ビジョン

ステラー

文字の大きさ
上 下
1 / 10

1

しおりを挟む
とある小部屋の一室。
一人の女性は重い口を開いた。

[今から話すのは、不思議な能力者、ビジョンを持つ者のはかない物語。
信じてもらえるとは思っていない。
証拠がないから。
でも私は読み上げる。
理解してもらえなくても、伝えないといけない。]

vision (ビジョン)  意味:

1、視力、視覚
2、将来の構想。将来を見通す力。また、洞察力。

夕方、学校のとある教室。
村上ミライが小声で言う。
「こっちだ、急げ」
教室をこっそりでて、小走りで廊下を駆け抜ける男子二人村上ミライと斉藤ヒロ。
「急げ、急げ」
階段をかけ下りる。
廊下を通った女子が階段下を見る。
男子二人は廊下の分かれ道で一度止まる。
村上が目をつぶる。左目は眼帯をしているから右目が動くだけだ。
そして右目を開いて右へ走る。
村上は叫んだ。
「こっちだ!」
斉藤も後に続く。
数秒後、廊下を左に曲がった奥にある教室から一人の男子が出てきた。
何かを探してる様子だ。
村上と斉藤は建物を出て、また村上が目をつぶり、そして目を開けてから二人で左の方に走った。
右では大量の書類を抱え込んだ男が建物の裏からでるところだった。
二人は急いで物陰に隠れた。
斉藤が周りを見ていった。
「今回は成功かな」
斉藤がカギをちらつかせる。
すると、突然二人の声よりも高い声が聞こえた。二人は驚いて飛び上がりそうになった。
「残念だけど、失敗みたいね」
奥の陰から女子が出てきた。廊下で二人を後ろから見ていた三浦さえだ。
三浦「カギが盗めても、私に見つかってるし、ここにくることもバレてるからビジョン失敗」
村上「なんだ、また失敗かよ」
村上が崩れて座りこむ。
「今回の問題点は?」
三浦は言った。
「とにかく集中すること。雑念が入ると全く読めなくなる」
「わかってんだよそんなこと」
村上はいらついた様子だ。
斉藤がなだめるように言う。
「もう一回やってみる?」
「何度も練習するしかないって」
同じ練習を繰り返そうと言う三浦に村上は言った。「いつまでやる?誰にもバレずにカギを盗んでくることができるようになるにはかなりの時間がかかりそうだよ?」
村上が一瞬横を見てふと笑う。
斉藤が村上がみた方を見ると、数秒後横を通った男子が石につまずいてよろける。
彼はこっちをみると、恥ずかしそうに小走りで去った。
三浦は村上に強く言った。「ねえ、集中してって。」
斉藤も村上の方を向いた。
「とにかくもう一回やってみよう」
「やりますか」
仕方ないといった様子で、村上は下を向いていた顔をあげた。
何度目だろうか。三浦からのアドバイス。
「いい?目をつぶって"今"を考える。
すると、自然と未来が見えるから」
村上は辺りを見回して返事した。
「わかった。もう一度試してみる」
「未来が見えるってどんな気分なの?」
二人の手伝いをしてはいるが、斉藤には未だによくわかってない。興味本位で二人についていってるのだ。
村上は眼帯に手を当てて、左目を撫でるようにしながら言った。
「なんというか、夢?そう、夢みたいに映像が脳内を駆け巡る」
「想像できないな、羨ましい限りだよ」
斉藤はニヤついて言った。
三浦はふと思ったことを斉藤に聞いた。
「斉藤、まさか周りの人に言ってないよね?」
「大丈夫。お前たちの事は誰にもいってないよ」
大丈夫だとは思うが。
「本当に言わないでよ?パニックになったり、
捕まったりしたら大変なんだから」
「はいはい」
「捕まったら、人体実験でもされるんだろうな」
村上がふと呟いた、そのときだった。
三浦が急に叫んだ。
「待って!!」
と、間もなく銃声が響いた。
前方を見ると白いマスクをした男が一人銃を構えて立っていた。
三浦が腹部を押さえて弱々しく倒れる。
一瞬の沈黙のあと村上が叫んだ。
「さえぇぇぇぇぇぇ!!」
斉藤はあっけにとられて声もでない。
マスクの男が村上に狙いを定めた。そして発砲。
しかし、村上は銃弾の飛んでくる方向を予測して避けていく。
マスクの男は何発か撃ったが全く当たらない。
撃つのをやめ、周りを確認すると後ろを振り返り逃げていった。
村上が三浦の体に駆け寄った。
「さえ!おい、さえ!」
声をかけても反応がない。
息を確認するが、してなかった。
斉藤も近づいて声をかける。
「さえ?....」
ふと見るとマスクの男はいつの間にか遠くにいた。
ゆっくり歩いている。足を引きずっているようにも見える。そして、物陰に消えた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
村上は走って追いかけようとしたが、斉藤が止めに入った。
「やめとけ!無理だよ、無理。
警察だ、はやく通報しよう。救急車も」
村上は凄い形相で叫んだ。「くそ!ふざけんなーー!!」


「はっ」
村上ミライは机の上で目を覚ました。
目の前には斉藤ヒロが座っている。
「どうした?大丈夫か?」
どうやら、勉強してる途中で寝てしまったらしい。
「ああ」
斉藤が聞いた。
「疲れてんじゃないか?」
村上は下を向いてため息をついた。

二人は学生会館を出て、帰る途中。
斉藤が村上に言った。「お前、あの事件以来本当に暗いよな」
「当たり前だろうが」
村上は文字通り暗い。
斉藤は元気付けようとする。「いや、そろそろ前に進まないと」
「忘れることはできないよ、いつも夢にでてくる。」
斉藤はあの時起こったことを思い出した。
「わかるよ?その気持ちはわかるけどさ、前向きにならないと。何もかも終わった訳じゃないんだから」
「もう終わった。お前にはわからねーよ」
村上は投げやりだ。
「たしかにさえは戻ってこないよ。でもそんなこと言ってたって先へは進まないだろ?お前には常に先があるんだ。見えるんだろ?力があるんだ」
「力があるからどうした?役に立たなければ意味がない」
どんどんネガティブになる村上を斉藤は元気付けたかった。
「だから訓練してるんだろ?常に未来が、できるだけ具体的に未来が見えるよう努力してきた。さえもお前がはやく正確なビジョンが習得できるようにって手伝ってくれてたし、頑張らねーと」
斉藤が村上の眼帯を触る。
「力を使いこなせてれば、こんな傷を追わなかっただろ?不良に襲われる前に通報するなんて楽勝だった」
村上は過去を振り払うように言う。
「たしかに練習してきたよ。だいぶ視界がクリアになった。でも、この能力を何に使えばいいんだよ?」
「そんなの自分で考えろって。
せっかく授かった力だ。前から言ってるが、俺はお前に希望を持ってるんだよ。
ミライ、授かった力を有効に使え。人を助けるんだ。」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。 飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。 ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた—— 「そこに、"何か"がいる……。」 科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。 これは幽霊なのか、それとも——?

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

10日間の<死に戻り>

矢作九月
ミステリー
火事で死んだ中年男・田中が地獄で出逢ったのは、死神見習いの少女だった―…田中と少女は、それぞれの思惑を胸に、火事の10日前への〈死に戻り〉に挑む。人生に絶望し、未練を持たない男が、また「生きよう」と思えるまでの、10日間の物語。

愛しているのは誰?

明太子
ミステリー
記憶喪失となった青葉新を助けてくれたのは美貌の同級生 須王司だった。 昔の冷酷な行動が嘘であるかのように、面倒を見てくれる司に恩義を感じつつも、新は疑念が振り払えないでいた。 そんな新に過去の記憶の断片が甦る。 だが、それは恐ろしい事件の一部で…?

御院家さんがゆく‼︎ 〜橙の竪坑〜

涼寺みすゞ
ミステリー
【一山一家】 喜福寺の次期 御院家さんである善法は、帰省中 檀家のサブちゃんと待ち人について話す。 遠い記憶を手繰り寄せ、語られたのは小さな友達との約束だったが―― 違えられた約束と、時を経て発見された白骨の関係は? 「一山一家も、山ん無くなれば一家じゃなかけんね」 山が閉まり、人は去る 残されたのは、2人で見た橙の竪坑櫓だけだった。 ⭐︎作中の名称等、実在のものとは関係ありません。 ⭐︎ホラーカテゴリ『御院家さんがゆく‼︎』主役同じです。

処理中です...