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第三章 後継者
第50話 ハーウィル
しおりを挟む翌日、野宿を終えた俺達は先を急いだ。いくつかの街を越え、山を越え、森を越えた。
ゲルディアス王国は魔導技術が進んでいるだけあり、どこの街も魔導技術で栄えていた。リィンウェル程とは言えないが、それでも充分進んでいる。
これから入るゲルディアス王国の第一首都、つまりは王都だが、魔導技術はリィンウェル以上だろう。アスガル王国へ向かうには王都を回り込むより抜けるほうが早い。王都の周りは山で囲まれており、一日で山を越えるには無理がある。身分証明はエリシアが用意してくれているし、いくらお上が俺を嫌っていようとも、自国に属す勇者の後ろ盾がある以上酷い扱いはしないだろう。
だが一つだけ問題がある。それはララの存在だ。
ララは魔王の娘であり聖女だ。魔王の娘というだけで人族にとっては敵になる。それが聖女であれば、魔族の存在を認められない奴らはララの命を狙うだろう。
――やはりここは王都を回り込もう。余計な危険を背負う必要は無い。時間が掛かると言っても数日遅れるだけだ。その数日でララを守れるのなら何てことない。
「やっぱり王都は避けよう」
「え? でも急いでるんじゃなかったの?」
「ララの存在を知られたくない」
「どうして……って、ああ、そうね」
リインも察してくれた。
だがララは不服そうな顔をしている。
「センセ、私の所為で手間を掛けるのなら、気にしなくて良い」
「な……何言ってんだ? 人族はエルフ族と違う。お前が魔王の娘と知られたら、必ず命を奪いに来る」
「魔王の娘と知られたら、だろ? バレるとしても魔族ってだけだ。センセと牛女が口を滑らさなければ問題無い」
「だけどなぁ……」
「センセ」
ララは俺を見上げ、真剣な眼差しで見つめてくる。
「私なら大丈夫だ。センセが私を守ろうとしてくれているのは分かっている。そういう契約だからな。でもそれでセンセの重荷になりたくない」
「……我が儘なお姫様だ。分かった。王都を突っ切るぞ」
「ご安心下さい聖女様! 何があっても私が御守りします!」
「あ、うん……だから聖女止めて」
俺達は馬を進め、王都へと近付く。
王都はリィンウェルと同じく城郭都市だ。正確には何処の国も城郭都市だが。
円形に城壁が組まれ、都市の中央に巨大な城がある。流石にリィンウェルみたいな城ではなく、昔と同じこれぞ城って形をしている。
大戦時代にはよくこの王都へと足を運んでいた。何故ならゲルディアス王国が魔族との戦争の最前線だったからだ。
北の国にファルナディア帝国があるが、大戦時代は魔族に支配されていた。その隣国であるイルマキア共和国も半分以上が支配されており、アスガル王国も激戦区となっていた。
ゲルディアス王国は魔導技術による兵器で何とか前線を維持していて、魔族との戦いでは人族の本拠地となっていた。
そんなゲルディアス王国の王都を『ハーウィル』と呼ぶ。ハーウィルは戦後に魔導技術を更に発展させ、それを取り入れた鋼鉄の建物が並んでいる。
やはり此処も馬に乗っている者は殆どおらず、俺達は周りから浮いて見られていた。
背中に背負っているナハトをポーチの中に入れ、これ以上怪しき見られないように気を付ける。
さっさと王都を抜けよう。面倒事に巻き込まれない内が吉だ。
そう思い、ルートの足を速める。
その時、前方から何やら騒ぎが聞こえてきた。
「何だ?」
「……っ、ルドガー! 聖女様を守って!」
リインがフィンから降りて俺とララの前に出て腰の剣に手を添える。
何事かと思い、前方の騒ぎを見つめる。
此処から見えるのは数人の男が建物から出てきた場面だ。どうやらそれなりの魔法を使える者達のようで、既に駆け付けていた兵士達に向かって魔法を放って威嚇している。
強盗か、それに近いモノだろうと思い、厄介事に近付かないほうが良いと思い迂回しようとした。
しかしその時、男が放った火の魔法の一つが通行人の女性に流れていくのを、俺とリインは見てしまう。
リインはその場から駆け、俺は流れていく魔法に手を翳す。
「我、大火を消し去る者なり――ラージド・アン・フェルド」
火を消す魔法で火の魔法を掻き消し、リインは女性を抱えて安全な場所まで運び出す。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……ありがとうございます」
「良かった。――ルドガー!」
女性を降ろしたリインは剣を抜いた。
こうなってはもう仕方が無い。後々どうなるか分からないが、一般人に被害を出すような奴らを見逃しては勇者の兄として沽券に関わる。
「殺すなよ!」
「ええ!」
リインは男達に斬りかかる。
「な、何だこいつ!? ぎゃっ!?」
「は、はや――ぐへぇ!?」
「わ、我、敵をもや――ぎゃああっ!?」
リインの手に掛かれば複数人の魔法使い相手でも敵ではなかった。剣の腹で殴打し、格闘を混ぜた攻撃で一気に男達を無力化していく。
その際、被っていたフードが捲れ上がり、エルフ耳が露見してしまう。それを見ていた周りの者達はエルフだと口々にして騒ぎ立てる。
最後の男を無力化させたリインは剣を鞘に収め、今更遅いがフードを被り直す。無力化した男達を唖然としている兵士達に任せ、リインはせっせと此方に戻ってくる。フィンに乗り込み、俺達はすぐさまこの場から離れる。
ルートとフィンを走らせて王都の外に出る門へと向かったが、どうやら面倒事は俺達を見逃してはくれなかったようだ。
門の前には剣と盾を構えて隊列を組んだ兵士達が陣取っており、明らかに俺達を外に出さないようにしていた。
偉そうな態度と格好をしている一人の兵士が前に出て声を張り上げた。
「ルドガー・ライオットだな!? 貴様には国王陛下より召喚状が出ている! 大人しく登城せよ!」
「はぁ!? 何であのおっさんが俺を呼んでるんだよ!?」
「貴様! 陛下に向かって無礼であろう!」
「それはとんだ失礼を! で、返答だが、断る!」
この国のお偉いさんと絡んだら碌なことが無いのは間違いない。態々俺を厄介払いしたような奴に会いたくもないしな。それにこっちは色々と立て込んでて忙しい。よって会うつもりは毛頭無い。
その意を伝えたが、偉そうな兵士はニヤリと笑う。
「貴様の目的は分かっている! 黒き魔法について調べているのだろう!?」
「っ、どうしてそれを……!?」
何でこいつらがそれを知っている? それを知っているのは人族にはいないはずだ。どこからか情報が漏れた? どうやって? 分からない。それにそれを知った上で何を言い出すつもりだ?
「陛下のご用件はその黒き魔法についてだ! 喜べ半魔! 陛下自らお前をご指名だ!」
チッ、癪に障る野郎だ。これだから此処は嫌いなんだ。
しかしだ、あのおっさんが黒き魔法について俺達に用があるというのも気にはなる。俺達がそれについて調べているのを知った手段も気になる。
もしかしたらアーサーについて何か手掛かりが掴めるかもしれない。
俺達を誘き寄せる嘘という可能性も捨てきれない。その時はララとリインに危害が加えられるのなら、王の首を取ってでも脱出しよう。
「ララ……」
「分かってる。気に食わないが、奴らの話、聞いてみよう」
「……お前達は絶対に俺が守る」
「ああ……」
リインにも頷いて奴らの話を飲むことを伝え、俺達は兵士達に囲まれた状態で城へと向かった。
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