三日月の竜騎士

八魔刀

文字の大きさ
上 下
20 / 45
第2章 竜剣編

プロローグ

しおりを挟む


 黙示の塔より出でし禍、世界を混沌へと陥れる。
 竜剣の担い手は現れず、悪しき魔女の子の手に落ちる。
 彼の者は愛しき者を失い、邪竜となりて全てを滅ぼすだろう。
 そんな未来を、一人の老女が予見した。

「……そう、中々に悪い未来ねぇ」

 すっかり冷めてしまった紅茶で渇いた喉を潤し、軽く溜息を吐く。
 長い白髪を後ろで三つ編みにし、黒いローブ姿はまるで絵本に出てくる魔女のようだ。
 老女は椅子から立ち上がり、背筋を真っ直ぐ伸ばして歩き出す。向かった先は玄関で、古い扉を開けると一面草原が広がる外へと出た。青空が無限に広がり、微風が老女の頬を撫でる。いつもならその心地よさに気分を良くするのだろうが、今はそんな気分には浸れない。

「やれやれ……アタシの千里眼で視てしまったからには、当たるのが常なんだけどねぇ。さて、どうしてものか……」

 老女はいずれ来たる禍をどうやって回避しようかと頭を悩ます。しかし今の己に出来る事は何一つ無く、ただ待つ事しか出来ない現状に溜息を吐いてしまう。

「来るべき時が来たのかねぇ……フム……?」

 ふと、老女は空を見上げた。視線は空に向いているが、その紅い瞳は空を映してはいない。
 老女はニヤリと笑い、これは面白いと年甲斐も無く胸を躍らせる。

「そうかい、そうかい……! あの坊やが来るかい! なら、大人しく待っていようかねぇ」

 老女は笑いながら小屋へと戻っていった。
 老女が視た未来とは、果たして光か闇か。
 それを老女以外が知るのは、まだ先の話である。





 少女は暗闇の中で目を覚ました。
 身体に身に纏う布はあらず、白く美しい肌とメリハリのある身体を露わにしたまま、岩のベッドから降りる。少女の足下には幾つもの骸が転がっており、それが日常なのか少女は気にせず、まるで部屋に落ちているゴミのように足で退かしながら歩く。
 少女が向かった先には、妖しく光り輝く魔力の膜があり、その向こう側には何かがある。
 その何かに縋るように撓垂れ、ブツブツと何かを呟く。

「――うん――うん――わかった――ここに連れてきたらいいんだね――」

 少女は妖しく笑い、立ち上がってその場から立ち去っていく。
 魔力の膜の向こう側で、何かが嗤った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...