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あるべき恋の姿

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 その日の夜は、自分で言うのもなんだがとても腑抜けたものだった。

 夕飯にと拵えた鶏肉と根菜のトマト煮込みのはずが、トマト缶をうっかり入れ忘れてしまいただの煮込みになってしまうし、コンソメスープのはずが肝心のコンソメではなく和風出汁の素を入れたようで鰹のいい香りが漂っている。

 結果、見事に和風な食卓となり良樹には全く違和感を感じられなかったが、個人的には違和感だらけだ。

 味としては普通ではあったが、予定していた味とは異なる味付けに少々、食欲が減退した。

「奏、なんかあった?」

 夕飯も終わり、食後のコーヒーをドリップしようとした際、誤ってコーヒー粉を多めに入れてしまいとても濃い仕上がりになったのを見計らってか、淹れ直してくれた良樹が声を掛けてくれた。

「…いや?なんもないよ」

「お前そろそろその無駄に誤魔化す癖、辞めなよ」

 呆れたように高そうなコーヒーカップを持ちながら良樹はそう言うが、悩みの種である今日の事の顛末を言えるはずがなかった。

 実は良樹にもユウリにも、東雲先生のことはぼんやりとしか伝えていないのだ。

 良樹もユウリも二人とも、超がつくほどに良い奴だ。現にまた、良樹の家に住まわせてもらっているし、ユウリに至ってはここに来るまでもそして今も尚、心配させてばかりである。

 だから尚更、言えない。東雲先生にされたあれこれを知れば二人の過保護ぶりに拍車をかけてしまうだけだ。

「本当に良樹はお節介焼きだな」

「はあ?そもそもお前が俺にそこまでさせてるんだからな、わかってんのか!」

「ごめんごめんって!良樹様、いつもありがとうございます」

 後ろからタックルしながらふざける良樹に、俺もふざけて返した。

 だが本音を言えば、誰かに言いたい。相談したい気持ちでいっぱいだった。

 藤原さんから聞いた話がどうも嘘偽りには思えない。

 仮に嘘だとしてもそれを俺に話すメリットは彼女にはないからだ。

 だとすれば、やはりこの先の未来は彼女の言うようになるというのだろうか。

 恐ろしい、その一言に尽きる。というのも俺の周りと東雲先生とでは、生きてきた世界観が全く異なるものである。
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