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第三章 後継者

第59話 魔女

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 最初に仕掛けてきたのはグリゼルだ。グリゼルは再び魔法陣を展開すると魔力の砲撃を放ってくる。俺はその場から駆け出し、グリゼルに近付きながら砲撃を避けていく。
 単調な砲撃、避けるのに苦労はしない。
 グリゼルに近寄り剣を振り下ろす。しかしグリゼルは身体を霞に変えて消え去り、俺から離れた場所に移動していた。
 いったいどういう魔法なのか分からないが、グリゼルは相当な魔法の使い手だと言うことだ。

「さすが、この程度では意味がありませんか。では今度は此方で」

 グリゼルが右手を上げると、ホールに転がっていた瓦礫が組み上がっていき、三体の巨大なゴーレムが生み出された。

 甘く見られたものだ。ゴーレム程度で俺を止められるとでも思っているのだろうか。

「更にこれを追加です」

 ゴーレムの内側から魔力が爆ぜた。
 火、雷、氷の三属性がそれぞれゴーレムに纏わり付く。

「……なるほど?」

 火のゴーレムが口から炎を吐き出した。
 魔力を衝撃波に変えて炎を引き裂き、その場から動き出す。
 次は氷のゴーレムが床を氷漬けにして俺の足場を崩す。その崩れた一瞬を狙われ、雷のゴーレムに稲妻の速さで接近されて拳を叩き込まれてしまう。

「かはっ!?」

 壁まで吹き飛ばされ、背中を打ち付ける。衝撃と激痛が全身を襲い、骨が軋む。
 だが痛みに苦しんでいる暇は無い。雷のゴーレムが再び接近してくる。
 壁を蹴り、振り払われた拳をかわす。

 今の俺には雷神の力が使えない。雷のゴーレムを操り返すことはできない。なら今の俺にできることは、昔ながらの怪物退治の方法だけだ。
 ポーチから銀の杭を三本取り出し、それを雷のゴーレムの周りに目掛けて投げ付ける。

「我、その身を肥大させる者なり――ハイパトゥラフィ!」

 その銀の杭を肥大化させて巨大な杭へと変える。その杭が雷のゴーレムの周りに突き刺さり、雷のゴーレムを囲む。

「我、悪しき者を拘束する者なり――スィールド!」

 三本の杭に封印魔法を添付すると、雷のゴーレムの身体から三本の銀の杭へと雷が吸収されていき、その身を動けなくする。
 銀は伝導率が高く、避雷針代わりに丁度良い代物。それに封印魔法を加えることで即興だが檻を形成したのだ。

「お前は後! 先ずは――」

 雷は厄介だ。速い上に力も強い。だったらまだ動きが遅い火と氷のゴーレムを先に仕留めたほうが良い。

「火と氷なら対処はしやすい!」

 先ずは火からだ。水属性の魔力を練り上げ、魔法を発動する。

「濁流よ降り注げ――スプラッシュ!」

 魔族の魔法を使用し、火のゴーレムの上から濁流を落とす。火のゴーレムは濁流に呑み込まれるが、火が消えることはなく、寧ろ水が蒸発していく。

 ゴーレムの倒し方は動力源、核を破壊することだ。火や氷を何とかしたところでは倒すまでには至らない。水は蒸発しているが、全く効果が無い訳ではない。火のゴーレムが帯びる火は小さくなっている。これならば近付くことも可能だ。

「火よ巻き起これ――レイジングストーム」

 続いて火属性の魔法を発動し、氷のゴーレムを火の竜巻で囲む。氷のゴーレムが纏う氷は少しだけ溶け、冷気が弱まる。

 よし、弱点である属性をぶつけることで力の軽減ができることは確認できた。後は核の場所を見付けてそれを破壊すれば良い。

 その核を見付ける方法は、これから起きる。
 水と火の魔法を解除すれば、火と氷のゴーレムは失われた力を取り戻す為に魔力を練り上げる。その瞬間を注視し、魔力が一番集まっている場所を見定める。

 ――見付けた。右胸部分!

 勝利条件は揃った。この剣で完全に破壊できるか分からないが、全力で核に叩き込んでやる。

 火のゴーレムが再び炎を吐き出す。同時に氷のゴーレムも宙に氷柱を展開して射出してくる。
 下位の防御障壁を左手に展開し、盾のように扱って直撃する氷柱だけを弾いていく。火は先程と同じように斬り裂き、二体のゴーレムに向かって突撃していく。

 先に狙ったのは火のゴーレムだ。

「水牢に呑み込まれろ――ウォーターロック!」

 火のゴーレムを水の球体に閉じ込める。内部で水を蒸発させようと火を強めていくが、そのお陰で核が浮き彫りになる。その核を狙い、剣を突き立てる。

「でぇりゃああ!」

 水牢を貫き、火のゴーレムの核に辿り着く。剣は核を貫き、だが剣も折れてしまう。
 火のゴーレムが撃沈し、ただの瓦礫へと戻る。

 氷のゴーレムが地面から氷柱を突き出して攻撃してくる。その氷柱をギリギリでかわし、左手を氷のゴーレムに向ける。

「炎に掻き消されろ――フレイムキャノン」

 左手から炎の砲弾を放ち、氷のゴーレムに喰らわせる。氷が炎によって溶け、氷で守られていた核が露出する。

 今手元に剣は無い。もう一本予備はあるが取り出している暇が無い。
 仕方ない、滅茶苦茶痛いだろうけどやるしかない。

「この手に宿れ、炎獄の覇者――ベリアル・クロウ!」

 右腕が炎に包まれ、灼熱の腕と化す。その腕を氷のゴーレムの核に向けて伸ばし、灼熱の爪で核を貫き壊す。

「爆ァぜろォ!」

 トドメに爆発を加え、氷のゴーレムは土塊へと還った。

 右腕は焼き爛れ炭と化してしまうが、すぐに傷の再生が始まり元通りになる。袖は無くなったが、半袖のコートってのもそれはそれで良いだろう。

「なんと……!? 容易くハイゴーレムを倒しますか……! ですが雷のゴーレムがまだ!」
「あ? もう終わりだよ」

 核の場所は分かった。態々近付かなくても、場所さえ分かっていれば攻撃手段なんていくらでもある。

「大地よ貫け――グレイブ」

 雷のゴーレムを拘束している床から鋭い石柱が隆起し、雷のゴーレムの核を貫く。

 正直、雷のゴーレムは動きを封じた時点で勝利は確定していた。厄介なのは雷の放出と雷速での動きだけだった。

 魔族の魔法を連発して少しだけ疲れたが、まだまだ戦える。
 最後の予備の剣をポーチから取りだし、グリゼルへと向ける。

「さぁ、次はお前だ」
「……ウフフッ! 流石は我が君がお認めしているだけのことはありますね。ですが、ゴーレムを倒しただけで調子に乗らないことですね!」

 グリゼルの魔力が高まった。ローブが翼のように広がり、宙を舞い始める。
 剣を構えて、俺はグリゼルと対峙した。

 グリゼルは魔力の砲撃を雨のように降らし、俺を攻撃する。
 俺は左手に障壁を張り、頭上に盾を構えるようにして走り回り、砲撃の雨を防いでいく。

 グリゼルの攻撃手段を見る限り、完全に後衛タイプなのだろう。砲撃にゴーレム、ゴーレムから属性の添付もできるようだ。
 しかも三属性……火と氷と雷の魔法を使えると見て良いだろう。

「雷よ、降り注げ――ライトニング!」

 言った側から雷の魔法を使用してきた。頭上から降り注ぐ雷をかわし、剣で捌き、盾で防ぐ。
 威力はそこまで高くはない。

「氷塊よ、落ちよ――ブリーズ!」

 巨大な氷塊が出現し、俺を押し潰さんとして迫る。
 氷塊を避けようとしたが、足が動かない。見ると、床が氷付けになっており足が氷に呑み込まれていた。

 ――いつの間に!?

 これでは避けられない。剣に魔力を込め、上段に構える。

「おおおおおおっ!」

 魔力を込めた剣を氷塊に叩き付ける。力が拮抗し、やがて剣が勝って氷塊を両断する。
 足下の氷を剣で叩き壊し、その場から即離脱する。

 魔法の練度かかなり高いな。呪文を唱えながら別の魔法も発動していやがった。
 これ程魔法力が高いなんて……人族ではないのか?

「グリゼル……貴様、魔族か?」
「いいえ、厳密には違います。私は人族ですよ。ですが……肉体を改造して魔族へと近付けました。禁断の果実は、その副産物に過ぎません」

 グリゼルは薄気味悪い笑みを浮かべ、とんでもないことを口走った。

 肉体を改造して魔族へと近付いた? そんなことが可能なのか? その改造を成功させるまで、いったいどれだけの犠牲を払った?
 それに、思わぬ所で禁断の果実についての情報が出てきた。あれはグリゼルが作ったのか。
 なら、クレセントの主犯は、その我が君なのか……?

「さぁ! ルドガー・ライオット! もっとその力を示して下さい!」
「チッ、お前からはもっと話を聞いたほうがいいみたいだな!」


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