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二度目の奇跡も、お前となら
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蒸し蒸しとした暑さが残る夏の夜。
去年の今頃も今と同じように花火大会に向かっていたことを思い出しながら、ゆっくりと神社までの道のりを1人歩く。
建前として見合いの相手に会っていたところを湊に見られて、口論になった勢いで俺が湊に告白して、それでも強情で心配性なあいつは素直に受け止めきれなくて逃げ出していたことを思い返す。
結局、返事がYESなら花火大会の日に来てくれと俺が言って、今と同じように俺はカップルが歩く街並みをただ1人きりで歩いていたんだ。
去年も今も、俺はただ湊を不安にさせているばかりで、付き合っていても安心させてやることはできない。
ここに来ているカップルのように、堂々と手を繋いだり寄り添って歩いたり、そんな当たり前のことをお前にはしてやれない。
それでも俺は、湊と一緒にいたいんだ。
傷つけるばかりで与えてやれることの方が少なくても、俺の持てる限りの愛を湊だけに注ぐから。
神社の境内から見上げる真っ暗な夜空を見上げて、俺はただ祈ることしかできなかった。
神社の境内から離れた祭り会場が、ザワザワと人混みで賑やかに騒がしい。
腕時計もスマホも示す時間は19時15分。
着信もメールも受信は表示されていない。
俺の隣も、空白だ。
きっともうすぐ花火が上がるころだろう。
去年も1人で花火を見上げていた自分を思い出す。
花火が打ち上げ終わったころに俺の前に現れたお前は、人混みの中を走ってきたせいでせっかくの浴衣がボロボロで顔も涙でぐしゃぐしゃで、それでも走って俺の胸に飛び込んで『俺も、煌太さんが好きだ。』って、蚊の鳴くような小さな声で伝えてくれたんだ。
そんな奇跡のようなことはもう2度と起きないって、わかっているのにそれでも縋ってしまうのはお前が好きで好きで仕方ないからなんだ。
だから、お願いだ。
今年こそは一緒に花火を見上げてほしい。
「煌太さん!」
神社の境内に俺の名前を叫ぶ、あいつの声が響き渡る。
恐る恐る、声のする方を振り返る。
「湊、お前…。」
着崩れてもいない、涙でぐしゃぐしゃでもない、可愛くて仕方のない俺の恋人の姿がしっかりと俺の瞳に映っているはずなのに、ぐにゃりと歪んで見えるのはどうしてなのだろうか。
「煌太さん、何、泣いてるの…。」
そう言って俺に近づく湊に、俺は手を伸ばす。
「湊、お前、何時だと思ってんだよ。」
湊の頬に俺の手が触れる。
夢でも幻でもない、暖かい湊の体温を感じる。
「煌太さん、ごめん。遅れた。」
俺の頬に涙が一筋、流れ落ちる。
「湊、俺、お前が好きだ。これから先も、お前とだけ、ずっと花火が見たい。」
湊の華奢な身体をきつく抱きしめる。
もう2度と、この可愛い恋人を離さないように。
「俺だって、好きだよ。大好きだよ。当たり前じゃん。」
ドン、と花火の上がる音がして、俺たちの頭上に華やかな光りの束が拡がる。
「あ、花火だ。綺麗だ。」
「ああ、綺麗だな。」
花火を見上げるお前の方が何100倍も綺麗だってことは、ドラマの臭いセリフみたいで口が裂けても言えないけど、その綺麗で可愛い顔を今だけは俺に見せてほしいから。
「湊。」
振り向いたその唇に、触れるだけのキスを落とす。
驚きながらも綺麗に笑ったその顔を、俺は一生忘れることはないと誓った。
去年の今頃も今と同じように花火大会に向かっていたことを思い出しながら、ゆっくりと神社までの道のりを1人歩く。
建前として見合いの相手に会っていたところを湊に見られて、口論になった勢いで俺が湊に告白して、それでも強情で心配性なあいつは素直に受け止めきれなくて逃げ出していたことを思い返す。
結局、返事がYESなら花火大会の日に来てくれと俺が言って、今と同じように俺はカップルが歩く街並みをただ1人きりで歩いていたんだ。
去年も今も、俺はただ湊を不安にさせているばかりで、付き合っていても安心させてやることはできない。
ここに来ているカップルのように、堂々と手を繋いだり寄り添って歩いたり、そんな当たり前のことをお前にはしてやれない。
それでも俺は、湊と一緒にいたいんだ。
傷つけるばかりで与えてやれることの方が少なくても、俺の持てる限りの愛を湊だけに注ぐから。
神社の境内から見上げる真っ暗な夜空を見上げて、俺はただ祈ることしかできなかった。
神社の境内から離れた祭り会場が、ザワザワと人混みで賑やかに騒がしい。
腕時計もスマホも示す時間は19時15分。
着信もメールも受信は表示されていない。
俺の隣も、空白だ。
きっともうすぐ花火が上がるころだろう。
去年も1人で花火を見上げていた自分を思い出す。
花火が打ち上げ終わったころに俺の前に現れたお前は、人混みの中を走ってきたせいでせっかくの浴衣がボロボロで顔も涙でぐしゃぐしゃで、それでも走って俺の胸に飛び込んで『俺も、煌太さんが好きだ。』って、蚊の鳴くような小さな声で伝えてくれたんだ。
そんな奇跡のようなことはもう2度と起きないって、わかっているのにそれでも縋ってしまうのはお前が好きで好きで仕方ないからなんだ。
だから、お願いだ。
今年こそは一緒に花火を見上げてほしい。
「煌太さん!」
神社の境内に俺の名前を叫ぶ、あいつの声が響き渡る。
恐る恐る、声のする方を振り返る。
「湊、お前…。」
着崩れてもいない、涙でぐしゃぐしゃでもない、可愛くて仕方のない俺の恋人の姿がしっかりと俺の瞳に映っているはずなのに、ぐにゃりと歪んで見えるのはどうしてなのだろうか。
「煌太さん、何、泣いてるの…。」
そう言って俺に近づく湊に、俺は手を伸ばす。
「湊、お前、何時だと思ってんだよ。」
湊の頬に俺の手が触れる。
夢でも幻でもない、暖かい湊の体温を感じる。
「煌太さん、ごめん。遅れた。」
俺の頬に涙が一筋、流れ落ちる。
「湊、俺、お前が好きだ。これから先も、お前とだけ、ずっと花火が見たい。」
湊の華奢な身体をきつく抱きしめる。
もう2度と、この可愛い恋人を離さないように。
「俺だって、好きだよ。大好きだよ。当たり前じゃん。」
ドン、と花火の上がる音がして、俺たちの頭上に華やかな光りの束が拡がる。
「あ、花火だ。綺麗だ。」
「ああ、綺麗だな。」
花火を見上げるお前の方が何100倍も綺麗だってことは、ドラマの臭いセリフみたいで口が裂けても言えないけど、その綺麗で可愛い顔を今だけは俺に見せてほしいから。
「湊。」
振り向いたその唇に、触れるだけのキスを落とす。
驚きながらも綺麗に笑ったその顔を、俺は一生忘れることはないと誓った。
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