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とある小部屋の一室。
一人の女性は重い口を開いた。
[今から話すのは、不思議な能力者、ビジョンを持つ者のはかない物語。
信じてもらえるとは思っていない。
証拠がないから。
でも私は読み上げる。
理解してもらえなくても、伝えないといけない。]
vision (ビジョン) 意味:
1、視力、視覚
2、将来の構想。将来を見通す力。また、洞察力。
夕方、学校のとある教室。
村上ミライが小声で言う。
「こっちだ、急げ」
教室をこっそりでて、小走りで廊下を駆け抜ける男子二人村上ミライと斉藤ヒロ。
「急げ、急げ」
階段をかけ下りる。
廊下を通った女子が階段下を見る。
男子二人は廊下の分かれ道で一度止まる。
村上が目をつぶる。左目は眼帯をしているから右目が動くだけだ。
そして右目を開いて右へ走る。
村上は叫んだ。
「こっちだ!」
斉藤も後に続く。
数秒後、廊下を左に曲がった奥にある教室から一人の男子が出てきた。
何かを探してる様子だ。
村上と斉藤は建物を出て、また村上が目をつぶり、そして目を開けてから二人で左の方に走った。
右では大量の書類を抱え込んだ男が建物の裏からでるところだった。
二人は急いで物陰に隠れた。
斉藤が周りを見ていった。
「今回は成功かな」
斉藤がカギをちらつかせる。
すると、突然二人の声よりも高い声が聞こえた。二人は驚いて飛び上がりそうになった。
「残念だけど、失敗みたいね」
奥の陰から女子が出てきた。廊下で二人を後ろから見ていた三浦さえだ。
三浦「カギが盗めても、私に見つかってるし、ここにくることもバレてるからビジョン失敗」
村上「なんだ、また失敗かよ」
村上が崩れて座りこむ。
「今回の問題点は?」
三浦は言った。
「とにかく集中すること。雑念が入ると全く読めなくなる」
「わかってんだよそんなこと」
村上はいらついた様子だ。
斉藤がなだめるように言う。
「もう一回やってみる?」
「何度も練習するしかないって」
同じ練習を繰り返そうと言う三浦に村上は言った。「いつまでやる?誰にもバレずにカギを盗んでくることができるようになるにはかなりの時間がかかりそうだよ?」
村上が一瞬横を見てふと笑う。
斉藤が村上がみた方を見ると、数秒後横を通った男子が石につまずいてよろける。
彼はこっちをみると、恥ずかしそうに小走りで去った。
三浦は村上に強く言った。「ねえ、集中してって。」
斉藤も村上の方を向いた。
「とにかくもう一回やってみよう」
「やりますか」
仕方ないといった様子で、村上は下を向いていた顔をあげた。
何度目だろうか。三浦からのアドバイス。
「いい?目をつぶって"今"を考える。
すると、自然と未来が見えるから」
村上は辺りを見回して返事した。
「わかった。もう一度試してみる」
「未来が見えるってどんな気分なの?」
二人の手伝いをしてはいるが、斉藤には未だによくわかってない。興味本位で二人についていってるのだ。
村上は眼帯に手を当てて、左目を撫でるようにしながら言った。
「なんというか、夢?そう、夢みたいに映像が脳内を駆け巡る」
「想像できないな、羨ましい限りだよ」
斉藤はニヤついて言った。
三浦はふと思ったことを斉藤に聞いた。
「斉藤、まさか周りの人に言ってないよね?」
「大丈夫。お前たちの事は誰にもいってないよ」
大丈夫だとは思うが。
「本当に言わないでよ?パニックになったり、
捕まったりしたら大変なんだから」
「はいはい」
「捕まったら、人体実験でもされるんだろうな」
村上がふと呟いた、そのときだった。
三浦が急に叫んだ。
「待って!!」
と、間もなく銃声が響いた。
前方を見ると白いマスクをした男が一人銃を構えて立っていた。
三浦が腹部を押さえて弱々しく倒れる。
一瞬の沈黙のあと村上が叫んだ。
「さえぇぇぇぇぇぇ!!」
斉藤はあっけにとられて声もでない。
マスクの男が村上に狙いを定めた。そして発砲。
しかし、村上は銃弾の飛んでくる方向を予測して避けていく。
マスクの男は何発か撃ったが全く当たらない。
撃つのをやめ、周りを確認すると後ろを振り返り逃げていった。
村上が三浦の体に駆け寄った。
「さえ!おい、さえ!」
声をかけても反応がない。
息を確認するが、してなかった。
斉藤も近づいて声をかける。
「さえ?....」
ふと見るとマスクの男はいつの間にか遠くにいた。
ゆっくり歩いている。足を引きずっているようにも見える。そして、物陰に消えた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
村上は走って追いかけようとしたが、斉藤が止めに入った。
「やめとけ!無理だよ、無理。
警察だ、はやく通報しよう。救急車も」
村上は凄い形相で叫んだ。「くそ!ふざけんなーー!!」
「はっ」
村上ミライは机の上で目を覚ました。
目の前には斉藤ヒロが座っている。
「どうした?大丈夫か?」
どうやら、勉強してる途中で寝てしまったらしい。
「ああ」
斉藤が聞いた。
「疲れてんじゃないか?」
村上は下を向いてため息をついた。
二人は学生会館を出て、帰る途中。
斉藤が村上に言った。「お前、あの事件以来本当に暗いよな」
「当たり前だろうが」
村上は文字通り暗い。
斉藤は元気付けようとする。「いや、そろそろ前に進まないと」
「忘れることはできないよ、いつも夢にでてくる。」
斉藤はあの時起こったことを思い出した。
「わかるよ?その気持ちはわかるけどさ、前向きにならないと。何もかも終わった訳じゃないんだから」
「もう終わった。お前にはわからねーよ」
村上は投げやりだ。
「たしかにさえは戻ってこないよ。でもそんなこと言ってたって先へは進まないだろ?お前には常に先があるんだ。見えるんだろ?力があるんだ」
「力があるからどうした?役に立たなければ意味がない」
どんどんネガティブになる村上を斉藤は元気付けたかった。
「だから訓練してるんだろ?常に未来が、できるだけ具体的に未来が見えるよう努力してきた。さえもお前がはやく正確なビジョンが習得できるようにって手伝ってくれてたし、頑張らねーと」
斉藤が村上の眼帯を触る。
「力を使いこなせてれば、こんな傷を追わなかっただろ?不良に襲われる前に通報するなんて楽勝だった」
村上は過去を振り払うように言う。
「たしかに練習してきたよ。だいぶ視界がクリアになった。でも、この能力を何に使えばいいんだよ?」
「そんなの自分で考えろって。
せっかく授かった力だ。前から言ってるが、俺はお前に希望を持ってるんだよ。
ミライ、授かった力を有効に使え。人を助けるんだ。」
一人の女性は重い口を開いた。
[今から話すのは、不思議な能力者、ビジョンを持つ者のはかない物語。
信じてもらえるとは思っていない。
証拠がないから。
でも私は読み上げる。
理解してもらえなくても、伝えないといけない。]
vision (ビジョン) 意味:
1、視力、視覚
2、将来の構想。将来を見通す力。また、洞察力。
夕方、学校のとある教室。
村上ミライが小声で言う。
「こっちだ、急げ」
教室をこっそりでて、小走りで廊下を駆け抜ける男子二人村上ミライと斉藤ヒロ。
「急げ、急げ」
階段をかけ下りる。
廊下を通った女子が階段下を見る。
男子二人は廊下の分かれ道で一度止まる。
村上が目をつぶる。左目は眼帯をしているから右目が動くだけだ。
そして右目を開いて右へ走る。
村上は叫んだ。
「こっちだ!」
斉藤も後に続く。
数秒後、廊下を左に曲がった奥にある教室から一人の男子が出てきた。
何かを探してる様子だ。
村上と斉藤は建物を出て、また村上が目をつぶり、そして目を開けてから二人で左の方に走った。
右では大量の書類を抱え込んだ男が建物の裏からでるところだった。
二人は急いで物陰に隠れた。
斉藤が周りを見ていった。
「今回は成功かな」
斉藤がカギをちらつかせる。
すると、突然二人の声よりも高い声が聞こえた。二人は驚いて飛び上がりそうになった。
「残念だけど、失敗みたいね」
奥の陰から女子が出てきた。廊下で二人を後ろから見ていた三浦さえだ。
三浦「カギが盗めても、私に見つかってるし、ここにくることもバレてるからビジョン失敗」
村上「なんだ、また失敗かよ」
村上が崩れて座りこむ。
「今回の問題点は?」
三浦は言った。
「とにかく集中すること。雑念が入ると全く読めなくなる」
「わかってんだよそんなこと」
村上はいらついた様子だ。
斉藤がなだめるように言う。
「もう一回やってみる?」
「何度も練習するしかないって」
同じ練習を繰り返そうと言う三浦に村上は言った。「いつまでやる?誰にもバレずにカギを盗んでくることができるようになるにはかなりの時間がかかりそうだよ?」
村上が一瞬横を見てふと笑う。
斉藤が村上がみた方を見ると、数秒後横を通った男子が石につまずいてよろける。
彼はこっちをみると、恥ずかしそうに小走りで去った。
三浦は村上に強く言った。「ねえ、集中してって。」
斉藤も村上の方を向いた。
「とにかくもう一回やってみよう」
「やりますか」
仕方ないといった様子で、村上は下を向いていた顔をあげた。
何度目だろうか。三浦からのアドバイス。
「いい?目をつぶって"今"を考える。
すると、自然と未来が見えるから」
村上は辺りを見回して返事した。
「わかった。もう一度試してみる」
「未来が見えるってどんな気分なの?」
二人の手伝いをしてはいるが、斉藤には未だによくわかってない。興味本位で二人についていってるのだ。
村上は眼帯に手を当てて、左目を撫でるようにしながら言った。
「なんというか、夢?そう、夢みたいに映像が脳内を駆け巡る」
「想像できないな、羨ましい限りだよ」
斉藤はニヤついて言った。
三浦はふと思ったことを斉藤に聞いた。
「斉藤、まさか周りの人に言ってないよね?」
「大丈夫。お前たちの事は誰にもいってないよ」
大丈夫だとは思うが。
「本当に言わないでよ?パニックになったり、
捕まったりしたら大変なんだから」
「はいはい」
「捕まったら、人体実験でもされるんだろうな」
村上がふと呟いた、そのときだった。
三浦が急に叫んだ。
「待って!!」
と、間もなく銃声が響いた。
前方を見ると白いマスクをした男が一人銃を構えて立っていた。
三浦が腹部を押さえて弱々しく倒れる。
一瞬の沈黙のあと村上が叫んだ。
「さえぇぇぇぇぇぇ!!」
斉藤はあっけにとられて声もでない。
マスクの男が村上に狙いを定めた。そして発砲。
しかし、村上は銃弾の飛んでくる方向を予測して避けていく。
マスクの男は何発か撃ったが全く当たらない。
撃つのをやめ、周りを確認すると後ろを振り返り逃げていった。
村上が三浦の体に駆け寄った。
「さえ!おい、さえ!」
声をかけても反応がない。
息を確認するが、してなかった。
斉藤も近づいて声をかける。
「さえ?....」
ふと見るとマスクの男はいつの間にか遠くにいた。
ゆっくり歩いている。足を引きずっているようにも見える。そして、物陰に消えた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
村上は走って追いかけようとしたが、斉藤が止めに入った。
「やめとけ!無理だよ、無理。
警察だ、はやく通報しよう。救急車も」
村上は凄い形相で叫んだ。「くそ!ふざけんなーー!!」
「はっ」
村上ミライは机の上で目を覚ました。
目の前には斉藤ヒロが座っている。
「どうした?大丈夫か?」
どうやら、勉強してる途中で寝てしまったらしい。
「ああ」
斉藤が聞いた。
「疲れてんじゃないか?」
村上は下を向いてため息をついた。
二人は学生会館を出て、帰る途中。
斉藤が村上に言った。「お前、あの事件以来本当に暗いよな」
「当たり前だろうが」
村上は文字通り暗い。
斉藤は元気付けようとする。「いや、そろそろ前に進まないと」
「忘れることはできないよ、いつも夢にでてくる。」
斉藤はあの時起こったことを思い出した。
「わかるよ?その気持ちはわかるけどさ、前向きにならないと。何もかも終わった訳じゃないんだから」
「もう終わった。お前にはわからねーよ」
村上は投げやりだ。
「たしかにさえは戻ってこないよ。でもそんなこと言ってたって先へは進まないだろ?お前には常に先があるんだ。見えるんだろ?力があるんだ」
「力があるからどうした?役に立たなければ意味がない」
どんどんネガティブになる村上を斉藤は元気付けたかった。
「だから訓練してるんだろ?常に未来が、できるだけ具体的に未来が見えるよう努力してきた。さえもお前がはやく正確なビジョンが習得できるようにって手伝ってくれてたし、頑張らねーと」
斉藤が村上の眼帯を触る。
「力を使いこなせてれば、こんな傷を追わなかっただろ?不良に襲われる前に通報するなんて楽勝だった」
村上は過去を振り払うように言う。
「たしかに練習してきたよ。だいぶ視界がクリアになった。でも、この能力を何に使えばいいんだよ?」
「そんなの自分で考えろって。
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