多分、愛じゃない

ゆきの(リンドウ)

文字の大きさ
上 下
98 / 102
番外編:多分、もう愛だった

(4)-1

しおりを挟む
「ユウリ、店は?」
「まだだけど、それより二人はどうしてここに?」

言いながら腕を取られ、ユウリの背中に隠された。

「すみません、油井さん。今、奏は僕とお付き合いをしているので、二人きりで会うことは控えていただいてもいいですか?」

はっきりそう言うとユウリは返事を待たずに、奏の腕を握ったまま、歩き出した。

ユウリが怒っている。その事実はわかるのに、克巳を放っておけない。

「ごめん、ユウリ!すぐ戻るからッ!」
「奏⁈」

ユウリの手を振り切り、克巳の元へと走った。

「奏、なんで」
「克巳、俺、今、幸せだよ?だから、克巳もちゃんと幸せになって。な?最後の約束」

笑ってそう言った。きっと伝わったはずだと思った。克巳も泣きながら笑ってくれた。

結局、ユウリの仕事が終わるまで店の中で待たせてもらうことになり、ユウリの部屋に着いたのは十二時を回った頃だった。

変な気まずさが部屋に漂っている。ユウリが怒っているのはわかるが、口を開けない。

『うまくいかないときはボディータッチだな』

良樹のアドバイスを思い出し、キッチンに立つユウリの背中にそっと腕を回した。

勇気を出したつもりだった。自分から行動しなければ何も変わらない。

なのに、振り払われてしまった。強くはないけれど、じんじん痛む気がする。

「ユウリ、なんで?」
「今のは、ごめん。突然でびっくりして」
「突然って俺たち、恋人同士だよな⁈」

つい、声を荒げていた。ショックだったのだ。恋人にスキンシップを拒まれてショックを受けない人はいない。

「怒ってるならなんか言ってよ。じゃないと俺、何から謝ればいいのかわかんない」
「…言っていいの?」
「いいよ」

瞬間、腕を痛いくらいに握られ、ベッドに押し倒された。

「…油井さんと二人で会ってるところ見て、自分の中であり得ないくらいにムカついた」
「うん」
「だって奏は僕の恋人だ。なのに、僕がいないところで二人で会うなんておかしいだろ?それとも奏、油井さんのところ戻りたくなった?」

酷いことを問われているなと思った。まるでユウリのことを好きじゃなくなったというように聞こえてしまう。

なのに、言い返せなかった。見下ろす瞳から今にも涙が溢れそうで、そんな顔をさせている自分が情けなくなる。

横に首を振った。するとユウリが、「じゃあ、なんで触らせたんだよ!」と叫ぶ。

「見間違いじゃなければ奏も油井さんに触ろうとしてたよね?」
「あれは、ごめん。無神経だった」
「なんで?なんでだよ、奏…」

頬に涙が一粒落ちて、二つ、三つと当たる。

「ユウリ、ごめんな」
「奏に触れるのは僕だけがいい。目も髪も頬も、全部僕だけが触りたい」
「うん、いいよ」
「もう、二人きりで会わないで?奏」
「わかった、もう会わない」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

何処吹く風に満ちている

夏蜜
BL
和凰高校の一年生である大宮創一は、新聞部に入部してほどなく顧問の平木に魅了される。授業も手に付かない状態が続くなか、気づけばつかみどころのない同級生へも惹かれ始めていた。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...