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第四章 勇者戦争〈ブレイブ・ウォー〉
第100話 魔と光
しおりを挟むナハトを握り締めて駆け出す。エリシアとユーリは雷と風になり突撃する。
ライアは炎と化してユーリとぶつかり、ガイウスはエリシアの一太刀を両腕を盾にして受け止める。そして俺とアーサーは互いの間合いに入り、剣と剣が交差して火花を散らす。
ライアとユーリは炎と風をぶつけ合いながら上空へと舞い上がり、ガイウスはエリシアにより押し出されて要塞の壁をぶち抜いて姿を消した。
俺とアーサーは剣を幾度も振るい火花を散らす。もう俺には以前戦った時のような力は無い。だから基本に戻り、エルフの国で学んだ魔力を介して心を読む力を全身全霊で使う。
アーサーの一挙一動を先読みして剣を振るう。アーサーが光の力を使う前にナハトで牽制して防御に徹底させる。
今の俺がアーサーに勝っている物があるとすれば、それは剣術だけ。魔法による殲滅攻撃でもされてしまえば勝機を一気に失ってしまう。
ナハトを上段から振り下ろし、アーサーはそれを剣を横にして頭上で受け止める。
「ッ――いつになく必死だね」
「今の俺にはこれしか無いからな……!」
「……どうやらその布切れが呪いを食い止めてるらしい」
「魂殺の呪い……厄介なのを押し付けてくれたな」
「兄さんの魂を弱らせるには丁度良いから――ねッ!」
ナハトが押し返され、上に弾かれる。アーサーの剣が横から迫るが、それは既に読めている。弾かれた力を利用して身体を回転させ、ナハトを割り込ませて剣を防ぐ。
アーサーから魔力が高まるのを感じ、魔法を使わせる前に顔面目掛けて蹴りを放つ。
しかしその蹴りはアーサーの左手によって掴まれて止められる。
アーサーはそのまま俺を振り回し、地面に何度か叩き付ける。強烈な痛みと衝撃が全身を襲うが、これぐらいは慣れている。
俺を放り投げたアーサーは剣を上から下に振り下ろし、光の斬撃を放つ。
「ディバインドライブ」
空間をも巻き込み斬り裂く光の斬撃が迫り来る。
ナハトを地面に突き刺して地面に着地し、ナハトに俺の魔力を喰わせて剣身を強化する。
漆黒の剣身から魔力が沸き上がり、鍔のドラゴンの眼が赤く光る。
眼前に迫った光の斬撃をナハトで横に斬り払う。斬り払った先では既にアーサーが迫っており、腰を捻らせて剣を構えていた。
「ドライブ」
アーサーは剣身から魔力を炸裂させる魔法技を放ち、剣を振り払う。
その炸裂する剣を受け止める訳にはいかず、身体を反らしてかわす。かわしたと同時にナハトを突き出し、アーサーは左手から光の剣を展開してナハトの突きを受け止める。
フォトンエッジ、アーサーの得意技の一つ。光の魔力だけで剣を構成する技。
アーサーの魔力を読み解き、次に繰り出される攻撃を先読みする。
光の槍を射出するフォトンランサーを使用するつもりだ。
その魔法の発動を止めることはできないが、避けることならできる。
ナハトでアーサーに斬りかかり、同時に周囲の空間に魔法陣が展開されて光の槍が射出される。直撃しない地点を見極め、どうしても当たる槍はナハトで斬り落とす。アーサーから距離を取らないように、常に剣術で勝負できる間合いで攻める。
アーサーはまだ本気を出していない。俺を殺す気なら初手で強力な魔法を放って終わりにしている。それをしないのは、俺を生かしておきたいからだ。俺を親父の依り代にするには生きている状態でないといけない。
だからこそ、そこに俺の勝機がある。アーサーが本気を出せない今の内に、俺の全てを以てアーサーを無力化する。
上空では炎と風が吹き荒れ、空を真っ赤に染めていく。要塞側では雷が迸り、衝撃が巻き起こっている。
「兄さん、今の兄さんじゃどう足掻いても僕に勝てないよ。その呪いを解き放つんだ。水の神殿でやったように、呪いの力を逆手に取らなきゃ、僕を越えられない」
「呪いを解放すればお前の思う壺だろ! 剣術だけでお前を抑え込む!」
「それ――本気で言ってるのかい?」
直後、アーサーの魔力が膨れ上がった。
アーサーの全身から光が噴き出し、その衝撃によって吹き飛ばされる。
即座に体勢を整えるが、顔を上げた瞬間にアーサーの拳が鼻っ柱を捉え、殴り飛ばされる。
殴り飛ばされた先にアーサーが光の速度で回り込み、再び俺を殴り飛ばす。俺が地面に落ちる前に先回りして蹴り飛ばし、上空に打ち上がったところへ踵が落とされ、光の衝撃と一緒に地面に叩き付けられる。
「ゴハァッ!?」
「あまり図に乗るなよ、兄さん。今の兄さんにそんなことができる訳ないだろう?」
ゴリッとアーサーの足が俺の腹にめり込む。骨と内蔵が押し潰されそうになり、ナハトを振り回してアーサーを俺から離れさせる。アーサーが離れてすぐに身体を起こし、ナハトを構え直す。
アーサーの魔力がどんどん高まっていく。今にも殲滅魔法を使ってきそうな雰囲気だが、その魔力は全て身体能力へと回すだろう。俺の先読みでも対応できない動きをされたらかなり分が悪い。さっきのように光速で動かれたら、今の俺では対処できない。
ただの剣術だけじゃ、アーサーに勝つことは流石にできないか。やはり大きなリスクを背負ってでも、此方の手札を増やさなければならないな。
俺は腰のポーチに手を伸ばし、中からアンプルを一つ取り出す。
ララから貰った三つの霊薬。呑めば魔力を限界以上に高めることができるが寿命を縮める代物。
俺の寿命がどれだけあるのかは知らないが、アーサーに打ち勝つことができるのなら構うものか。
アンプルの栓を抜き、一気に中身の霊薬を飲み干す。
その途端、俺の中の魔力が激しく昂ぶり、抑えが効かなくなる。同時に内からの激痛と圧迫感に襲われる。
だがこれならいける。これ程までに魔力が高まれば、アーサーにも迫ることができる。
「……何をした?」
「大切な教え子からのプレゼントだ」
ナハトに魔力を喰わせ、身体強化に残りの魔力を回す。
アーサーが光速で動き出す――しかしその動きはしっかりと目で捉えられる。
地面を踏み砕き、俺も光速に迫る速さで動く。一度交差する瞬間に幾度の刃を交え、その余波で周囲の地面が崩れていく。
霊薬の効力がいつまで続くのか分からないが、続いている間にアーサーとの勝負に決着を付けなければいけない。
俺がナハトを振り下ろせばアーサーが剣で捌き、アーサーが剣を振り払えば俺がナハトで弾く。アーサーが剣から光の魔力を掃射すれば、ナハトで受け止めてナハトに喰らわせる。その喰らった魔力をアーサーへと返し、アーサーが剣で魔力を斬り裂く。
「おおおおおお!」
「はあああああ!」
俺とアーサーが繰り出した剣撃がぶつかり合い、魔力の衝突が発生する。空間を揺らし、周囲の地面が罅割れていく。
鍔迫り合いの中、アーサと睨み合う。漆黒の剣身と蒼い剣身が火花を散らし、魔力と魔力が衝撃を撒き散らす。
ここまでアーサーと渡り合えているのはララの霊薬のおかげなのか、それともアーサーが手加減しているからなのか。何方にせよ、今の内に勝利の一手を打っておかなければならない。
「アーサー!」
「この程度で……僕に勝ったつもりか!?」
アーサーから光が放たれた。その光に押し返され、アーサーから距離を取ってしまう。
アーサーは剣を上空に掲げ、光の魔法を発動する。
「光の雨に呑まれろ――ホーリーレイ」
赤い空から白い光の矢が降り注いでくる。俺はナハトを盾にし、魔力障壁を展開する。光の矢は障壁によって防げたが、これでは動くことができない。
その間にアーサーが次の攻撃態勢に入ってしまった。
「これも防げるか?」
アーサーは剣を引き絞り、剣身に強烈な光の魔力を集束させる。
魔力の先読みで、これからアーサーが繰り出す技を理解して目を見開く。
「光龍槍・顎!」
突き出されたアーサーの剣から巨大な光龍の顎が放たれる。それは口を大きく開き、地面を呑み込みながら迫ってくる。あんなに大きければ丸呑みにされてしまう。
光の矢で動けない以上、この状態でアレを受け止めなければならない。だがあれ程の力、ただの魔力障壁で防げる訳がない。
俺は限界を越えて高まっている魔力を更に練り上げた。ナハトにありったけの魔力を喰わせ、荒ぶる程の魔力をナハトから放出させる。
「おおおおおおっ!」
血管がはち切れる音を耳にしながらナハトを大きく振り落とす。ナハトから放たれた魔力により光の矢は全て打ち払われ、眼前に迫った光龍を縦に両断して薙ぎ払う。
ただの魔力の放出だが、その量は身体が耐えられる限界を超えており、今にも脳が破裂しそうだった。
だが場を乗り切った。反動による痛みにも慣れた。まだ戦える。
ナハトを肩に担ぎ、アーサーを睨み付ける。
アーサーはただ静かに、此方を睨み返していた。
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