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Chapter 1:Children of the Night
#4 La Perche pour Elle
しおりを挟むニシコクマルガラス(西黒丸鴉、学名:Corvus monedula)は、スズメ目カラス科の鳥の一種。
英名 Western Jackdaw
全長約33cm(30-34cm)、翼開長64-73cm。カラス属では最小の種のひとつである。体重180-260g。
羽毛は黒あるいは灰色がかった黒色で、頬と後頸および頸部は明るい灰色から銀灰色である。虹彩は灰色がかった白色か銀白色。くちばしは黒くて短く、足も黒い。(Wikipediaより抜粋)
※※※※※
♤.
初めにその組織の事をそう呼んだのが誰であったか?今さら解る話ではないし、そして本人達も気にはしていなかったが、“黒鎧”という名の由来が中世に於ける黒騎士を捩ったものというのはメンバー全員が認知している。
主君を持たず、盾の紋章も自らの鎧も漆黒に塗り潰して傭兵として暗躍した黒騎士。そして“黒鎧”もまた、日本政府の影の傭兵であった。
メンバーは皆、ある日突然“呼び屋”からスカウトされた元自衛官や日本人傭兵、警察官といった手合いであり、ある程度上等な給料、装備面等でのバックアップと引き換えに日本国内のゴミ掃除を行っていた。
全体的にはどの程度の規模で、どの組織の誰が運用し、政府の組織内でどの程度認知されているかなど所属する本人達にも不明な事が多く存在し、任務の指示も“呼び屋”から渡される携帯にかかってくるのみで、上の人間が直接接触してくる事は無い謎の組織であったが、さしあたって解っている事は最小単位が班と呼ばれる分隊規模の1グループだという事と、組織の存在を口外するのは文字通りの“死”を意味するということ。そしてジャックと桜が所属する班は3班と呼ばれていた。そして、この度の任務も件のゴミ掃除の一環であった。
ジャックと桜は打ち合わせ、装備のチェックを終えると3班の所有しているセダンに乗って目標へと急いでいた。彼女達は二人共、ポーチ類等様々なアクセサリーを簡単に取り付ける事の出来るPALSウェビングが施された黒の防弾着を着込み、ぱっと見でそれと解らぬように上からパーカーを羽織っていた。それに加えて顔を隠す為のバンダナを首に下げているので傍から見れば彼女達はこれからギャングの抗争ですよとでも言いたげな不審者ルックスであろう。黒鎧の手回しで黙らせる事が可能であったとしても、警察に職務質問でもされて手間を食うのは面倒であった。
「なあ、ジャック」
ハンドルを叩いて軽くリズムを取りながら桜が口を開いた。
「何だ?」
特に何か喋る訳でも無く、ずっと前を見ていた眼帯の少女もそれに短く答えた。彼女の白金のブロンドが暗い社内に朧に光る速度計のランプに照らされ、青白く、不気味な輝きを放っている。
「お前が日本に来てからどれくらいになるっけ?」
「2年・・・という所か。それが何か?」
「いいやぁ別に・・・お前をあんなクソな所から連れ出して、まあ表では少しでも平和なこの国で年頃の女の子らしい生活をさせてやれたらなーなんて思ってたが今や殺しの手伝いをさせちまってるってのがな」
桜は苦い笑みを浮かべ、タバコを一本咥えると煙を逃がすために車窓を僅かに下げた。
「これは私が選択した事さ。桜も最初は反対しただろ?私は戦う為に生まれてきた。そんな気がする」
彼女は本来であれば高校に通っているのが普通という年齢であった。それなのに目の前の少女は冷たい眼差しで生を諦観しきっている。お節介なのかも知れないが、そんなジャックを見ていつも桜は仄かに寂しさのようなものを感じていた。桜が吐き出したタバコの煙が彼女の顔の周りを少し漂ってから、空いた窓に吸い込まれるようにして外に吐き出されていく。
「私はお前の事を戦闘マシーンともバケモンとも思ってねえ。ただの人間だ。だからこんな生き方やめてえって言うならいつでもお前を援助する準備はできてる」
フッとジャックが微笑した。普段の冷たい顔に浮かべられたとは思えないように、可愛らしく。
「桜はまるで私の親だな。私の親代わりはロクでもない手合いばかりだったから嬉しい」
「お前の古巣か」
ジャックは眼帯で隠した右目をさすって応える。
「そうだな」
「私の古巣もロクでもなかったからな。似たもん同士やっぱ馬が合うんじゃねえの?」
そう言って桜は灰皿にタバコをぐりぐりと押し付けて消した。車内にヤニの匂いが充満すると、ジャックが鬱陶しげな顔で手を仰がせ始める。
「タバコ吸いすぎだ桜。私が心変わりしてこの仕事を辞めたいなんて言う前に肺ガンで死ぬぞ」
「へへへ、違いねえな」
桜がジャックと出会ったのは戦場であった。それも敵同士として。
今でも鮮明に覚えていた。次々と倒れる仲間、小さな体に不釣り合いな旧ソ連製の自動小銃、そして顔に巻かれたスカーフから覗く真っ赤な右目。
ジャックはあの砂と硝煙が舞う戦場に辿り着くまでの経緯を頑なに語ろうとはしなかった。それは今でも同じである。
桜は彼女に戦を強いた連中を憎んだ。だが、いくら本人が望んだとはいえど彼女がさせているのも同じような事であった。ジャックの心は未だ、戦の中にある。そんな彼女がいつか銃を捨てて平凡な暮らしに希望を見出す事ができる日が来れば───それが桜のささやかな願いであった。
「さて、気ぃ引き締めるぞ」
桜がそう言って、垂らしていたバンダナを上げて顔を隠した。ジャックもそれに倣う。もう彼女達は目標の近くまで来ていた。
目標から若干離れた位置にセダンを停めると、彼女達は周囲に誰もいない事を確認してから後部座席に隠していた銃を取り出した。
「へへっ、なんかギャングみてーだな」
「これから私達が狩るのはそのギャングだぞ桜」
ジャックの素っ気ない応答に桜はカタブツ野郎めとでも言いたげな仏頂面で睨んだが、ジャックはそれに気付いた上で無視した。
ジャックは自分のエモノ、消音器付きのMP7短機関銃に弾倉を差し込んでから棹桿を引いて初段を装填する。貫通力に優れた弾薬を使用するこの機関銃であればそこらのワルが入手できる程度の防弾着なら穴を開けることなど造作も無い。全ての準備が整った。
「ロックンロールの時間だぜ」
銃を片手に、二人はドアを開ける。
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