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プロローグあるいは予告1

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フレンチの名店“シャルル・マルタン”を後にし、イタリアンの大人気店“ドン・コルトッツォ”に到着した時には、店内はもう人でごった返していた。
さすが大人気店だ。
店内に充満したおいしそうなトマトソースとニンニクの香りが食欲を刺激する。

反射的に出てきた唾液を飲みこみ、カウンター内の巨大なブラックボードに書かれた本日のオススメを確認する。
サボージャ牛のボロネーゼにマルゲリータか。
マルゲリータも追加で買おうかな。

ここには大好物のラザニアを買い溜めに来ただけなのに、ついつい目移りして買いすぎてしまうのが難点だ。
コルトッツォさんのレシピが美味しすぎるのが悪い。

テイクアウトの列の最後尾に付くと、2組前に同性のカップルを見つけてしまった。
慌ててパーカーのフードで顔を隠す。

この世界では同性のカップルは魔法師を意味する。
魔法師なら男性同士でも子供をもうけれるからだ。
もっとも同性愛者が魔法師のフリをしている場合もあるが。
魔法師を避けたい僕は、どちらにせよ同性のカップルを見つけたら隠れている。

魔法師とは魔法を扱える人のことで、魔力のうという魔力を蓄積する袋状の器官がある、男性のみがなれる職業だ。
裏を返せば女性に魔力嚢が存在した例はなく、魔力嚢がない男性も魔法師にはなれない。
そんな希少価値があるからこそ、優遇されている職業だ。

そして僕にも魔力嚢あり、かつては魔法師を目指していた。
野良ドラゴンを追い払うには問題ない程度の魔力嚢はあるが、ある問題によって魔法師を諦め、薬剤師に転向した。
今僕はその問題を薬で解決しようと、頑張って薬学を学んでいる最中だ。

ただ、魔法の発達したこの世界では全て魔法で解決できるため、薬師は必要のない職業とされている。
むしろ毒殺のイメージや媚薬のイメージが強く、差別されているのが現状だ。
魔法師から転向した僕も魔法師から差別を受けたことがあり、魔法師には会いたくないので顔を隠しているのが現状だ。

2組先の同性カップルから顔を反らし、店内のイートインスペースへ目をやる。
するとテラス席の一角に、見知ったグラサンマスクの金髪を見つけてしまった。
こんな大勢の人の前で会うのはごめんこうむる。

幸い期間限定の“ル・パルシェ”のマロンタルトと“シャルル・マルタン”のカボチャのグラタンとサーモンのパイシチューはもう手元にある。
あのモラハラ野郎に気付かれる前にさっさと帰ろう。
人前でいちゃつかさせれるのはモラハラだろう?

人混みからすこし離れた場所で、茶色いタブレットを1錠飲んで魔法を使う。
このタブレット状の錠剤は、僕が今師匠と開発中の薬だ。
魔法一回につき1錠飲めば、かなり問題を軽減できる。
もしかすると僕が自由に魔法を使える日が来るかもしれない、期待の薬でもある。

「《縮地》」

大にぎわいの人気イタリアンレストランの近所から、森の中にポツリとたたずむこじんまりとした一軒家の前に一瞬で到着した。
この縮地は自己流の移動魔法だ。
この世界で主流の移動魔法《転移》と異なり、ドアや壁を挟むと行き来ができないのが難点だが、さして魔力を使わないというのがこの《縮地》のメリット。

魔力を使わないということは、僕の問題を大幅に軽減する。
なにせ僕の問題は魔力を使用することによって陰嚢に溜まる澱が原因だから。
性的興奮を引き起こすこの澱こそ、僕の、いや魔法師の悩みの種だった。

股間がムズムズするような気がするが、それを無視して玄関の鍵を開ける。
玄関を開くと、そこにはなぜか、テラス席で見た最上級の金髪イケメンが満面の笑みで待ち構えてた。

「お帰り、フィル。一緒に汗を流して、コレを食べよう。フィルの大好きなラザニアと本日のオススメだよ」

よく見るとかなりイッちゃってる目をした金髪は、右手に“ドン・コルトッツォ”の紙袋を掲げている。
どうやら僕の好みを把握して先回りしていたようだ。
“ドン・コルトッツォ”が最後の買い物だとよくご存知で。

教えた覚えのない僕の家を把握してるのといい、勝手に僕の家に上がってるのといい、犯罪じゃないか。
でも憎たらしいほど完璧な皇子だから、つい許しちゃうんだよな。
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