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(6)現実との繋がり

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 今日はハンバーグに野菜たっぷりのコンソメスープ、温野菜のサラダにご飯だった。
 二人で仏前に手を合わせた後、テーブルについて食べ始めた。

「しのは毎日切り絵やっていて楽しいの?」
 この質問はもう何度目だろう。
「うん。何も嫌なこと考えなくていいから」
「図書館で本読むとか、散歩行くとかより?」
 箸が止まる。
「確かに先生は、外へ出なさいって言うけど……」

「朝日を浴びると体内時計がリセットされて、睡眠ホルモンのメラトニンの分泌が抑制されるんだって。抑制された十四~十六時間後に再分泌され始めて――」
 紫之はため息をついた。
「それはわかっているんだけどね」
「じゃ、明日の朝散歩しない?」
「急に言われても心の準備が……」
 光が大袈裟に額に手を当てた。
「ああ、ごめん。またお説教になってた」
「いいよ。心配してくれているのはわかってる」

 味のしないハンバーグを口に運んで噛む。三十回噛む。これも光の教えだ。
「一日、家で外の世界と関わりなくいるしのが不安なんだ」
「SNSでは繋がってるよ」
 光がはっきりと顔をしかめた。
「ネットは所詮ネットだ。現実世界じゃない」
 これはもはや光の口癖だ。口調がきつくて、いつも気持ちが潰れそうになる。でも、今日はめげずに口答えをした。

「現実に繋がってるよ」
「何? 何かあったのか?」
 光の真顔が怖い。
「しの、どうしたんだ? 誰かに何か言われたのか?」
「何でもないよ。ただ、尊敬している切り折り紙作家さんに、展示に参加しないかって声を掛けてもらえただけ」

 光の表情が、まるでスイッチが切り替わるようににっこりした。
「すごいじゃないか。しのの作品が認められたってことだろう? おめでとう」
「ありがとう」
 光は常になくにこにこしている。
(喜んでくれるのか)
 紫之は少しほっとした。光は外に出ろとは言うが、そこには必ず「俺が一緒に行くから」がついてくる。
(過保護なんだもん。反対されるかと思った)

「後で詳しいことを教えて。俺もしのの尊敬する人のこと知りたい」
 こう言い出したら光は止まらない。
(言わなければよかったかな)
 紫之は少し後悔を覚えた。



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