氷と闇の王女は友達が欲しい！〜寡黙な護衛騎士とのズレた友情奮闘記〜

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第八話：王女の苛立ち。ダリオの忠誠と武術大会

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エヴァーフロスト王国の厳しい夜が、いつもと変わらぬ静けさで包み込む。だが、その夜、王女ノクティア・フロストナイトの心は、どこか落ち着かないままだった。

「ノクティア様……」
ダリオ・シャドウスノウが、彼女の隣で静かに声をかけた。

「……」
ノクティアは何も言わなかった。いつも通り、彼女は感情を抑えていたが、その僅かな変化をダリオは見逃さなかった。普段、どんな時でも冷静さを崩さないノクティアが、今日は明らかに苛立っていたのだ。

「エヴァ―フロストでの武術大会が、近づいていますね……」
ダリオが状況を察して静かに切り出すと、ノクティアはようやく視線を彼に向けた。

「そう。各国の騎士や兵士が集まって交流を深める、重要な外交イベントだわ。」
ノクティアの声には冷たさがあったが、その中に隠された感情をダリオは感じ取った。

「けれど……」
彼女は言葉を詰まらせた。自分の気持ちをうまく言葉にできないまま、苛立ちだけが募っていた。

ダリオの力を侮る噂が流れている。
それが、ノクティアを苛立たせていた理由だった。王国の護衛騎士であり、彼女の側近中の側近であるダリオが、この武術大会には出場しないと決まっていた。彼は王女の護衛を最優先にし、出場しないことを自ら選んだのだが、その結果、国内外で彼の実力を軽んじるような噂が広まり始めていた。

――あのダリオ・シャドウスノウは、実は大したことがないのではないか？

その噂がノクティアの耳にも届いていた。彼女にとって、ダリオの忠実さや実力は疑う余地のないものだったが、世間が彼を正当に評価しないことが許せなかった。

「私……こんなこと、気にするべきじゃないってわかっているのに、どうしても我慢できないの。」
ノクティアは、自分でも理由のわからない感情をぶつけるように言った。

「私は大丈夫です、王女様。」
ダリオはいつもの無表情のまま、静かに答えた。「護衛騎士として、王女様を守ることが私の使命です。武術大会で力を誇示することは、私の役割ではありません。」

「……分かってる。あなたが出場しないのも、護衛の仕事を優先しているからだって、頭では理解しているわ。」
ノクティアはため息をついた。ダリオの言うことが正しいことは、よくわかっている。だが、どうしてもその言葉だけでは納得しきれない自分がいた。

「でも……私は許せないの。あなたが侮られるなんて、そんなの……」
ノクティアは拳を握りしめ、感情を押し殺すように言った。

ダリオはしばらくノクティアを見つめ、冷静に言葉を紡いだ。

「それでは、直接出場はしないまでも、間接的にこの大会に関わるのはどうでしょうか。」
彼の提案に、ノクティアは少し顔を上げた。

「間接的に……？」

「はい。エヴァ―フロストから出場する騎士や兵士に、私が戦術的なアドバイスを与え、その勝利を後押しするのです。私が戦わなくても、彼らが成果を上げれば、私の指導が役立ったことが証明されるでしょう。」

「それなら……！」
ノクティアは目を輝かせた。ダリオが直接戦わなくても、彼の実力を示すことができるなら、これほど理にかなった提案はない。彼の冷静さと知識、戦術的なアドバイスが加われば、エヴァ―フロストの騎士たちは確実に勝利をつかむだろう。

「それなら、あなたの力を証明できるわ。誰にも侮らせる必要はない。」
ノクティアの胸の中に、少しだけ安堵が広がった。

ダリオは無表情のまま静かに頷き、続けた。

「王女様にご心配をおかけするのは心苦しいですが、これがエヴァ―フロストのためにもなるのであれば、私は喜んで協力いたします。」

ノクティアはその言葉に、ようやく微笑んだ。ダリオが彼女を守るために全力を尽くしてくれることは、もはや疑いようがない。だからこそ、彼の力を侮る者たちを見過ごすことができなかった。

「ありがとう、ダリオ。あなたの知恵と力で、エヴァ―フロストの勝利を支えてもらうわ。」

◆　　◆　　◆

その夜、ノクティアはダリオに感謝しながら、少しずつ心の苛立ちが収まっていくのを感じた。ダリオの忠実さに対する不安はなかった。ただ、自分の中で芽生えた感情が、自分でも制御できないほど膨らんでしまっていた。

「友達として……彼が評価されないことが、許せなかったのかもしれない。」
ノクティアはそう感じながら、月明かりに照らされた窓を見つめた。

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