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第四章 勇者戦争〈ブレイブ・ウォー〉
第91話 悪しき予言
しおりを挟むララ達の下から飛び立って暫くした頃――。
湖に浮かぶ神殿の手前まで辿り着いた時に、それは来た。
「グッ――!?」
右腕が強烈な痛みを発し、風の制御を失ってしまう。そのまま墜落するようにして湖に落ち、身体が水面に叩き付けられる。叩き付けられた痛みよりも右腕の痛みのほうが酷く、まるで内側から焼かれるような痛みだ。
黒い魔力が右腕に纏わり付き、右腕を作り変えていくように広がっていく。
水中で藻掻き苦しんでいると、誰かの手が俺の身体を後ろから掴んだ。
その腕の先を見ると、幼い子供達が俺を水底へと引き摺り込もうとしていた。
「――!?」
その子供達には見覚えがある。
忘れるはずも無い……俺が見殺しにした嘗ての弟妹達だ。
弟妹達は恨みがましい目で俺を見つめており、弟妹達の言葉が頭に響き渡る。
――どうしてお兄ちゃんは助けてくれなかったの?
――苦しかったのに。
――お兄ちゃんも苦しんでよ。
その言葉と弟妹達を振り払うように暴れて水面へと上がっていく。
これは幻影だ……この右腕が見せる幻影だ。囚われるな。あの子達はもう死んだ。あの子達はもういない。
必死に藻掻き、意識が遠退くギリギリのところで水面に出ることができた。
右腕の痛みはいつの間にか引いていて、今は何も感じない。
「ハァ――ハァ――」
湖に浮かびながらなんとか心を平常に戻す。
この右腕の呪いは厄介だ。まるで本当に弟妹達の魂が俺を蝕んでいるように思える。このまま呪い殺されてしまうのかもしれない。事実、俺の精神にダメージを確実に、それも大きく与えている。
いっその事、この右腕ごと斬り落としてやろうかと考える。炭になっても再生するぐらいだ、腕の一本ぐらい生えてきそうな予感はする。しかしこの呪いは右腕に掛かってる訳じゃなく、俺の魂に掛けられているものだ。腕を生やしたところで呪いもそのままだろう。
湖を泳ぎ、水没している石の通路に上がる。
水の神殿は、この湖の中へと続いている。水上に出ている部分はあくまでも入り口で、魔法によって水中で空間が保たれている。
ナハトを担ぎ直して神殿の入り口から中に入る。水の神殿入り口は崩落したかのように滅茶苦茶だが、五年前もこうだった。穴という穴を潜り、降り、下へ下へと降っていく。
ある程度下まで降りると、通路が現れる。此処にもクリスタルがあり、光り輝いて照明代わりになってくれている。
試練の間はまだ先だ。こういった静かな通路がずっと続く。怪物の気配は未だに無く、だけど警戒を怠らないようにして脚を進める。
すると、少しだけ広い空間に出た。壁画や遺物の残骸があるだけの何の事無い部屋だ。
「……」
背中のナハトに手を伸ばし、抜剣できる状態にする。
風が吹き、目の前に青白い光が集まっていく。
試練の間はまだ先だ。この光は進行を阻害するトラップのような物か。
そう警戒していると、光は更に集まり、やがて人型を取った。
光が晴れると、半透明の女性がそこにいた。
『……』
「……?」
その女性は俺を凝視すると、コテンと首を傾げる。俺も首を傾げると、女性はゆっくりと口を開く。
『……貴方、呪われている』
「……まぁ、な」
ナハトから手を離し、右手を一瞥する。
不思議な感じだが、この女性からは敵意を感じない。
五年前は姿を見せなかった。いったい彼女は何者だろうか?
女性は床の上を滑るように移動し、俺の周りを一周して俺を観察する。そして俺の右腕を見て、女性は首を横に振る。
『その呪いは確実に貴方を殺す』
「これを知ってるのか?」
『それは魂殺の鏡……貴方に恨みを抱く者達の魂が、貴方の身と魂を腐らせ殺す。誰にも解くことができない最悪の呪い』
魂殺の鏡……聞いたことの無い呪いだ。これも闇の魔法なんだろうか。
女性は俺を憐れむように見つめ、俺の右腕を『掴んだ』。
こいつ、『実体』があるのか。
女性は俺の袖を捲り、黒く変色した腕を触る。
『……随分と強い呪力。呪いの術者が相当な力の持ち主なのか、それとも貴方の恨みを持つ者が多いのか』
「……どっちもだろ」
女性から右腕を離し、袖を伸ばして腕を隠す。
恨み……やはり弟妹達は俺を恨んでいるのか。何度も目の前に現れては俺に報いを受けさせようとする。
分かっていたことだが、そう事実を突き付けられるとクルものがあるな。
「お前は誰なんだ?」
『私は水神の使い……名は無い』
「その使いがどうして現れた?」
『貴方を見定めろと……力を持つに相応しいか』
これはまた……他の試練とは毛色が違うな。水神の趣味趣向なのか、それとも俺が既に三つも力を手にしているからなのか。それとも、事情が変わったのか。
ま、いきなり怪物をぶつけられるよりは面白見もあるし、お陰で呪いの概要も分かった。
俺は使いと更に会話を進める。
「それで? お眼鏡にはかなったかな?」
『……まだ。水神だけではなく、他の神々も貴方を見ている』
「……それは、どうしてだ?」
『貴方は世界にとって救いになる。だけどそれと同時に災いともなるのです』
使いは付いてくるようにと促し、奥へと進む。
俺はそれに従い、使いの後ろを歩く。
『今、世界は均衡を崩そうとしている。数万、数千年保たれてきた均衡が崩れれば、世界は滅びる』
「いきなり重いな」
『貴方はその均衡を保つことも、破壊することもできる』
「どうして俺なんだ?」
『貴方が【ルドガー】だから』
「……?」
【俺】だから? 訳が分からない。どうして俺に均衡をどうこうすることができるのかと尋ねたら、返ってきた答えが【俺】だから? まるで答えになってない。
「……あるエルフの大賢者が、俺には予言があると言った。それと関係はあるのか?」
『それは【悪しき】予言。成就させてはならない』
俺は足を止めた。
アルフォニア校長の言う予言が、悪しき予言? それはどういうことだ?
それではまるで、エルフの王と大賢者が悪しき予言を成就させようとしているようではないか。
いったいその予言ってのは何なんだ? いい加減に教えてほしい。
「その悪しき予言というのは?」
『原初にして最悪の神――闇神レギアスの復活』
「闇神……レギアス……?」
使いは立ち止まって振る返る。その顔からは何も読み取れない。使いは無表情のまま、極めて冷静に言葉を紡ぐ。
『闇を司る神が復活すれば、世界の均衡は崩れる。貴方は闇神に選ばれた存在。だけど同時に七神に選ばれた存在。故に、保つことも破壊することもできる』
「だから……何で俺なんだ?」
『さっきも答えた――貴方が【ルドガー】だから』
使いは再び歩き出した。俺はそれに続き、通路を進む。
まだまだ使いに訊きたいことがある。真実がどうあれ、この機に色々と訊きだしておきたい。
冷たい風が流れる通路を進みながら、俺は使いに問う。
「その悪しき予言ってのには、俺がレギアスを復活させると読まれているのか?」
『そう。そして貴方はレギアスの眷属となり、世界を滅ぼす』
「……エルフの大賢者がそれを望んでるとは思えないがな」
『予言が全てを語るとは限らない。そもそも、レギアスの予言書を人類がまともに読めるはずがない』
レギアスの予言書……ユーリが持っていたラファートの予言書と同じような物か。その予言書に書かれいるのが、レギアスの復活なのだろう。
俺はどうしてもアルフォニア校長やヴァルドール陛下がレギアスの復活を望んでいるようには思えない。その予言を間違って解釈しているのか、それとも別の思惑があるのか。
一度アルフの都に帰って予言について徹底的に問い質す必要があるかもしれない。
それはそうとして、もう一つ確かめなければならないことがある。
「その予言では俺以外に今代の聖女についても同時に読まれている。その聖女については?」
『聖女は救世の存在。しかし此度の救世は見る者によっては滅びと同意義』
「分かるように言ってくれ」
『聖女は七神が使わしたのではない――――闇神が使わせた存在だ』
これは……思ったより厄介なことになりそうだ。
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