Jackdaw(s).

赤首山賊

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Chapter 1:Children of the Night

#1 BEHAVIOR phase.1

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♡.

 5時間前、高山たかやま桜芽さくらめ市―――

 都内に電車約30分で行けるここ高山の県庁所在地は、都内で働くサラリーマンや夢を持って上京した若者達にとってのベッドタウンのような街である。
 治安が良いという程では無いが都内に比べれば夜遊びに行ける場所は少なく、一度家に帰ってしまえば出る事も滅多に無いので、誰もが自分に犯罪の魔手がかかる事は無いと考えるような、そんな場所であった。
 結城陽菜子はいつものように面倒な学校を済ませると、友人でクラスメイトの谷岡理沙たにおか りさと雑談を楽しみながら帰路に着いていた。

 「やっぱヒナは良いよねー、ほんと羨ましいわ」

 暗い茶髪をツインテールに束ねた小柄な理沙が言った。

 「えっ、なんで?」
 「だってヒナったらスタイル良いしさ、顔も可愛いし、何って清楚な雰囲気してるじゃ~ん」

 私からすれば理沙ちゃんの方が可愛いんだけどなあ・・・と陽菜子は思ったが口には出さずに応える。
 彼女は長く艶やかな黒髪に整った綺麗な顔立ちをし、胸は大き過ぎず、かと言って小さくもない程よい大きさに育って肢体の作る曲線は流麗。
 誰にでも優しい笑顔で応える清楚な少女。春真っ盛りの男共が彼女をほっておかないのも無理は無かった。

 「そんなことないよ理沙ちゃん、私性格も地味だし・・・」
 「ほらほら!すーぐそういう事言う!ほんとは解ってんでしょ自分がたくさんの男子から狙われてんの、特にこのボイン!私にもわけろよ~」

 と、やんちゃ気な声で言って、理沙が陽菜子の胸を揉んだ。

 「あはは、くすぐったいよ理沙ちゃん」
 
 陽菜子は自分が学校の男子の中で評判になっているのは知っているし、あからさまなアタックや告白も何度か経験しているのだが・・・彼女は恋愛に興味が無かった。いや、異性との恋愛に興味が無かったと言うのが適切だろう。実際、陽菜子が好意を抱いているのは目の前のクラスメイトの“少女”なのだから。
 陽奈子に比べて小さく、幼さが残るその身体に無邪気さを感じる声、可愛らしいツインテール。溢れんばかりの女の子らしさが、陽菜子には愛おしかった。
 幼い頃から、彼女の恋愛的な興味の対象は同性であった。
 小さい頃から彼女は同性を好きになるのは別におかしな事ではないと思っていたが、成長していくと徐々に自分が変わり種だと気付く。
 しかし、どう足掻いても異性に恋愛感情を抱けないので理沙には小学校で知り合って以来淡い恋心を抱いているが、いざその気持ちを打ち明けた時にこうして一緒に笑いながら帰れるような、そんな日常が終わってしまうのでは?という不安にいつまでも打ち明ける事ができないままでいた。
 社会においてまだまだ異端とされる自分の性的指向。この平和な国で何不自由無い生活をしているのに、肩身の狭い恋心。それが彼女をどこか寂しい気持ちにさせていた。

 「あっ、そういえばさ!」

 飽きたのか、陽菜子の胸から手を放した理沙が元気に言った。

 「ここらへんに美味いクレープ屋の屋台、来てるらしいよ!だからさ、今から行こうよ!」
 
 多分、この気持ちが報われる事は無い。理沙が隣のクラスの男子と最近良い感じになっているというのは噂で聞いていたし、彼女はどこかの異性と恋人になり、そして自分は“友達”のまま、置いて行かれてしまうはずだろう。
 だが陽菜子には自分の日常に、隣にいて笑顔をくれる“友達”の理沙がいてくれるだけで充分幸せだった。

 「うん!」

 陽菜子も顔いっぱいの笑みで大切な友達に応えた。




 
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