的関係を持っていた!時を経て再開をし、性的関係は恋愛関係へと発展した。高校教師をしていた、准一の教え子たち。鴨居茂、中山智成を交えて、男(ゲイ)の付き合いに目覚めていく和也だった。  あれから3年が経ち、和也も周囲の状況には新たなる男たちが登場。更なる男の深みにはまりゲイであることを自覚していく和也であった。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

男色官能小説短編集

明治通りの民
BL
男色官能小説の短編集です。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

処理中です...