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愛じゃない気持ちのこれから先。
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見上げれば、もう落ち葉が舞い始めていた。頬に触れる空気も、気が付けば冷たいものに変わりつつある。
身体はもうすっかり元通りになった。けれど、大事にしすぎて鈍っている。
しばらくは、電車は控えるか、と思いながら待ち人を待っていた。平日の夜は、人がまばらでちょうどいい。
「奏!」
「ユウリ」
「待った?」
「いや、待ってない」
言うと、待っただろ?と言われた。ユウリにはお見通しのようだ。
「仕事、忙しいのか?」
「うーん、まあ、それなりにかな?」
眉を下げて苦笑い。ユウリがそうする時は、大抵、誤魔化しているときだ。
ユウリの仕事は最近、忙しくなりつつある。というのも、時期的にクリスマス商戦に向けて案を練りださなければならないらしい。
決して弱音を吐かないユウリの事情を聴くことができたのは偶然で、この前、家で呑んだ時に酔ったユウリがぽつりと吐き出したのだ。
忙しいのに悪いな。そう思う反面、けれど会えないのは結構辛い。少しの時間でも会いたいと思うのはきっと、俺がユウリのことを好きな証拠だ。
並んで歩くと少し見上げる位置にあるユウリの顔を見る。と、すぐに目が合い、ほほ笑まれた。そういうとき、俺は少し恥ずかしくなる。
日が落ちてライトにアップされた道を歩いた。落ち葉が外灯に照らされる光景が妙に綺麗だと、最近、俺たちはよくここに来る。
「今日も綺麗だね」
言われ、この風景のことのはずなのに照れてしまった。ユウリに目を見つめられて言われるといつも錯覚してしまいそうになる。
ふいに、右手がうずうずした。右手の先にはユウリの左手がある。
けれど絶対、ユウリからは差し伸ばしてくれないこともわかっていた。ユウリはいつだって俺を尊重してくれる。俺が嫌だと言ったことは絶対にしない。
今も嫌なわけじゃないのに。
ユウリと正式に付き合い始めてからしばらく経つ。が、ユウリからは触れられない。
試しに自分から触れてみようか。そう思ったこともある。なのに、触れてみようと差し出す手が震えたのには笑えた。結局、意気地がないのは自分も同じだ。
けれどいい加減、限界だった。好きなら触れたい、当たり前だ。でもきっと、ユウリは遠慮している。
きっと、克巳とのことをユウリは気にしているのだ。一応、最後に会ったことは報告しているが、もしかしたらまだ、俺が克巳に想いが残っていると思われているのかもしれない。
きっと俺から歩み寄るしかない。そう決心し、さり気なくユウリの手を握る。と、すごい勢いで離されてしまった。
「えっと、嫌、だった?」
まさか、そんな反応をされるとは思ってもいなかった。だって恋人だ、普通、手を繋ぐだろう。
一気に不安が過った。もしかして恋人だと思っているのは自分だけなのだろうか。克巳といろいろあったからユウリはただ、気を遣ってくれているだけなのだろうか。
考えると涙が出そうになる。もし、そうだとしたらかなりショックだ。
まともに顔を見られない。逸らすように俯いたとき、ユウリの慌てる声が聞こえた。
身体はもうすっかり元通りになった。けれど、大事にしすぎて鈍っている。
しばらくは、電車は控えるか、と思いながら待ち人を待っていた。平日の夜は、人がまばらでちょうどいい。
「奏!」
「ユウリ」
「待った?」
「いや、待ってない」
言うと、待っただろ?と言われた。ユウリにはお見通しのようだ。
「仕事、忙しいのか?」
「うーん、まあ、それなりにかな?」
眉を下げて苦笑い。ユウリがそうする時は、大抵、誤魔化しているときだ。
ユウリの仕事は最近、忙しくなりつつある。というのも、時期的にクリスマス商戦に向けて案を練りださなければならないらしい。
決して弱音を吐かないユウリの事情を聴くことができたのは偶然で、この前、家で呑んだ時に酔ったユウリがぽつりと吐き出したのだ。
忙しいのに悪いな。そう思う反面、けれど会えないのは結構辛い。少しの時間でも会いたいと思うのはきっと、俺がユウリのことを好きな証拠だ。
並んで歩くと少し見上げる位置にあるユウリの顔を見る。と、すぐに目が合い、ほほ笑まれた。そういうとき、俺は少し恥ずかしくなる。
日が落ちてライトにアップされた道を歩いた。落ち葉が外灯に照らされる光景が妙に綺麗だと、最近、俺たちはよくここに来る。
「今日も綺麗だね」
言われ、この風景のことのはずなのに照れてしまった。ユウリに目を見つめられて言われるといつも錯覚してしまいそうになる。
ふいに、右手がうずうずした。右手の先にはユウリの左手がある。
けれど絶対、ユウリからは差し伸ばしてくれないこともわかっていた。ユウリはいつだって俺を尊重してくれる。俺が嫌だと言ったことは絶対にしない。
今も嫌なわけじゃないのに。
ユウリと正式に付き合い始めてからしばらく経つ。が、ユウリからは触れられない。
試しに自分から触れてみようか。そう思ったこともある。なのに、触れてみようと差し出す手が震えたのには笑えた。結局、意気地がないのは自分も同じだ。
けれどいい加減、限界だった。好きなら触れたい、当たり前だ。でもきっと、ユウリは遠慮している。
きっと、克巳とのことをユウリは気にしているのだ。一応、最後に会ったことは報告しているが、もしかしたらまだ、俺が克巳に想いが残っていると思われているのかもしれない。
きっと俺から歩み寄るしかない。そう決心し、さり気なくユウリの手を握る。と、すごい勢いで離されてしまった。
「えっと、嫌、だった?」
まさか、そんな反応をされるとは思ってもいなかった。だって恋人だ、普通、手を繋ぐだろう。
一気に不安が過った。もしかして恋人だと思っているのは自分だけなのだろうか。克巳といろいろあったからユウリはただ、気を遣ってくれているだけなのだろうか。
考えると涙が出そうになる。もし、そうだとしたらかなりショックだ。
まともに顔を見られない。逸らすように俯いたとき、ユウリの慌てる声が聞こえた。
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