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恋じゃなくて、多分、愛じゃない
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素直に悔しかった、情けなかった。克巳とこの家にいた三年間がまるで何も生み出せなかった無駄な時間のように思えた。
…結局、克巳は俺のことなんて愛してもいなかった。むしろ、好きでもなかったんだ。
汚れた口元をジャケットの裾で荒々しく拭い、フラフラと立ち上がった。
本当は少しだけ、ほんの少しだけ期待していた。
もし、今日克巳に会えたなら、今までのこと全部話してそれから仲直りできたら、その時にまだ克巳を好きだと思えたら、克巳も俺のことをまだ好きだと思ってくれたなら。
また、以前のような関係に戻れるかもしれない。
東雲先生に殴られかけたあの時、咄嗟かもしれないけれど庇ってくれた。だからまだ少しは、ほんの少しは想ってくれているのだろうか。
そう思いたかった、思ったままでいたかったんだ。
あらぬ期待は結果、妄想となった。胃液を出したせいで眩暈のする身体を気力で起こし、ようやく自室へと向かった。
ほっとした、それが自室の扉を開けた一番の感想だった。
克巳の部屋と同じ片開きの扉を開けると、そこは慣れ親しんだ俺の部屋だった。
一人暮らしの時から使っていたシングルのベッド、ごちゃごちゃと文房具や文庫本が積み重なった乱雑なデスク、気持ちばかりにと飾ったフェイクグリーン、全体的に冴えるブルーの色合い。
そして馴染んでいつもは分からないはずの、自分の匂い。
まさか自分の匂いに安心させられる日が来るなんて、思いもしなかった。
同時にこの部屋には入らせていないんだなと、安堵感が込み上げたったそれだけの、当たり前のことに心底安心した。
ヘナヘナと座り込みそうになる身体を叱咤し、閉じられっぱなしのクローゼットを開いた。
…ここに来た目的を忘れるな。
言い聞かせながらこの期に及んでまだ涙しそうになる自分に喝を入れる。
ここに来ることを決めたのは、昨日。そして、克巳との家を出ることを決めたのも昨日だった。
『…結局付き合っている方から顛末を聞いたその方は、非常にお怒りになったそうで東雲さんに対してきつく怒ったそうなんです。その態度に激情した東雲さんは、その方につかみかかったそうです』
…結局、克巳は俺のことなんて愛してもいなかった。むしろ、好きでもなかったんだ。
汚れた口元をジャケットの裾で荒々しく拭い、フラフラと立ち上がった。
本当は少しだけ、ほんの少しだけ期待していた。
もし、今日克巳に会えたなら、今までのこと全部話してそれから仲直りできたら、その時にまだ克巳を好きだと思えたら、克巳も俺のことをまだ好きだと思ってくれたなら。
また、以前のような関係に戻れるかもしれない。
東雲先生に殴られかけたあの時、咄嗟かもしれないけれど庇ってくれた。だからまだ少しは、ほんの少しは想ってくれているのだろうか。
そう思いたかった、思ったままでいたかったんだ。
あらぬ期待は結果、妄想となった。胃液を出したせいで眩暈のする身体を気力で起こし、ようやく自室へと向かった。
ほっとした、それが自室の扉を開けた一番の感想だった。
克巳の部屋と同じ片開きの扉を開けると、そこは慣れ親しんだ俺の部屋だった。
一人暮らしの時から使っていたシングルのベッド、ごちゃごちゃと文房具や文庫本が積み重なった乱雑なデスク、気持ちばかりにと飾ったフェイクグリーン、全体的に冴えるブルーの色合い。
そして馴染んでいつもは分からないはずの、自分の匂い。
まさか自分の匂いに安心させられる日が来るなんて、思いもしなかった。
同時にこの部屋には入らせていないんだなと、安堵感が込み上げたったそれだけの、当たり前のことに心底安心した。
ヘナヘナと座り込みそうになる身体を叱咤し、閉じられっぱなしのクローゼットを開いた。
…ここに来た目的を忘れるな。
言い聞かせながらこの期に及んでまだ涙しそうになる自分に喝を入れる。
ここに来ることを決めたのは、昨日。そして、克巳との家を出ることを決めたのも昨日だった。
『…結局付き合っている方から顛末を聞いたその方は、非常にお怒りになったそうで東雲さんに対してきつく怒ったそうなんです。その態度に激情した東雲さんは、その方につかみかかったそうです』
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