上 下
82 / 114
第四章 勇者戦争〈ブレイブ・ウォー〉

第80話 アサシン再び

しおりを挟む


 近くに迫ったゴーレムの首を掴み、ぶん回して別のゴーレムに投げ付ける。ぶつかったゴーレムは核ごと砕け散っていく。少し離れているゴーレムにはガントレットから光弾を放って砕き、蹴りでレギンスから光の斬撃を放って斬り裂く。

 エリシアは二振りのカタナを巧みに扱い、ゴーレムの四肢を斬り裂き、核を両断し貫いていく。雷撃がエリシアの攻撃に合わせて発生し、ゴーレムの身体を砕いていく。

 ユーリは両手のダガーで的確に核だけを貫き、風でゴーレムを吹き飛ばしていく。野良猫のようにしなやかに動き且つ強烈で力強い一撃をゴーレムに見舞っていく。

 たかがゴーレムに俺達は本気を出さない。出してしまえば街ごと吹き飛ばしてしまう。
 今も戦いに関係無い会話をしながらゴーレムを屠っていく。

「そう言えばユーリ、結婚したんでしょ?」
「ええ、まぁ。女王陛下の夫ってだけなので、王位はありませんけど」
「何で結婚式に呼んでくれなかったのよ?」
「呼んだところで来られなかったのでは?」
「弟の晴れ舞台よ? 仕事なんて放り投げて――は行けないけど、式ぐらい出たわよ」
「それは失礼。まぁ、形式だけでしたしパーティーとかはありませんでしたよ」
「どうして?」
「パーティーと称して三日三晩、私と狩りに出かけただけですから」
「何それ? ま、あの女王様らしいけど」
「あぁ、でも初夜は共にしましたよ」
「だ、誰も何も訊いてないわよ!」

 エリシアの雷が民家に直撃して一角を小さく削り取ってしまう。「やばっ」と声を漏らしてエリシアはゴーレムを削れた場所へと放り投げる。ゴーレムが直撃したことで更に削れてしまったが、エリシアの顔には「ゴーレムがやったのよ」と書かれていた。

 こいつ、ゴーレムの所為にしやがった……。

 ゴーレムの腕を引き千切り、核がある部分を手刀で貫く。
 エリシアとユーリは尚も屠りながら会話を続ける。

「私のことより姉さんです。そろそろ二十四でしたっけ? 早く射止めないと手遅れになりますよ?」
「手遅れって何よ!? 私だって一生懸命やってるわよ!」
「にい――ンンッ、彼のことです。素直に面と向かって言わなきゃ分かってもらえないですよ?」
「ウッサいわねぇ! 少しは進展あったもん!」
「グズグズしてられませんよ? 気付けばまた女性が増えますよ」
「おいお前ら、少しは緊張感を持ってだな……」

 モリモリと迫ってくる人型ゴーレムの波を蹴散らしながら、呆れて注意する。
 いくら雑魚のゴーレムと言っても、油断はできねぇんだぞ。

「うっさい! この朴念仁!」
「何で?」
「兄さん、この際はっきりしてください。結婚願望あるんですか?」
「無い――嘘あるから雷撃と風撃を俺に向けるな」

 何で俺に結婚願望が無いだけでお前らが怒るんだよ。
 あれか? 偉大なる兄君には早く家庭を築いて腰を落ち着かせてほしいってか?
 いやいや、そんな殊勝なことを考える弟妹じゃあるまい。

「正直なところどうなんです?」
「何が?」
「兄さんの周りには女性が沢山いるじゃないですか。思う所は無いので?」
「思うも何も……まぁ、美人揃いなのは確かだな」
「ほぅ? 兄さんにも隅に置けませんね。具体的に誰が好みなんですか?」
「あのなぁ……」
「失礼。質問を変えましょう。どのような女性が好みなんですか?」
「好みぃ?」

 ゴーレムの頭を潰し、核を殴り砕く。

 もう何十体目だ? 流石に多すぎるだろ。そろそろ此処を終わらせて城に向かいたいんだけど。
 それにしても女性の好みか……。あまり考えたこと無いな。

「好みねぇ……特別これと言ったもんはねぇよ」
「エリシア姉さんはどうなんです?」
「ちょっ!?」
「馬鹿なこと言ってないで、そろそろ城へ向かうぞ」

 ゴーレムを拳で砕き、俺は先にゴーレムの群れから飛び出す。

「……馬鹿なこと……馬鹿なことって……」
「あー……姉さん、お先です」

 後からユーリも飛び出し、俺の後を追い掛けてくる。
 残ったエリシアもブツブツと何かを言いながらゴーレムを薙ぎ払い、俺達の後を走る。

 離れた場所にある城に向かって走っていると、俺達の前に炎が降り注いで行く手を遮った。
 ライアが現れたかと一瞬だけ思ったが、アイツにしては炎がショボすぎる。

 立ち止まると、何処からともなく俺達の前に黒衣を纏った男が現れた。

「これはこれは……何時ぞやの男じゃないか」
「……ルドガー、知ってるの?」
「んん……?」

 何か向こうは俺を知ってるようだが、俺には覚えが無いぞ……。
 あーいや待て……薄らと何処か見覚えがあるようで無いような……。

 俺が思い出そうとしていると、黒衣の男は少し気に触ったのか苛立った表情を浮かべた。

「……ハーウィルの教会だ。忘れたとは言わさんぞ?」
「ハーウィル……? ああ! あの時のアサシンか!」

 そいつはハーウィルの教会でクレセントの黒魔道士を引っ捕らえた時に現れたアサシンだった。確か執行官と呼ばれていたな。色々あってすっかり忘れていた。

 黒衣の男は俺が覚えていたことが嬉しいのか、ニィッと笑って喜ぶ。両手にナイフを握り締め、沸々と魔力を高め始めた。

「あの時の借りを漸く返せる……アーサー様の御恩に報いるチャンスだ」
「ハッ、手も足も出せなかったくせによく言う」
「あの時とは違う! 俺は力を手にしたんだよ……!」

 黒衣の男の魔力が変わった。

 最初は火と雷の二属性しか感じなかった。
 だが今は七属性全ての魔力を感じられる。あの禁断の果実を口にしたのだろうか、しかしただ属性が増えただけじゃなく、全ての属性が研ぎ澄まされていっている。

 そして最後には七属性が一つの属性となり、その力が男から噴き出した。

 何処までも黒く、悍ましい気配を持ったそれは――闇属性だった。

 俺達は今までの余裕を一端捨て、目の前の男に意識を集中させた。
 男は闇を纏い、俺達を睨みながら高らかに吠える。

あるじよ! 今こそ我に力をお貸し下さい!」

 闇が吐き出され、俺達を取り囲んだ。
 まるで此処が闘技場だと言わんばかりの闇のサークルが形勢された。
 俺はナハトを背中から抜き放ち、黒衣の男を見据える。

「これが闇、ですか……。魔王とは別のベクトルで悍ましいですね」
「少しは楽しめそうじゃない」
「気を抜くなよ……久々に連携といこうじゃないか」
「ええ!」
「はい!」
「行くぞ!」

 俺達は一斉に男に向かって駆け出した。



    ★



 同時刻――地下組。

 センセと別れた後、このシオンって女に付いて道を進んでいる。道中にゴーレムがいれば身を隠し、立ち去っていくのを待つ。
 センセの陽動が効いているのか、ゴーレム達は一目散に走り去っていく。

「……今よ」

 シオンの合図で物陰から飛び出し、地下へと繋がる入り口へと急ぐ。
 私はシンクが遅れないようにシンクの手を引き、その後ろにリインとアイリーン先生が続く。

「地下への入り口は何処なんだ?」
「いくつかあるけれど、一番近いのは教会よ。隠し通路があるの」

 何で教会に隠し通路があるのか訊きたいが、それどころじゃないか。
 まぁ、教会と言えば物語でもよくそう言った扱いをされる。あれは作り話かと思っていたが、どうやらそうとは限らないらしい。

 暫く移動していると、教会らしき建物が見えてきた。移動を急ごうとしたが、シオンが急に立ち止まった為、停止を余儀なくされる。

「何だ?」
「……全員、少し下がりなさい」

 シオンがそう言い終わるや否や、私達と教会の間の地面が捲れ上がり、そこから巨人型のゴーレムが現れた。

 あのゴーレムには見覚えがある。あれは確かグリゼルが使役していたゴーレムだ。
 だが大きさはあの時よりも遙かに大きい。教会と同じぐらいの大きさに、少しだけ息を呑んだ。

「チッ、またグリゼルか……」

 私は杖を取り出した。以前の杖は魔王に折られたが、これはフレイ王子が新調してくれた杖だ。
 リインとアイリーン先生も剣と弓矢を構える。

「――邪魔」

 だが私達に出る幕は無かった。

 シオンが腕を振り払うと、一瞬でゴーレムが氷に呑み込まれた。そしてシオンが指を鳴らすと、氷は中のゴーレムごと砕け散っていった。

「さ、行くわよ」

 シオンは何事も無かったかのように足を進めだした。

 私は勇者というのを改めて認識したかもしれない。リインとアイリーン先生も今の一瞬の出来事に目を丸くして驚いていた。

「何してるの? 早く」
「あ、ああ……」

 これ……私達必要なのか……?

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

弟子に”賢者の石”発明の手柄を奪われ追放された錬金術師、田舎で工房を開きスローライフする~今更石の使い方が分からないと言われても知らない~

今川幸乃
ファンタジー
オルメイア魔法王国の宮廷錬金術師アルスは国内への魔物の侵入を阻む”賢者の石”という世紀の発明を完成させるが、弟子のクルトにその手柄を奪われてしまう。 さらにクルトは第一王女のエレナと結託し、アルスに濡れ衣を着せて国外へ追放する。 アルスは田舎の山中で工房を開きひっそりとスローライフを始めようとするが、攻めてきた魔物の軍勢を撃退したことで彼の噂を聞きつけた第三王女や魔王の娘などが次々とやってくるのだった。 一方、クルトは”賢者の石”を奪ったものの正しく扱うことが出来ず次第に石は暴走し、王国には次々と異変が起こる。エレナやクルトはアルスを追放したことを後悔するが、その時にはすでに事態は取り返しのつかないことになりつつあった。 ※他サイト転載

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

処理中です...