三日月の竜騎士

八魔刀

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第2章 竜剣編

第1話

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 故郷を出てから一年半。この一年は色々な事が起きすぎて何から話せば良いのか分からない。とは言っても、手紙に書ける事には限りがあるから全部を教える事は出来ないけど。だけどこれは絶対に伝えなければならないと思う事がある。ベールと再会出来たんだ。泥だらけで俺達と遊び回ってたお転婆娘から一転、本当のお姫様みたいに美人になってた。いや、本物のお姫様なんだけどな。俺の事もちゃんと覚えといてくれた。ベールは騎士学校の生徒会長で俺も生徒会に入って副会長をしてる。生徒会の仕事は忙しいがベールも一緒だし、新しい友達も出来て楽しく過ごせてるよ。

 王都に来てから初めての経験ばかりだ。ワグナ町に居続けたら絶対に経験できなかった事や出会えなかった人達が沢山いた。理由が何であれ、王都に来て良かったと思う。俺の背中を押してくれたお前達には感謝してる。
 安心しろ。ベールはお前達の事も覚えて気に掛けてくれたぞ。

 そうそう、新しい友達と言えば、ベールの妹とも友達になれた。ベールと顔立ちは似てるが、性格は全然似てない。まぁ優しい所はそっくりだが、素直じゃないな。ベールと同じで綺麗な顔してるが、中々物騒な性格でな。事あることに殴って来やがる。でも良い奴なのは確かだ。お前達とも気が合うかもな。
 野郎の事をお前達は知りたくもないだろうから割愛するけど、そいつも良い奴だ。

 俺が居ないことでお前達には面倒を掛けさせる事になってるだろうが、くれぐれも無茶な事はするなよ。こっちでも気に掛けて何とか人手を派遣しようとしてるが、やっぱそう上手くはいかない。俺が何かしらの手柄を立てて褒美か何か貰えるようになったら真っ先に町に人手を向かわせる。女が良いって言うだろうが、そこは我慢しろ。欲しけりゃお前達で何とかしな。

 故郷が恋しくないって言ったら嘘になる。こっちの快適な暮らしはそれで便利なもんだが、町での生活が性に合っているのか落ち着かない。お前達と狩りをしたり畑を耕したり馬鹿をやったりする日々が偶に恋しくなる。いつかこっちで出来た友達とお前達で馬鹿騒ぎしたいもんだ。

 それじゃ、また気が向いたら手紙を出す。そっちじゃスマホなんて無いからな。

 ――お前達の長兄、レギアスより。






 レギアス達は二年生となり、去年よりも更に難しい課題を熟していた。
 魔法学は勿論のこと、デーマンの生態や騎士としての鍛錬、戦いの中で生きる術を学び続けている。レギアスにとって毎日が充実しており、忙しくも楽しい学校生活を送っている。
 去年、レギアスはドラゴンの魔力を操れるようになった。それはレギアスの内側に封印されているドラゴンのレギアス、通称・裏レギアスとの契約で得たモノであり、自由に使える代償としてドラゴンとしての力が高まっていき、いずれ封印を食い破ってしまう諸刃の剣でもある。
 しかし仲間を守れる力を得た事で、レギアスはミハイル島での戦いを制することが出来た。このドラゴンの力は確かに危険ではあるが、使い方次第によっては大きな助けになる事は間違いないのだ。
 力を得たことで一時期は竜騎士達の動きに警戒をしたが、結局何事も無く今を迎えている。

 竜騎士と言えば、どうやらミハイル島での一件は竜騎士が関わっているらしいのだが、詳しい事は当事者であるレギアス達に知らされてはいない。余計な情報を与えて、変に目を付けられるのを避ける為との事だが、そもそも命を狙われている時点で目を付けられるも何も無いと思うのだが、無関係の生徒達を巻き込んだことに怒り心頭だった国王を見ては、それ以上何も言えなかった。
 竜騎士は国王に仕えてはいるが、その心情は人類を脅かすドラゴンを殺す事にあり、真に国王に忠義を示しているのは数少ない。それでも十二人の竜騎士を懐に抑えていられるのは、国王の実力が彼らよりも数段上だからだ。さもなければ、今頃レギアスは竜騎士に首を討ち取られているだろう。
 そんな裏事情を抱えてはいるが、今のレギアスはそこまで悲観視はしていない。

 ――していられない、と言うのが正しいだろう。何せ、力を得たことで更に気を引き締めなければならなくなった事は勿論だが、それ以上に毎日が楽しいのだ。今年で19歳になるが、新たな友人達と青春を謳歌している事実が堪らなく楽しい。

 それにベールがいつも隣に居てくれる事実が、レギアスの心を不安にさせないでくれている。彼女が側に居てくれるだけで不思議と心が軽くなり、どんな事にでも立ち向かえる勇気を貰っている気がするのだ。

 だがそんなレギアスも、大きな悩みを抱えていた。
 力を得たのは良かったのだが、その力が新たな問題を生み出している。
 それはレギアスの魔力に耐えられる装備が無い事だ。
 普段、レギアスは騎士学校から貸し出されている剣を使っている。だがその剣は良くも悪くも万人向けに鍛えられたものであり、特別優れている訳ではない。そんな代物にドラゴンの力を込めれば、当然の如く剣は耐えきれずに砕け散ってしまう。
 ならばレギアスの魔力に耐えられる武器を用意すれば良いのだが、そんな物があれば人類はとっくの昔にドラゴンと戦いで勝利しているだろう。つまり、ドラゴンの力で振るっても耐えられる武器がそう易々と手に入る訳がないのだ。

 そこでレギアスはベール達に相談してみた。彼女達は貸し出し用の武器ではなく、自分専用の武器を用いている。二人はマスティア家という王族であり、特別な魔力を有している。そんな魔力を用いても力を発揮できる武器ならば、何かあるのではないかと一抹の希望を抱いて訊いてみた。

「ん~……ドラゴンの力に耐えられる武器ねー……」
「そこら辺の石でも削って使えば良いだろう」
「辛辣だな、おい」

 贔屓にしているカフェでココアを飲みながら、アナトは興味無さげにそう言った。
 アナトの冗談はさておき、ベールはレギアスの悩みを何とかしてやれないかと頭を悩ませる。
 だがいくら秀才のベールでも、武器に詳しい訳ではない。

「素手じゃ駄目なのか?」

 ステーキを食べながらオルガはそう言うが、レギアスは首を横に振る。

「素手じゃ限界がある。魔力を纏わせるにしても、あくまで打撃にしかならない。お前だってガントレット着けてるじゃねぇか」
「まぁな。俺は魔法を使えるからそこまで困らねぇが、オメェはそうもいかねぇもんな」
「そうなんだよなぁ」

 レギアスは未だに魔法が使えない。魔力を自由に操作出来るようにはなったが、それでもレギアスは魔法と致命的に相性が悪かった。と言うのも、ベール達が使用している魔法は言ってみれば人類が扱うものであり、当然その魔法には人類の魔力を使用する。
 そう、レギアスが持っているのはドラゴンの魔力なのだ。人類が魔法に用いる術式、所謂魔法を発動する為のシステムに適合しないのだ。いくら魔力が優れていても、適合しない術式では魔法を使用できる訳がない。
 レギアスが魔法を使えるようになるとすれば、人類の魔力を会得するかドラゴンの魔法術式を解明して使うかの二択になってしまう。故に、オルガのように魔法を用いて攻撃力を上げる事が出来ず、魔力でのゴリ押しで戦わざるを得なくなってしまっているのだ。
 だからこそ、武器が必要なのだ。

「竜騎士達が使ってる武器は駄目なのか?」

 レギアスは彼らが使用している武器ならいけるのではと考えたが、ベールは残念そうに首を横に振る。

「駄目よ。彼らの武器だって人類の魔法を極めて作り上げてる物よ。確かにドラゴンの魔力にだって耐えられるように鍛え上げられてるけれど、それはあくまで倒す為であってドラゴンが使う為じゃないわ。そんな物を武器として使ったら、何が起こるか分からないわよ」
「でも現状じゃ、それが唯一の可能性だしなぁ……」
「なら、家にある歴代竜騎士の遺物でも試してみる? 初代のは無いけれど、それ以降の物なら保管してあるわよ」

 レギアスは想像した。もし失敗してそれらの遺物を破壊してしまった場合、どれ程の損害を出してしまうのか。そしてその損害の責任を取らされてしまうのではないだろうかと。
 レギアスは顔を真っ青にしてブンブンと首を振る。流石にそれは呑めなかった。

「はぁ……だが流石にこのまま放置はしてられないだろう。お前が壊した武具の数は明らかに異常だ。学校にだって無尽蔵に資金がある訳ではない。頭を抱えたエルドが支払い報告書を持って来た時は流石の私も言葉を失ったぞ」

 アナトの言う通り、レギアスは学校の備品である武具を壊しまくっていた。故意ではないが、それでも壊しすぎた。備品も資金にも限りはあり、レギアスが壊す度にエルドの葉巻を吸う本数が増えていった。流石にレギアスも罪悪感を感じて弁償すると申し出たが、エルドは生徒の尻拭いをするのが教師の役目だと言ってそれを断った。

「うがぁぁあ! どうすれば良いんだよ! もうお前らの前で服が弾け飛ぶのだけは嫌だぞ!?」

 ベールとアナトは、特にベールは頬を紅く染めた。
 以前、レギアスは皆との鍛錬中に魔力を練り上げ、その結果、服がその魔力に耐えきれず全て弾け飛んでしまったのだ。下着も全て弾け飛び、ベールとアナトに全てを曝け出してしまったのだ。流石にレギアスもその場は羞恥心で顔を真っ赤にしたのだった。

「は、初めて男の裸を見たけど……す、凄いのね……!」
「う、うむ……確かにアレは人類の理想なのかもしれん」
「止めろよ!? 何か恥ずかしいだろうが!?」
「いやレギアス、オメェの身体は自信を持って良い。どうだ? 今度俺と一緒に山籠もりしねぇか?」
「気持ち悪いわッ!?」

 ガタンッ、と席を立ち上がったレギアスは店員に騒がないように注意されてしまう。
 すみませんと謝り席に座り直し、残っているコーヒーを飲んで落ち着きを取り戻す。
 ベールも顔をパタパタと手で扇ぎ、熱を冷まそうとする。

「と、兎も角、俺には魔力に耐えきれる武器が必要だ……後防具も。何か心当たりがあったら教えてくれねぇか?」
「ええ、勿論よ」
「……ん? レギアス、そろそろバイトの時間じゃねぇのか?」

 オルガの言葉にレギアスは慌ててスマホを取り出して時間を確認する。げっ、と声を漏らして荷物を纏め始めた。

「悪い! 俺もう行かねぇと! オルガ、これ此処の代金!」
「おう」
「あ、レギアス!」
「っと、何だ?」

 バイト先に向かおうとしていたレギアスをベールが呼び止めた。

「――あっ、えっと……いってらっしゃい」
「おう、行ってくる。それじゃ、明日な!」

 レギアスは颯爽と店から出て行った。
 レギアスを見送ったベールは少し寂しそうな顔をしてアイスコーヒーのストローを咥えた。
 その様子を見ていたアナトとオルガは、顔を見合わせて首を傾げるのだった。


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