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番外編:多分、もう愛だった
(3)-1
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良樹に捲し立てられ、結局、クリスマスの夜に会うことにした。
時刻は夜の十一時。奏はユウリの店の前に立っていた。
そろそろかなと、店を見る。店の閉店時刻は午後十時。店仕舞いをしている頃合いだろう。
というのも実は、今日のことをユウリには直接、伝えられていないのだ。
毎日、寝るためだけに深夜に帰るユウリに会いたいとは言えなかった。
上手くいけばそろそろ出てくると思い、店を見る。すると、後ろから声を掛けられた。
「お兄さん、誰か待ってるの?」
見ると知らない若い男性で、酔っ払っているのかアルコール臭さが漂ってくる。
またか、と奏はウンザリしていた。克巳と付き合っていた頃から、こうして夜、出歩いていると声をかけられることがよくあった。
だから、遇らうことにも慣れていた。
「もう来るので、大丈夫です」
「って言って来る気配ないけどね」
「いえ、もう来るって連絡ありましたから」
何度かラリーをするが、今日の男性は引き下がる様子がない。もしかしてクリスマスだからだろうか。
たしかにクリスマスに一人は寂しくなる。なら、出歩かない方がまだマシだろう。
そう思いながらゲンナリしていると、男性に肩を抱かれた。
さすがに身体への接触はないな、とさり気なく振り切る。しかし、相手もしつこい。
いい加減にしてください、と強めに振り切った。すると、男性が舌打ちをして腕を掴んだ。
「なにするんですか?」
「お兄さんだってクリスマスに一人はキチィしょ?」
掴まれたまま、大股で進む男性に抗うが、力が強く、振り切れない。
いよいよ焦り、大声を出そうとしたときだった。
「奏」
「え、克巳…?」
懐かしい声が聞こえ、同時にもう片方の腕を取られた。
「なんだよ、てめぇ」
「すみません、僕の連れが何かしましたか?」
そう言うと男性は一瞬、怯んだような顔をしながら逃げていった。きっと、克巳の背の高さに怯んだのだろう。
「ありがとう、克巳」
「いや、その、たまたま通りかかって…」
相変わらず視線をキョロキョロとさせて言う克巳に、きっと嘘だろうなと思う。
「克巳、町から出たって聞いてたけど」
「ああ~…そう、なんだけど」
「…なんかあった?」
「うん…その、奏に渡したいものがあったから」
時刻は夜の十一時。奏はユウリの店の前に立っていた。
そろそろかなと、店を見る。店の閉店時刻は午後十時。店仕舞いをしている頃合いだろう。
というのも実は、今日のことをユウリには直接、伝えられていないのだ。
毎日、寝るためだけに深夜に帰るユウリに会いたいとは言えなかった。
上手くいけばそろそろ出てくると思い、店を見る。すると、後ろから声を掛けられた。
「お兄さん、誰か待ってるの?」
見ると知らない若い男性で、酔っ払っているのかアルコール臭さが漂ってくる。
またか、と奏はウンザリしていた。克巳と付き合っていた頃から、こうして夜、出歩いていると声をかけられることがよくあった。
だから、遇らうことにも慣れていた。
「もう来るので、大丈夫です」
「って言って来る気配ないけどね」
「いえ、もう来るって連絡ありましたから」
何度かラリーをするが、今日の男性は引き下がる様子がない。もしかしてクリスマスだからだろうか。
たしかにクリスマスに一人は寂しくなる。なら、出歩かない方がまだマシだろう。
そう思いながらゲンナリしていると、男性に肩を抱かれた。
さすがに身体への接触はないな、とさり気なく振り切る。しかし、相手もしつこい。
いい加減にしてください、と強めに振り切った。すると、男性が舌打ちをして腕を掴んだ。
「なにするんですか?」
「お兄さんだってクリスマスに一人はキチィしょ?」
掴まれたまま、大股で進む男性に抗うが、力が強く、振り切れない。
いよいよ焦り、大声を出そうとしたときだった。
「奏」
「え、克巳…?」
懐かしい声が聞こえ、同時にもう片方の腕を取られた。
「なんだよ、てめぇ」
「すみません、僕の連れが何かしましたか?」
そう言うと男性は一瞬、怯んだような顔をしながら逃げていった。きっと、克巳の背の高さに怯んだのだろう。
「ありがとう、克巳」
「いや、その、たまたま通りかかって…」
相変わらず視線をキョロキョロとさせて言う克巳に、きっと嘘だろうなと思う。
「克巳、町から出たって聞いてたけど」
「ああ~…そう、なんだけど」
「…なんかあった?」
「うん…その、奏に渡したいものがあったから」
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