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8.理想の未来へ
(5)※
しおりを挟む喜びにふわふわした気持ちでいた澄人は、すぐに現実を突きつけられた。注入した薬剤がおこす排泄の欲求は強烈で、これからすることへの覚悟を澄人に求めてくる。これを越えなければ泰徳の許へ行けない。だが、これをすることで泰徳に抱いてもらえる。それを思えば下腹の苦しさにも、脂汗にも、恥ずかしさにも耐えられた。やり遂げたときは喜びさえ感じた。
シャワーを浴びて体を拭き、タオルを腰に巻いた。脱いだ衣類はソファの隅に置かせてもらう。そして、寝室に向かった。
小さくノックしてドアを開けた。室内はカーテンが引かれ灯りがついていた。ベッドでは泰徳がヘッドボードを背に座っていた。逞しい上半身が惜しげなく晒されている。
「来い」
真っ直ぐ自分に差しのべられた腕に、開かれた胸に澄人は飛びこみ、口づけを求めた。
泰徳の舌が澄人の舌に絡んでくる。くすぐったさが快感に変わる。いつしか澄人の体はシーツの上に横たえられ、タオルも奪われて泰徳に押さえこまれていた。送りこまれる唾液を飲みこみ、更に欲して泰徳の口中を舐める。
体が熱い。内部から疼きが込みあげ、澄人は無意識に泰徳に腹を擦りつける。触れあう欲と欲はどちらも硬く張りつめている。耳元に泰徳が口づけてきた。
「キスだけでもう昂らせて……こんなにお前が淫らだとは知らなかったぞ」
澄人はシーツに爪を立て、恥じらいに顔を背ける。
「泰徳様だから、です。泰徳様だから……」
澄人の下腹ですっかり真の姿となったものを泰徳の片手が包みこむ。それだけで澄人の背が跳ねた。
「俺を思って自慰をしたことはあるのか?」
吐息まじりに吹きこまれた泰徳の言葉に、かっと頬に血が上るのがわかった。背けていた顎を掴まれ、泰徳の方に向かされる。視線をさまよわせる澄人の唇を泰徳が食む。
「答えろ、澄人」
澄人は上目に泰徳を見てから、睫毛を瞬かせた。
「あり、ます」
ふっと泰徳が優しく微笑った。澄人のうなじに腕が差しいれられ、額に目尻に頬に鼻先に、そして唇にキスの雨が降る。閉じた目の奥を熱くしながらそれを受けていた澄人の体がびくりと竦んだ。昂った澄人を泰徳の手がゆるゆると扱きはじめた。
「あっ、ん……」
噛んだ唇を泰徳の舌が舐める。
「聞きたい、お前の声が」
泰徳の舌を舐めかえし、こくりと頷いた。口づけながら泰徳の親指が澄人の先端をくりくりと撫で、茎へと溢れでる滴を塗りひろげていく。
人の手で追いあげられる感覚は自慰とはまったく違った。感じすぎて自分では加減してしまうタイミングでも泰徳は容赦してくれない。ぬちゃぬちゃと響く水音は恥ずかしく、体が燃えるように芯から熱い。
「ぁ、ああっ、う、う……く、あ、あ……」
一気に高みに昇らされて呼吸が乱れ、腰がひくひくと浮いてしまう。
「あっあっ、い、イくっ」
限界が来ると思った瞬間、泰徳が手を止めた。
「ああ、なぜ……」
失速して墜落した澄人は涙をにじませて、泰徳を恨めしく見あげる。泰徳は笑っている。笑いながら澄人の下腹へ移動し、張りつめきったものを舐めあげた。澄人は背を反らせた。
「や、すのり、さまっ」
鈴口に舌先が押しいり、雫を啜られる。熱い口中にくびれまで取りこまれ、じっくりとしゃぶられる。他人から与えられる未知の感覚に澄人は頭を左右に振って耐えた。
「あ、あふ、く……んっ」
ずるりと泰徳の口内の奥まで滑るように収められ、喉がひくっと引きつった。裏筋を舌が這い、頬の柔らかな肉に包みこまれながら出し入れされる。初めての口淫に腰が蕩けるようだった。頭がふわふわとして、何も考えられない。
泰徳の手が根元に絡みつき、口淫とは別に上下に動きだした。また自分が限界まで硬さを取りもどすのがわかった。追いつめられる。さっき達しそびれた欲望が今度こそと滾ってくる。泰徳の動きも澄人を強引なほどの強さで高みへ引きずりあげようとしている。これでは泰徳の口に出してしまう。
「ああ、やすのりさまっ、イきます、イきますから、どうか、どうかお口を――」
しかし、泰徳は責めをやめない。このまま澄人を絶頂まで登らせる気なのか。
手が、口がいっそう激しさを増す。もう澄人にはどうにもできない。
「やすのりさまっ」
愛しい人の名を呼びながら衝動に身を任せ、頂きから澄人は飛んだ。
「あうっ、くっ、く」
きつく閉じたはずの目の前でまばゆい光が弾けた。
息が苦しい。解放感はあるのに体が重い。泰徳の口に出してしまった罪悪感から必死に目を開ける。泰徳は当然のようにごくりと飲みくだしていた。どんな顔をしていいかわからず、澄人は自分を抱き込む泰徳の腕に身を任せた。
「やはりお前は可愛い」
唇に軽くキスをされた。澄人は泰徳の胸にすがり、片手で泰徳の反りかえったものを握ったが、その手を泰徳に押さえられた。
「これはまだいい」
「でも……」
泰徳の指が澄人の尻の間に潜りこんできた。びくんと跳ねた体を宥めるように泰徳の手が尻から腰を撫でる。
「何をするかは知っているのか?」
紅潮した顔を隠すためうつむき加減になりながら、目だけ泰徳に向けて小さく頭を縦に振る。
「調べました、少し……」
「じっくり慣らしてやるから、いいな?」
小さく頷くとまた唇が重ねられた。
泰徳に必死に応える澄人の反らした胸を泰徳の手が撫でてくる。他人の手のひらの感触にまだ慣れていない体は、腰から背筋にかけてがぞわぞわとする。それでもなすがままになっていた澄人はひっと息を呑んで泰徳に体を押し付けた。泰徳の爪が小さな粒のような乳首を弾いたのだ。
「感じただろう?」
泰徳が笑いを潜めた声で澄人を煽ってくる。その間も爪と指の腹で粒を捏ねられ、引っかかれ、その度に腰へ向かって刺激が走る。快感ではない。ただじっとしていられず、泰徳の前で身をのたうたせてしまう。摘まみあげられて、呻くと舌で舐められた。嘘のように痛みが遠のく。その代わりに反対側が指先の餌食になった。片方に痛み、もう一方に舌先の癒やしを交互に与えられ、澄人は頭が混乱してきた。
「気持ちいいと言え、澄人。ここを弄られると感じると」
胸元に泰徳の息がかかり、ぞくりとした。
「き、もち、いい、です……感じ、ます」
「そうだ。気持ちいいことに慣れろ。感じる体になれ。それを俺に伝えろ」
それからも続いた執拗な胸への責めに乳首は南天の実のよう色づき、腫れた。
「もっと育ててやるからな」
囁きに澄人は思わず手の甲で顔を隠した。
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