魔王を倒した半人半魔の男が、エルフ族の国で隠居生活を送っていたら、聖女に選ばれた魔王の娘を教え子に迎えて守り人になる。

八魔刀

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第三章 後継者

第67話 兄弟の決闘

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 階段を登り続ける。

 もう随分と歩いた気がする。実際にはそれほど長い階段じゃなかったかもしれない。
 なのにそんな風に感じてしまっているのは、単に足取りが重いからだろう。

 この先にアーサーがいる。間違いなくいる。魔力を滾らせ、明らかに俺を挑発してきている。
 辿り着けば、戦いになることは必然だろう。

 思えば、アーサーと勝負をするのはこれで何度目だっただろうか?
 アーサーが力を付け始めてから勝負が始まり、最初の内はまだ剣技だけで勝てていた。

 だがアーサーの光の力が強くなるにつれて勝ちづらくなり、最終的には勝ち越されてしまっている。勇者として覚醒してからはまるっきりだ。

 だが今回ばかりは負ける訳にはいかない。俺が負ければララとリインがどうなるか分からない。
 それにアーサーの目的がまだ分かっていない。俺に復讐したいってのは何となく分かる。だがそれだけじゃ無い気がする。

 階段を登り切り、屋上へと出た。
 屋上の隅で眼下の景色を眺めているアーサーがそこにいた。
 蒼い剣を床に突き刺し、ジッと待っていた。

「アーサー……」
「……やっと来たか、ルドガー」
「……もう『兄さん』って呼んではくれないんだな?」

 アーサーは剣を抜き取り、此方へと振り返る。

 何とも、澄ました顔をしている。これから兄弟が戦い合うってのに、弟からは全く迷いを感じない。

 それに悲しさを感じながら、俺も黙ってナハトを背中から抜き取る。

「何度目だろうな? こうやって戦うのは……」
「あの頃は兄弟としての戦いだ。これからするのはそうじゃない。殺し合いだ」
「俺にお前を殺すつもりはない」
「ではその気にさせてやろう――僕を殺さなければ、あの小娘を殺す」

 ナハトを握る手に力が籠もる。
 あの小娘とは、ララのことか。

「親父の娘を殺すのか?」
「お前が僕を殺さなければ、な――」

 俺達の間を、冷たい風が流れる。

 風が止んだ瞬間、俺達は同時に駆け出した。

 剣と剣が重なり合い火花を散らす。そのまま何度か打ち合い、激しく剣劇を演じる。
 最後に互いに強烈な一撃を放ち、力の限り張り合う。鍔迫り合いになりながら睨み合う。
 剣を当時に押し込み、俺達は一度距離を取る。

 沈黙が流れ、俺はアーサーの心を読もうと魔力を探る。

「……手に入れた力は馴染んでいるようだな?」
「お陰様でな。本気、出してもいいぞ?」
「――では、そうさせてもらおう」

 直後、アーサーは光となって俺の前に一瞬で現れた。
 エリシアと同じように、その身に宿す光そのものになり移動してきた。

 通常なら光の速さを捉えることは不可能。
 だが、今の俺にも同じ光の力がある。アーサーの動きを目で捉え、振るわれた剣をナハトで受け止める。

「光を捉えるか」
「もう昔の俺だと思うなよ?」
「警告、どうも」

 アーサーの蹴りが俺の脇腹を捉える。蹴りによって身体が折れ曲がり、横に薙ぎ跳ばされる。
 俺の体勢が崩れた所を狙ってアーサーが剣を振るう。俺は身体を捻って宙で回転して剣を避け、ナハトで反撃する。アーサーは何の苦も無くその剣を受け止めると、弾き返して反撃してくる。
 反撃をいなし、左のガントレットに魔力を込めて殴り掛かる。アーサーの右頬を掠めるが、アーサーは眉一つ動かさず冷静に反撃してくる。
 ナハトと格闘を交えた攻撃を繰り出し、アーサーは剣一つで対応し反撃してくる。
 刃と刃がぶつかりあう剣撃の音が何度も屋上に響き渡る。

 もう何百と刃を重ね合わせた。未だにどちらにも攻撃は当たらず、体力だけが消耗していく。

「どうしたアーサー? やっぱ盾が無けりゃキツいか?」
「っ……」
「出しても良いんだぞ、盾を」
「盾など……とうに捨てた!」

 此処で初めてアーサーが感情を露わにした。顔付きも変わり、澄ました顔から苛立ちの感情が浮かんだ。

 蒼い剣が白く光り輝き、上から振るわれる。
 俺はそれをナハトで受け止めず、身体を反らして避ける。
 するとアーサーの剣身から光の斬撃が放たれ、屋上を大きく斬りつける。

「盾が無くともお前に勝てる!」

 アーサーの魔力が身体から弾け、宙に四散する。
 すると四散した魔力が光の槍へと変わり、アーサーの周りに滞空する。
 何十という魔力の槍の矛先が此方を向く。

「フォトンランサー!」

 槍が射出される。
 左手を突き出し防御魔法を展開して槍を弾いていく。だが槍が魔力障壁にぶつかった瞬間、槍は小さな爆発を起こし、確実に障壁を削り取っていく。しかし魔力を注ぎ続ければ防げないことはない。

 アーサーが剣で正面に円を描いた。すると六芒星の魔法陣が展開され、光が集束していく。

「フォトンブレイザー!」
「くっ!?」

 六芒星から光の集束砲が放たれ、俺を障壁ごと呑み込む。障壁が壊れる前にナハトを振りかぶり、砲撃に向かってナハトを振り下ろす。

「ナハト、喰らえ!」

 障壁が壊れ、ナハトと砲撃がぶつかる。ナハトは砲撃の魔力を喰らい始め、俺に力を還元していく。その力はガントレットとレギンスに回り、白く光り輝く。
 砲撃を斬り裂き、光の速度でアーサーへと接近する。

「インパクトォ!」

 左拳をアーサーに叩き付けるも、六芒星の魔法陣がそれを防ぎ、衝撃を外へと弾いていく。

「フォトンエッジ!」

 アーサーの左手に白い光の剣が出現する。
 蒼い剣と白い剣の二つで俺に斬りかかってくる。
 俺はナハトとガントレットで双剣に対応し、火花を散らす。

「ディバインクウェイク!」

 アーサーは剣を床に突き立てる。すると光の波が床から発生し俺に押し寄せる。
 ナハトで光を斬り裂くと、アーサーは既に俺に接近していた。
 俺の首と胴を狙って蒼と白の剣を振り払う。
 ナハトを盾にして双剣を受け止め、押し込まれる身体を突っ張って耐える。

「このっ……!」
「ドライブ!」

 双剣の魔力が瞬間的に高まり、魔力が炸裂した。その衝撃でナハトを頭上に弾き飛ばされ、身体がガラ空きになってしまう。
 アーサーはそこを狙って剣を突き出してくる。
 俺は両手でアーサーの双剣を掴み取り、身体に刺さるのを防ぐ。

「ドライブ!」

 再び剣から魔力が炸裂する。身体の正面に激しい衝撃が襲い掛かり、肉が斬り裂かれるのを感じる。
 だが剣は決して離さず、しっかりと掴んだままだ。

「っ、分かってはいたが……!」

 アーサーの驚く声が聞こえる。

 そうだろうな。今の顔はたぶんさっきの衝撃で一部が吹き飛んだだろう。
 だがその傷は即座に再生して、もう治りかかっているのだから。

「悪いな……! お前の兄は化け物になっちまったかもな……!」
「ハハッ……望む所だ……! そうでなければ困る!」

 アーサーは俺を蹴り飛ばして後ろへと下がっていく。
 俺はナハトを手元に呼び戻し、アーサーを睨み付ける。

 そうでなければ困る……? いったいそれはどう言う意味だ?

 アーサーは白い剣を消し、蒼い剣を両手で握る。

「ルドガー……父の為にその身を捧げてくれ」

 蒼い剣に光が集束していき、ゴゴゴッと音を鳴らす。

 俺もナハトに光の力を集束させ、剣身に白い亀裂を走らせる。

 アーサーが剣を頭上に構え、俺も同じように構える。
 アーサーが言霊を唱え、俺もそれに続く。

「極光の前には――」
「影すらも生まれぬ――」

『ライト・オブ・カリバー!!』

 アーサーの剣と俺の剣から光の集束斬撃砲が放たれ、二つの光はぶつかり合った――。




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