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第二章 魔獣戦争
第31話 激闘! 巨人兵!
しおりを挟む『潰れろ!』
巨人が拳を振り上げる。振り下ろされれば衝撃波だけで致命的だ。
なら攻撃を全て未然に防ぐしかない。
「ユーリ!」
「風よ――巻き起これ!」
ユーリが特大の風を集めて振り下ろされる巨人の拳にぶつける。風とぶつかった拳はそのまま押し止められる。その間に俺とグンフィルドは巨人へと近付き、俺は右脚、グンフィルドは左脚へと分かれる。
「ナハト!」
「我が槍よ!」
『斬り裂け!/焼き貫け!』
雷神の力を発動し、ナハトから稲妻を発生させる。雷の刃となったナハトは巨人の右脚を斬り付け、黒い雷を巨人の右脚全体に走らせる。グンフィルドの槍は紅い炎を纏い、巨人の左脚に突き刺さって内部へと炎を送り込む。
頭を吹き飛ばしても倒れない以上、この巨人の動きを止めるには足下を崩す他無い。巨大な岩のような脚を雷と炎で破壊する。
脚を無くした巨人はそのまま身体が崩れ落ち、両手で身体を支えようとする。
『何とぉ!?』
「次はその腕を貰います! ストームランス!」
ユーリは上空で緑色の魔法陣を二つ展開し、それらの中心から激しく風が渦巻く緑の魔力の槍を巨人の腕目掛けて放つ。槍は巨人の両腕を貫いて砕き、巨人の身体を地面に転がす。
激しい地鳴りを起こしながら倒れた巨人の中から、ルキアーノの楽しそうな声が聞こえる。
『ヒィヤーハー! やりますねぇ! 今度は此方の番ですよぉ!』
崩れ落ちた巨人の手足が瞬く間に修復されていく。最初に破壊した頭部も時間が巻戻るようにして修復され、巨人は再び立ち上がる。
成る程、あれはゴーレムの類いか。ならコアとなる部分が何処かにあるはずだ。ルキアーノ自身がそうだという可能性もあるが、魔族の将軍がコアになるとは思えない。あくまでもルキアーノはゴーレムの操縦士ってところだろう。
完全に修復された巨人は再び両腕を大きく振り上げる。
「そう何度も何度も同じ攻撃が通用するか! 芸がねぇぞ!」
もう他の戦士達の撤退は済んでいる。今この戦場にいるのは俺達だけだ。
巨人の拳が振り下ろされる瞬間、俺とグンフィルドは上に大きく跳躍する。拳が地面に叩き付けられた時には巨人の腕に乗っており、そのまま上に駆け上る。
「駆け抜けろ――迅雷!」
全身に黒い稲妻を纏わせ、雷の速度で巨人の頭部に接近する。ナハトを額に突き刺し、雷を流し込む。大量の黒い雷が激しく迸り、巨人の身体を駆け抜ける。
「我、猛炎を以て焼却せし破壊者なり――スカーレットレーザー!」
人で言うところの心臓部分にグンフィルドが炎の集束砲を槍から放つ。それは巨人の胸を焼き穿ち、巨人の胸に大きな穴を開けた。だが穴はすぐに塞がり始める。
「それは許しませんよ!」
ユーリが風を巨人の穴に集め、風の結界を作り出して修復を阻害していく。
風を彼処まで高密度に、それも瞬時に集められるユーリの力は相変わらずデタラメだ。普通の魔法ならもっと時間が掛かると言うのに。
「ユーリ! そのまま風を維持するのじゃ!」
グンフィルドが地上で槍に炎を込め、投擲の構えに入る。そのグンフィルドに向かって巨人が踏み付けようと脚を上げる。ゴゴゴッと、大気を振動させながら脚が降ろされる。
「やらせるかよ!」
上位の防御魔法を発動する魔力はもう残っていない。だったら俺にできることはただ一つ。
「おおおおおおっ!」
稲妻を纏ったまま巨人の脚へと突進し、横から渾身の力で脚をナハトで打ち付ける。脚をグンフィルドから大きくずらし、そのままナハトで巨人の巨大な脚を両断する。
「天を焦がせ――鳳凰天照破!」
グンフィルドの槍が炎の鳥となって放たれる。鳳凰は巨人の胸に展開されている風の結界に飛び込み、そのまま風で炎が増長される。巨人の胸で炎が溢れ、巨人を内側から劫火で焼き尽くしていく。
「これで――終わりです!」
ユーリが炎の風を操り、巨人を内側から大爆発させた。巨人の上半身は吹き飛び、身体を構成していた瓦礫が四散する。
俺はその瓦礫を一欠片も逃さず注視する。
――あった!
瓦礫に埋もれている巨大な水晶を見付け、稲妻を纏わせたナハトで両断する。
水晶は雷によって砕かれ、込められていた魔力が弾ける。
巨人の身体は修復されず、残っていた下半身も崩壊していった。
やはりあの水晶が巨人のコアだったようだ。
俺はグンフィルドとユーリの近くに着地した。
「奴は!?」
俺達はルキアーノを探した。コアは破壊したが、完全のルキアーノの姿を確認していない。
巨人の瓦礫を見渡すが、ルキアーノの姿も無ければ魔力も気配も感じられない。
逃がしたか……くそっ、巨人に集中しすぎていつの間にかルキアーノの離脱を許してしまっていた。
だが、逃げてくれて正直ホッとしている部分もある。予想以上に魔力を消費し過ぎた。このまま魔族の将軍と戦闘になれば消耗している俺達が不利になる。怪物もこれ以上現れず、一先ずは俺達の勝利ってところで良いだろう。
「グンフィルド、すぐに軍を立ち直らせろ。将軍が出て来たからには、この先も油断ならないぞ」
「言われずとも分かっておる」
「ユーリ、俺とお前は魔力の回復に専念するぞ。魔獣だけじゃなく将軍も相手にすることになる。いくらお前でもだいぶ消耗しただろ」
「これぐらい何とも……って言いたいところですけど、ええ、そうしましょう」
ユーリも額から汗を流している。いくら勇者と言えども上位魔法を連発すれば疲れはする。
しかし、どうして俺は上位魔法をユーリのように使えない?
もしかして、俺が手に入れたこの力は勇者とは別のモノなのだろうか?
属性自体は操ることができる。威力も上がっている。
そもそも、二つの試練を受けていること自体がおかしい。今までの歴史でも勇者の登場は何度かあった。だが彼らでさえ力は一つだけだ。
俺に全属性の適正があるからか? 分からない……もっと調べる必要がありそうだ。
新たな謎を残して、俺達は城壁の内側へと戻った。
★
撤退した戦士達は負傷した戦士達の治療と武器の補充に勤しんでいた。
兵器の補充はもう間もなく完了する。
しかし、負傷者が多すぎる。城壁内の部屋に負傷者がぎゅうぎゅう詰めに集められ治療を受けているが、治癒魔法が追い付いていない。治癒士の数もそうだが、全員を治すには魔力が足りないだろう。
魔法を施せない者には医療品で手当をするが、それでは次の戦いに満足に挑めない。
次の攻撃がまた怪物の総攻撃なのか、それとも将軍自らやってくるのか、はたまた魔獣が来るのか分からない。可能な限り完璧な状態まで戦力を戻しておきたいところだ。
「次! 三番から六番までの霊薬を負傷者に使え!」
「……ララ?」
ララが髪をアップに結んで戦士達の治療を行っていた。動ける戦士達に霊薬の精製方法と使い方の指示を出して統率している。
「裂傷には二番のを! 骨折には四番! 一番の霊薬は!?」
「もう間もなく完成します!」
「材料が足りない! もっと集めて班ごとに作って!」
ララは負傷者の血で白いローブを汚しながらも、テキパキと鬼気迫った様子で霊薬を使って治療していく。
ララの霊薬を施された戦士達の傷は見る見る内に再生していく。霊薬は確かに強力な薬だが、治癒魔法と比べたら遅効性なものが基本だ。
だがララの霊薬は治癒魔法と同等の即効性を持っていた。
これなら治癒士が足りなくても何とかなりそうだ。
治療しているララを見つめていると、ララが俺に気が付いた。
「センセ!? 血が!?」
「あ、ああ……大丈夫だ。傷はもう塞がってる。それより、戦士達を治療してくれてるんだな」
「……守られてるだけじゃ、嫌だったからな。今の私にできることはこれぐらいだ」
「充分凄いことだ。ありがとう。シンクは?」
「向こうの部屋で待ってもらってる……。センセ、何か霊薬要るか?」
「……大丈夫だ。お前から貰った霊薬がある。ただ少し疲れた。シンクのところで休んでるよ」
ララに無理はするなとだけ伝え、奥の部屋へと向かう。扉を開けると、小さな鉄格子から外を眺めているシンクがいた。
シンクは俺に気が付くとトコトコと寄って来て、脚に抱き着いてきた。
シンクを持ち上げ、俺は床に腰を下ろした。
「とと、おかえり」
「ああ……ただいま」
霊薬のアンプルを取り出し、蓋を開けて中の液体を飲み干す。これで少しは魔力の回復を早められるだろう。
シンクを腕に抱き、シンクの温もりを感じる。
嗚呼……何とかこの子達を守れたんだな……。次もまた、シンクとララを置いて戦いに出るのか……。
「……なぁ、シンク。次も良い子で待ってられるか?」
「……? うん、シンク、まつ」
「……そうか。待っててくれるか……」
瞼が重い。このまま少し眠りに入ろう。次もまた激しい戦いになるだろう。
その時にしっかりと暴れられるように疲れを取っておかなきゃ……。
「……」
「……」
俺はシンクを抱いたまま眠りに着いた。
その時、シンクが何を考えていたのか知らないまま。
――目覚めた時、シンクは俺達の前から姿を消していた。
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